金融庁、「マネードクター」と生保の取引実態を調査

生命保険各社とFPパートナーとの取引実態について調査に乗り出した金融庁(編集部撮影)

「マネードクター」の名称で保険代理店事業を展開するFPパートナーと、保険販売(募集)を委託している生命保険各社との取引をめぐって、金融庁が実態調査に乗り出していることがわかった。

調査の対象となっているのは、FPパートナーの代理申請会社(幹事会社)となっている東京海上日動あんしん生命保険のほか、アフラック生命保険、SOMPOひまわり生命保険、メディケア生命保険、はなさく生命保険など。

金融庁が生保各社に報告を求めている項目は、①FPパートナーへの広告料の支払い状況と同広告料が適正と判断した根拠、②営業社員(募集人)候補の紹介数、③リーズ(見込み客)情報の提供数、④出向者の状況、⑤そのほかの本業支援の状況、と大きく5つある。

特に①の広告料については、相場や実態に見合わない不適正な料金を支払っていないか、アフラックやひまわり生命に対して「詳細に報告するよう求めてきている」(ひまわり生命関係者)という。

金融庁は、調査によってFPパートナーへの過剰な便宜供与や実質的な利益供与の疑いが強まった場合は、生保各社やFPパートナーへの立ち入り検査に踏み切ることも視野に入れているもようだ。

生保業界でも過剰な便宜供与

金融庁が調査に急きょ乗り出したのはなぜか。それは昨夏からの「損保不正」問題を受けて、構造要因となった保険会社による過剰な便宜供与を解消しようと、対策を講じている真っ最中だったからだ。

旧ビッグモーターによる保険金不正請求問題では、損害保険会社が修理の必要な事故車を優先的に紹介(入庫紹介)し、その見返りとして保険契約を旧ビッグモーターから割り振ってもらうという、いびつな取引が背景にあった。

さらに旧ビッグモーターは、保険会社からの出向者による業務支援や、事故査定の簡略化などさまざまな便宜供与、本業支援の実績を基にして、特定の損保の自動車保険を集中的に推奨する店舗を、「テリトリー」として割り振るなどして、損保をアゴで使うような力関係に変わっていったという経緯がある。

損保不正問題を受けて、金融庁が設置した有識者会議の報告書案にはこう書かれている。「(複数の保険会社の商品を取り扱う)乗合代理店が損害保険会社からの便宜供与の実績等の理由により、当該損害保険会社の商品を推奨することを決定しておきながら、顧客に対して『特定の損害保険会社の事務に精通している』といった本来の理由を隠した説明を行っていたなど、比較推奨販売に関する規定が不適切に運用されていたことも明らかになった」。

誠実義務の趣旨も踏まえ、適切な比較推奨販売を

続いて報告書案では、「こうした実態を踏まえ、損害保険会社に対して、自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するための便宜供与を解消する措置の構築を求める」と記述。

乗り合い代理店に対しては、金融サービス提供法における「顧客等に対する誠実義務の趣旨も踏まえ、適切な比較推奨販売を行うよう求める必要がある」としている。

金融庁が定義する比較推奨販売とは、「顧客の意向を踏まえ、顧客の最善の利益を勘案しつつ、顧客にとって最適と考えられるものを比較又は推奨提案」することだ。また比較や提案の理由については「単に『経営方針』等のみにとどまるのではなく、顧客の立場に立ち、その顧客にとって提案商品が最適と考えた具体的な理由を分かりやすく説明する」ことを求めている。

この比較推奨販売は、2014年に改正された保険業法で新たに定められたもの。当時は、保険募集を専業とする生保系の乗り合い代理店に照準を合わせており、この10年の間に生保各社と乗り合い代理店では、募集人への教育やシステムの構築といった体制整備が進んだはずだった。

ところが、ふたを開けてみると、金融庁が損保不正問題への対応に注力している間に、生保各社と一部の乗り合い代理店の間で、ルールの潜脱を疑われるような取引が発覚。監視の目を盗むような行為に映ったことで、適正化に向けた調査に急きょ踏み切ることになったわけだ。

金融庁が問題視する広告料支払い

中でも金融庁が問題視しているのが、生保によるFPパートナーへの広告料の支払いだ。ここで言う広告とは、マネードクターのウェブサイトと店舗(5月末で27店舗)のサイネージに、保険会社の広告を表示するというもの。「その程度の規模なら、うちがもし払うとしても月100万円程度が限界かな」(生保役員)という声もある中で、アフラックは年9600万円、ひまわり生命は同6000万円を過年度に支払っていた。

FPパートナーは「マネードクター」のブランド名で事業展開している(編集部撮影)

「広告費(広告料)での支援について申し出てきている保険会社がある。保険各社の当社への支援については、別に時間を設定してご案内させて頂きたい」

ひまわり生命の複数の関係者によると、FPパートナーが株式上場した翌月の2022年10月、FPパートナーの黒木勉社長と会談した際、そうした趣旨の発言がひまわり生命側に対してあったという。

顧客の意向把握がおざなりになっていないか

ひまわり生命は当時、変額保険の発売を控えていた。取引強化に向けて、FPパートナーへ出資の打診をしたものの、黒木社長からはあえなく断られてしまった。ただ、そこで話は終わらず、あくまで他社の動きとして、広告料で支援する事例が紹介されたわけだ。6000万円の広告料の支払いは、同会談の後に実行されている。

そうした広告料などの支援が奏功したのかは定かではないが、アフラックとひまわり生命の一部商品は、現在実施しているFPパートナーの社内表彰キャンペーンにおいて、獲得保険料を5倍にしてカウント。さらに年末までの半年間における成績優秀者には、300万円から1000万円相当のストックオプション(株式購入権)を付与するとしている。

そうしたキャンペーンが、顧客の意向把握をおざなりにして、5倍でカウントされる商品を強引に勧めることに本当につながらないのか。金融庁の調査によって、そうした検証も今後進んでいくことになりそうだ。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)

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