習慣化がうまくいく「成長している感覚」とは?

アファメーション

習慣を定着させるには“成長実感”が重要です(写真:mits/PIXTA)
筋トレ、読書、英語……。続けたくても、なかなか続かない。そんな「習慣化」に悩む人は多いでしょう。「習慣を定着させるには、“成長実感”が重要です。そのために、毎日“達成感”を振り返ることがかかせません」と認知科学コーチングを展開する名郷根修氏は言います。同氏の新刊『習慣は3週間だけ続けなさい』から一部抜粋、編集してお届けします。

「成長実感」を意識的に感じる

「今年こそ健康的な生活を送る」

「来月から朝型に生活リズムを切り替える」

「来週から英語をもっと勉強する」

年明けや月初め、週初めに新しい習慣を始めようと目標を立てる人も多いはずです。どうにかして今の生活を変えたい。夢や目標を達成したい。ただ、多くの人は継続できず、挫折してしまっているのではないでしょうか。

多くの人が新しい習慣をつくろうと始めようとしても挫折してしまう理由のキーワードとなるのが「自己効力感」です。自己効力感は「自分ができる」と信じる力です。自己効力感はあくまでも主観なので、心の底から「できる」と信じられれば問題ありません。

自己効力感を高めるためには達成感を毎日振り返ることが欠かせません。1週目は自分でも「簡単にできる」と思えるくらいの小さいステップで始めるので、多くの人がクリアできると思います。

ただ、「できた」で終わるのではなく、達成感を振り返って、自分が「前に進んでいるんだ」という感覚を意識的に味わう姿勢が重要になります。

認知科学の観点では、達成感の振り返りは、ポジティブな感情を強化します。成功体験を思い出すことでポジティブな感情を引き起こし、ドーパミンなどの脳の報酬系を活性化させるからです。

ドーパミンは快感や報酬と関連しており、これが放出されることでモチベーションが向上し、自己効力感が強化されます。達成感を振り返ることは、成功体験を強調する手段です。自分ができたことに焦点を当てることで、自己評価が向上し、「また達成できた。このまま続けていれば理想の自分になれる」と自分に対する自信や自己効力感がさらに増大します。

小さな成功体験でも振り返ることは、前向きな思考パターンを形成する助けになります。成功に焦点を当てることで、失敗や障害を意識しなくなり、自分の能力を信じるポジティブな態度を養います。

過大な目標を立てて、三日坊主で続かないと「ああ、やっぱり自分にはできなかったな」というネガティブな思考パターンがつくられてしまいます。1日目1分、2日目2分でも成功することでそうした負のスパイラルに陥るのを防ぎます。

成功体験を振り返ることで、ポジティブな変化が生じる

毎日の小さな積み重ねでも振り返ることで「自分はやっぱりできるんだ」と自己効力感を高めるパターンをつくることが重要です。

少しでもいいから自分が前に進んでいると自覚できる仕組みをつくるのです。振り返り自体が、脳の可塑性を後押しします。成功体験をたびたび振り返ることで、脳が新しい結びつきを形成しやすくなり、ポジティブな変化が生じます。

また、達成感を振り返る習慣は、目標に対するモチベーションを維持するのに役立ちます。過去の成功体験を振り返ることで、「自分はこれだけできたんだ」と未来の目標に対する情熱や興奮を再確認し、継続的な努力への動機づけになります。

では、ここからは具体的な振り返りの方法をお伝えします。

①振り返り時間の確保

毎日の終わりに振り返りを行うために、特定の時間を確保します。たとえば、寝る前の10分や日課を終えた後など、一定の時間を振り返りのために割り当てます。難しければ数分、数十秒でも問題ありません。短い時間でも毎日振り返るようにしましょう。

②進捗の可視化と行動のトラッキング

次にあらかじめ作成したラフなプランをもとに進捗を可視化します。自分の成長や変化をグラフや表にして見ることで、自己効力感の向上につながります。その日に行った行動をメモやアプリを使ってトラッキングします。

どのような活動を行ったか、時間をどのように使ったかを詳細に記録します。これにより、日々の進捗が視覚的にわかりやすくなります。たとえば腹筋を1日目1回、2日目2回と取り組んだら、それを書いておきます。

そうすると積み重なりが目に見えてわかります。私の場合、お酒を飲みすぎないようにアプリを使っています。毎日どれだけアルコールを飲んだかを記録するだけの簡単な仕組みです。

飲酒量を記すと、「今日はよくできました」「今日は残念でしたね」などと表示されるのですが、自分がどれだけ継続的に節酒できているかが一目でわかります。最初の7日のハードルは低く設定すれば「よくできました」「よくできました」「よくできました」と毎日表示されます。

そうすると継続するモチベーションが自然と高まり「明日も頑張ろう」という気持ちになります。専用のアプリを使わなくても、ノートやスマホのメモに自分がわかるように記すだけでも問題ありません。

