高齢者を食い物にする「外貨建て保険」に潜むワナ

外貨建て保険のパンフレット

ターゲット型(目標到達型)外貨建て保険のパンフレット(写真:編集部撮影)
外貨建て保険の不適切な販売で金融庁から指導を受けた生命保険業界。他方、損害保険業界は「ビッグモーター」と「カルテル」の2大不正事案で経営の抜本改革を迫られている。
『週刊東洋経済』6月22日号の第1特集は「生保・損保の真価」。営業や収益の構造転換が待ったなしとなった両業界の最新事情を探る。

週刊東洋経済 2024年6/22号(生保・損保の真価)[雑誌]

「おめでとうございます! このまま資金を寝かせておくのではなくて同じ商品で、もう一度運用をしてみてはいかがでしょうか」

昨秋、70代の男性が首都圏にある地方銀行の資産運用窓口を訪れると、応対した行員からそう強く勧められた。

この男性は数年前、この地銀で大手生命保険会社のドル建て一時払い(保険料一括払い)保険を購入。その後、為替相場が円安に振れたことで、一時払い保険料の運用利率が目標の120%(円換算額)に達していた。

この保険商品は、目標に到達すると、払い込んだ保険料がドル建てから円建てに移行する仕組みになっており、円建て資産として利益が確定した状態にあった。

一度解約させ同じ商品を勧誘

外貨建て保険は、投資信託などの金融商品と違って、あくまで死亡保障がある保険商品だ。本来は、そのまま円建て資産として保有しながら、保険としての機能を維持しておくのが基本のはずだ。

しかし、冒頭で紹介した行員のセールストークは、契約している外貨建て保険を一度解約させ、同じ商品を再度契約させようと勧誘するものだった。

なぜ、そのような顧客を軽視した販売をするのだろうか。理由は大きく2つある。1つ目は、販売手数料稼ぎだ。

銀行が保険代理店として一時払いの外貨建て保険を販売すると、商品を供給する保険会社から契約初年度に、保険料の5〜7%程度の手数料を受け取れる。

契約2年度目以降も継続手数料を受け取れるが、それは保険料の0.1〜0.2%程度と極端に低くなる商品がほとんどだ。解約と契約を繰り返させることで、銀行が多くの初年度手数料を稼げるからくりになっている。

2つ目は、行員の業績評価。

銀行によっては、行員が外貨建て保険を販売したとき、円建ての保険と比べて3倍前後の評価をつけている。それゆえ、顧客の意向をいったん脇に置き、行員が目の色を変えて勧めてくるというわけだ。

また、同一商品を再契約させるのにも意味がある。もし、ほかの外貨建て商品を顧客に勧める場合は、一から複数商品の比較や概要、リスクの説明が必要になる。だが、一度契約したことのある商品ならば、そうした説明を一部省略できる。要するに手っ取り早く販売できるわけで、同一商品を多く再契約させられれば行員の効率は高まる。

店頭には資産運用をアピールする保険商品のパンフレットが多数並ぶ(写真:編集部撮影)

金融庁が注意喚起

こうした銀行による外貨建て保険の「回転売買」が今、大きな問題となっている。

金融庁が保険会社8社、大手銀行など8行、地銀13行を対象に調査したところ、目標到達型(ターゲット型)を中心として、外貨建て一時払い保険の実に約6割が、4年という短期間で解約されているという実態が明らかになった。

先述したように、あくまで保険商品であるため、長期契約が前提のはず。にもかかわらず短期間で半数以上が解約になっているというのは、異常と言うほかない。

さらに言えば、顧客が本来受け取れる利益を回転売買によって損なっている側面もある。なぜなら貯蓄性(投資性)保険商品は、短期間で解約すると「解約控除」というペナルティーがあるからだ。

10年未満での解約には解約控除を設定しているケースがほとんどで、4年未満で解約すると、保険料の4〜8%程度を差し引かれてしまう。その分、受け取れる解約返戻金が減ってしまうわけだ。

「ターゲット型ではない外貨建て商品を新たに開発して、供給してくれないか」

そうした要望が地銀から生命保険会社に相次いでいる。金融庁が外貨建て保険をめぐる一連の問題点を取り上げ、注意喚起する文書を出した今年4月以降のことだ。

見直すべきは販売方法

だが、ターゲット型であっても、目標値を設定しないという選択もできるため、商品自体に大きな問題があるわけではない。見直すべきはその販売方法であり、回転売買を助長している手数料体系や株主としての関係性だろう。

それを十分に理解していながら地銀がなおも新たな商品開発を生命保険会社に要望するのはなぜか。それは、金融庁がターゲット型商品の販売に目を光らせている中、これ以上にらまれないように「抜け穴になるような商品を別につくってほしい」というのが地銀の本音だからだろう。

外貨建て保険をめぐる金融庁と保険会社、銀行の不毛な「いたちごっこ」ははたしていつになったら終わるのだろうか。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)

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