「生保業界のビッグモーター」にすり寄る生保

FPパートナーは「マネードクター」のブランド名で事業展開している(編集部撮影)

〝生命保険業界のビッグモーター”──。同業者からそう呼ばれている保険代理店がある。東証プライム市場に上場するFPパートナーだ。多数の営業社員(募集人)を抱え、訪問販売型の代理店としては最大手だ。

足元の業績は好調だ。2023年11月期の売上高は305億円で、純利益は39億円。4年間で売上高は1.8倍、純利益は6.0倍に拡大しており、まさに破竹の勢いで成長している。

株価も右肩上がりで推移している。2022年の上場時は1700円前後で推移していたが、2024年3月には7500円を突破した。株式市場からの期待が高く、急成長中の企業であるのに、なぜそうした不名誉な呼ばれ方をしているのか。その理由を具体的に解き明かしていこう。

採用数の半分弱の退職を見込む

最初に注目すべきは、保険会社による営業社員の採用支援とあっせんだ。FPパートナーの営業社員数は、2023年11月末時点で2326人。「営業社員の増加が新規契約増加、売上高増加のドライバー」(IR資料)であるため、今期は700人の採用を計画している。

足し合わせれば、営業社員が今期末で3000人規模となるが、着地の見込み人数は2700人程度にとどまる。採用数の半分弱に当たる300人前後の退職を見込んでいるからだ。生保大手の比ではないほどの「ターンオーバー(大量採用、大量退職)」が起こっていることになる。採用が追いつかないため、FPパートナーは生保会社にも採用活動を手伝わせており、入社の見込みがありそうな人物をあっせんしてもらっている。

FPパートナーへの「募集人候補紹介」に、最も汗を流しているとされるのが、東京海上日動あんしん生命保険だ。関係者によると、あんしん生命の社員が、FPパートナーに興味がありそうな募集人を生保大手などから探し出して、グループの人材紹介会社、東京海上日動キャリアサービス(TCS)への登録を勧める。その後、TCSからFPパートナーに紹介するスキームになっているという。

SOMPOひまわり生命保険も負けていない。採用活動を担うFPパートナーの人材開発室に、ひまわりの社員2人を出向させているほか、各地でリクルートセミナーを開催。ひまわり生命のある社内資料には「セミナー集客数54人は全保険会社ナンバーワンを維持」「今後も引き続きセミナーへの集客をお願いいたします」とつづられている。

保険会社からFPパートナーへの紹介は、募集人だけではない。「リーズ」と呼ばれる保険契約の見込み客も、FPパートナーにせっせと無償で紹介している。FPパートナーによると、保険会社からのリーズ提供は「月1500件程度」(経営企画部)あるという。

リーズ提供は「はなさく(生命保険、以下同)、チューリッヒ、メディケア、アフラック、オリックスあたりが多い。各社ともホームページなどを通じて資料請求してきた人を、見込み客として紹介している」とFPパートナーの関係者は明かす。

見込み客の情報を1件1万1000円で販売

紹介を受けた見込み客の情報は、FPパートナーが自社の募集人に何と1件1万1000円で販売。それだけで同社には年間数億円の販売収入がある計算だ。リーズの販売収入は「売上原価から差し引く形で計上している」(経営企画部)のだという。

では、保険会社はなぜここまで、過剰ともいえる便宜供与を図っているのか。

それはひとえに、便宜供与の見返りとして、FPパートナーに自社の保険商品を優先的に取り扱ってもらいたいからにほかならない。

事故車を旧ビッグモーターに紹介する見返りとして保険契約を割り振られていた大手損害保険各社と、構図は同じだ。それが、生保業界のビッグモーターと呼ばれるゆえんでもある。

「便宜供与を超えて、利益供与だ」と金融庁幹部

便宜供与はそれだけではない。FPパートナーの内部資料によると、アフラックから年間9000万円超、ひまわり生命から6000万円を、広告料として過年度に受け取っている。FPパートナーが運営する、マネードクターのウェブサイトと店舗(5月末で27店舗)のサイネージボードに掲載する広告の料金というが、はたして相場に見合ったものなのか。

参考として、首都圏のターミナル駅構内にあるサイネージボードに広告を表示する費用は、年間で1億円近くとされている。それと同等の広告効果がマネードクターのサイトと店舗に本当にあるのか。「便宜供与を超えて、利益供与だ」と金融庁の幹部は眉をひそめる。

SOMPOひまわり生命保険は全国各地でFPパートナーの営業社員向け研修会兼懇親会を開催。総額数百万円の会場費用はひまわり側が負担している(編集部撮影)

FPパートナーの関係者によると、ひまわり生命はFPパートナーが上場した直後の2022年秋、出資の打診をしているといい、あの手この手での経営支援に余念がないようだ。

FPパートナーが、そうした生保からの各種支援実績を踏まえて、顧客に推奨する保険を決めているとすれば、顧客本位とは程遠い。1億円近い広告費を払っているアフラックの保険を販売すると、FPパートナーの社内表彰上の評価において、獲得保険料が「3倍でカウントされるようになっている」(FPパートナー関係者)。アフラックの保険を強力に勧める動機づけになっているようだ。

金融庁は乗り合い代理店に対し、顧客の意向をしっかり把握したうえで、複数の商品を比較して説明すること(比較推奨販売)を求めている。保険会社から乗り合い代理店に対する一連の便宜・利益供与は、そうした比較推奨販売を歪めるおそれがあり、「実に気持ち悪い。顧客本位から懸け離れている」と金融庁幹部は憤りを隠さない。

銀行法上の必要な届け出をしていなかったことも発覚

また、FPパートナーの複数の関係者によると、銀行代理業として住宅ローンの仲介も手がけている中で、営業拠点の変更などに伴う銀行法上の必要な届け出をしていなかったという「不祥事」が、4月以降に発覚したという。法令順守体制に不備があり、顧客本位とはいえないような業務運営が、一部でまかり通っているようだ。

FPパートナーは「現時点で不祥事案(不祥事件)は無いと認識している。不正確な情報によるものと考える。ついては(記事に)記載しないよう、お願いしたい」と回答している。

プライム上場の大規模代理店として力を持ったことで、生保各社がすり寄り、業界団体の生命保険協会が業務品質の高い代理店として認定しているというのが、FPパートナーの偽らざる実情だ。このビジネスモデルは今後も維持できるのだろうか。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)

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