どのような方法がよいかは人それぞれです。自分が手間をかけずに簡単にできる方法を選ぶことが継続の観点からするといいでしょう。

③行動の確認

1日の終わりに、ラフなプランに対する行動ができたかどうかを確認します。時間をかける必要はありません。自分は一歩一歩進んでいるという意識を植えつけることが目的なので、「今日はできた」くらいのチェックで問題ありません。

④達成感の確認と肯定的なフィードバック

達成感を感じられる部分を見つけ、それに焦点を当てます。小さな成功でもかまいません。それに対して自分に肯定的なフィードバックを行い、成功を積極的に評価します。成功体験を意識して肯定的に捉えることがポイントです。

たとえば「腹筋を毎日50回やる」を目標に設定し、1日目1回、2日目2回、3日目3回と取り組んだとします。このとき、ゴールと現状の自分を意識してはいけません。「3日で3回できたけれども、あと47回もやらなきゃいけないのか……」と考えてしまうと、脳は自分の足りない部分を意識してとたんに実現できなそうな気になってしまうのです。

自己効力感が極端に下がります。ですから、「何回足りないか」ではなく、「何回できるようになったか」を意識して振り返りましょう。

5日目に5回できたら「1日目の1回の5倍もできた」と評価することで脳は自分が成長していると感じます。前に進めていることが実感できます。常にスタートした地点から現状に注目しましょう。

これらのステップを実践することで、「毎日達成感を振り返る」ことが自己効力感を高め、ポジティブな自己イメージを育むための有力な手段となります。

「確実に前に進んでいる!」と唱えるアファメーション

習慣化のプロセスで避けて通れないのが「アファメーション」です。アファメーションは、自分が達成しようとしていること、これからやろうとしていることを自分に言い聞かせるように積極的に繰り返し、自己効力感を高める手法です。

自分に対する肯定的な信念を強化し、望ましい状態や目標への達成感を高める効果があります。企業の研修やプロスポーツの現場でも採用されている方法です。

とはいえ、自分の達成しようとしていることをひたすら繰り返して言い聞かせればいいわけではありません。いくつかポイントがあります。まずは肯定的な表現で繰り返すことが重要です。

たとえば、「私は自分に自信を持っています」や「私は健康で幸せです」といったポジティブな文句がアファメーションの一例です。

そして、現在形で自分自身に言い聞かせることを忘れないでください。これは、将来の望ましい状態を現在の状態として捉え、実現性を高める役割があります。

たとえば、あなたが痩せたい目標を掲げていたとします。その場合、「痩せたい」「痩せるでしょう」ではなく「痩せています」とすでに実現しているかのような言葉がけをすると効果的です。

アファメーションは脳を変える効果があります。一度だけでなく、継続的に積極的な言葉を繰り返すことで、脳にポジティブなメッセージが浸透して、信念や態度の変化が促されます。

最新の研究でも、ポジティブな言葉は脳の神経伝達物質やニューロンの連結に影響を与え、ポジティブな感情や信念を強化することが示唆されています。可能な限り、自分の部屋などで声に出して試してください。周りに人がいて言葉に出しにくいときは声に出さずに、頭の中で言葉を思い浮かべるだけでも効果があります。

アファメーションは思考を無理やりポジティブに切り替える方法ではありません。前向きな考え方によって現実をよい方向に変える思考法(ポジティブシンキング)でもありません。

たとえばネガティブな思考の人でも「自分は痩せている」「自分は痩せている」と繰り返し自分に言い聞かせると、それが視覚化したことと同じように脳に伝わり、脳内の神経経路の配線を少しずつつなぎ変えるのです。その結果、自己効力感が高まり、思考が変わります。

ネガティブな人でも一時的に無理やりポジティブに考えられるようにするのではなく、思考法そのものが根本から変わるイメージです。バケツの中の水が最初は濁っていたのに、どんどん澄んでいく光景を思い浮かべてもらえるとわかりやすいかもしれません。

アファメーションを繰り返していれば揺り戻しで元に戻ってしまう可能性は低いのです。おそらく、あなたは「小さなステップから始めても大丈夫」と言われても半信半疑でしょう。でも、本当かなと思っていてもとりあえず試してみてください。

「私は確実に前に進んでいる!」というアファメーションを繰り返すことが、習慣化に向けた鬼門である最初の1週間の挫折を防ぐために非常に有効になります。アファメーションはポジティブな方向に焦点を当て、進捗を強調します。人は達成感を得ることで、モチベーションが向上し、目標に対する自信が高まります。現在の課題に対しても前向きな捉え方ができるようになります。

肯定的な言葉を唱えることで思考が変わる

たとえば「腹筋を1日1回ずつでは大きく変わらない」と思われるかもしれませんが、そこに注意を向けることで確実に前に進んでいることを自覚し、目標達成に向けて自己効力感を高められます。

アファメーションはネガティブな自己イメージや自己否定的な思考から抜け出し、ポジティブな心理的状態を養います。本当にそう思っていなくてもそう唱えることで思考が変わります。ですから、自分自身がネガティブな状態でもとりあえず肯定的な言葉を繰り返すことが重要になります。それにより脳の「GPS機能」が発動して、少しずつ脳が変わっていきます。

実際、認知科学の観点では、アファメーションによってポジティブな思考パターンが構築されることがわかっています。心理学者マーティン・セリグマンは、「楽観主義」に焦点を当て、ポジティブな思考が個人の心理的な健康や成功に与える影響を強調しています。

確実に前進しているという言葉は、現実の進捗を肯定し、楽観的な見方をかたちづくります。行動の習慣化も後押しします。心理学者バートン・ファンディッシュは、「習慣は、自己観念を形成し、自分に対する信念を強化する」と述べています。

確実に前進しているという言葉を定期的に唱えることで、行動パターンとして確立され、目標に対する積極的なアプローチが身につきます。では、ここからはアファメーションの具体的なやり方をお伝えします。

①毎日同じ時間にアファメーションを唱える

毎日同じ時間にアファメーションを唱えます。これはいつでもかまいませんが、1日の流れを考えれば、習慣化への取り組みを行って、取り組みを振り返った後が最適でしょう。本稿では1日の終わりの振り返りの後にアファメーションをすることをおすすめします。

②肯定的かつ具体的な文言を選定する

アファメーションは一人称が前提になります。文の主語に私、僕、俺などを盛り込みます。肯定的でかつ具体的な言葉を含むことが大切です。1週目の慣れないうちは「私は確実に前に進んでいる!」という言葉をまず発するのがいいでしょう。

その後に自分が将来なりたい姿を唱えましょう。取り組みの延長線上にある理想のイメージです。「腹筋がシックスパックになっている」「体重が65キロになっている」などです。

喜びの感情を五感で味わうようにイメージング

ここでのポイントは具体的な進捗や成果に焦点を当て、自分の行動や努力を称賛する表現を選ぶことです。たとえば運動習慣の場合、実際のその日の取り組みを振り返りながら、「この運動習慣(自分で決めた最終目標。たとえば毎朝30分散歩をする)を身につけて、体重が65キロになっています」とアファメーションをします。

汗をかく感触や健康的な食事の味わい、目標地点に到達したときの喜びの感情を五感で味わうようにイメージングします。五感で味わうようなイメージングは目標を設定したときのイメージングと同じです。

ここでは常に肯定的な表現を心がけてください。脳は否定的な言葉を言い聞かされても、その内容をイメージできないからです。脳の「GPS機能」は、あるイメージから何かを消し去ったり、何かをしていないイメージを描いたりすることができません。

たとえば、喫煙者が禁煙を目指している場合は「私はタバコを吸っていません」ではなく「私はノンスモーカーになっています」と肯定的な言い方を選んでください。肯定的な言い方をすれば、脳の「GPS機能」はノンスモーカーの姿や体臭、服装やふるまいをイメージすることができます。

脳はそのイメージを目指して行動を開始します。「GPS機能」はまず、「私は確実に前に進んでいる!」といった現在形の表現から始めてください。これにより、達成感を現在の状態として捉え、その実感を高めます。そして、②で述べた例のように、今日の取り組みを振り返りながら、自分が望むイメージを具体的な言葉でアファメーションしてください。

ここでは、たとえば、「私は痩せて筋肉質になっている」という言い方よりも、「私は痩せて筋肉質になって体重が65キロになっている」のほうが、脳の「GPS機能」が活用できます。「今より筋肉質になって10キロ痩せている」のような形ではなく理想とする具体的な体重をイメージすることを心がけましょう。

ですから、たとえばダイエットに励んでいる人ならば「私は確実に前に進んでいる! 筋トレを昨日は1回だったが今日は2回できた。私は痩せて体重が65キロになっている」とアファメーションを唱えることになるでしょう。語学を勉強している人ならば「私は確実に前に進んでいる! 今日は単語を3個新しく覚えた。私はTOEICで990点をとっている」と自分に言い聞かせてもいいでしょう。

理想のイメージも現在形であることがポイントです。ここが「65キロになりたい」「65キロを目指している」のような形ですと自分がなれていないことを肯定することになってしまいます。

頭の中の否定的な考え方が消えていく

習慣は3週間だけ続けなさい 「認知科学」×「コーチング」が教える自分を変える方法

あくまでも現在形として、なっている状態として言いきることが自己効力感を高めるのには有効です。また、言葉にしなくてもアファメーションのときに五感を働かせましょう。ダイエットを実現したいのならば、体重が減って好きな洋服を着て外出している姿を、語学を習得したいのならば、海外で働いている姿などをイメージするだけでも効果がさらに高まるでしょう。

これらのポイントを押さえて、毎日アファメーションを実践してみましょう。時間は1、2分で問題ありません。いつも肯定的な考え方を言い聞かせていると、頭の中にあった否定的な考え方は消えていきます。

肯定的な言葉を自分の中で繰り返すことで、不安、ためらいは追い払われて、それにより自己効力感が高まり、習慣化は後押しされます。

(名郷根 修 : エグゼクティブ・コーチ/株式会社ハイパフォーマンス代表取締役)

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