子どもの短所を直そうと必死な親がズレている訳

親子

「片づけができない」「忘れ物が多い」……子どもの短所や苦手に対して、親はどうすればいいのでしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)

子育て中の親御さんの悩みで多いのが、「片づけができない」「マイペースで何をやっても遅い」「だらしがない」「忘れ物が多い」「やりたいことを優先してやるべきことが後回し」「字も含めてやることが雑」などです。

そして、それを子どものうちに直そうと思って奮闘しているけどなかなかうまくいかない、という例が非常に多いです。では、なぜなかなか直らないのでしょう? そして、どうすればいいのでしょう?

教師として23年間教壇に立ち、その後教育評論家として活動してきた筆者の得た結論をお伝えしたいと思います。

育て方やしつけではなく「生まれつきの資質」

なかなか直らない理由のひとつは、これらが生まれつきの資質によるものだからです。親の育て方やしつけが悪いからでも本人の努力が足りないからでもありません。その証拠に、同じように育てているきょうだいでも、一人は片づけが全然できないのにもう一人はすごく上手にできるという例がたくさんあります。

育て方やしつけで決まるなら、きょうだい全員できるようになるか、全員できないようになるかのどちらかのはずです。

同様に、マイペースで何をやっても遅い子がいるかと思えばテキパキ行動できる子もいます。これも育て方やしつけのせいではなく生まれつきです。前者が怠けているわけでも後者が特にがんばっているわけでもありません。人間には生来的な生きるリズムのようなものがそれぞれにあり、大人でものんびりな人とせっかちな人がいます。

同様に、きょうだいでだらしがない子もいればしっかりしている子もいます。忘れ物が多い子もいれば忘れ物をしない子もいます。遊びなど自分がやりたいことを先にやって宿題や翌日の支度などイヤなことは後回しにする子がいるかと思えば、やるべきことを先にやっておかないと落ち着かない子もいます。きょうだいでこれほど大きな違いがあるのは、生まれつきの資質によるものとしか考えられません。

なかなか直らない理由の2つめは、子どもには直そうというモチベーションがないからです。つまり、子どもは「絶対に直さなければならない」という自己改造への強い必要性を感じることができないのです。

かえって大人になってからのほうが、必要性を強く感じて直る可能性があります。大人が物の管理ができなくて大事な書類をなくしたり、時間にルーズで待ち合わせに遅れたり、やるべきことを後回しにして締め切りに遅れたりしていたらどうでしょうか?

仕事がうまくいくはずがありませんし、周囲からの信用を失ってしまいます。仕事を首になって自分や家族が生活できなくなるかもしれません。

ですから、大人になってからのほうが自己改造へのモチベーションが持てるのです。それに、大人のほうが自己改造の能力もあります。子どもより思考力もあり自分で工夫する問題解決力もあります。よい方法を学んだり情報を得たり、必要な物を買ったりすることもできます。子どもにはないものばかりです。そもそも、一番肝心なモチベーションがありません。

「子どものうちなら直る」は迷信

昔から「子どもがだらしがないのは親のせいだ」とか「大人になると直らない。子どものうちなら直る」などと言われてきましたが、これらは集団的勘違いであり迷信だったのです。

ただし、大人になって必要性を感じ「直したい。直さなきゃ」と思ったとき「でも、どうせ自分には無理」と思ってしまうと、やる気スイッチが入らない可能性があります。

例えば、子どものときに「片づけなきゃダメでしょ」「何をやっても遅い」「だらしがないね」「忘れ物ばかりしちゃダメでしょ」などと叱られることが多くて、自己否定感にとらわれてしまっているとそうなる可能性があります。ですから、叱るのをやめて子どもの自己肯定感を育てながら待つことが大事です。

では、子どものしょうがない姿を前にして、親として実際にはどうすればいいのでしょうか?

まず第1に、このように子どものしょうがない部分は生まれつきの資質によるものであることと自己改造へのモチベーションもないことをはっきり認識して、自分を責めたり子どもを叱ったりするのをやめることが大切です。

「親である自分のせい」と自分を責めていると子育てが楽しめませんし、そのストレスで子どもを否定的に叱ることが増えてしまいます。叱られることが多い子は、「こんなダメな自分はお母さんお父さんに大切にされないな。愛してもらえない」と感じる可能性もあります。

これが愛情不足感と言われるものであり、こうなると生きるエネルギーが減退してますますがんばれなくなります。また、親の言葉にも素直に耳をかたむけることができなくなり、必要以上に反発するようにもなります。親子関係が悪化し子どもの気持ちがどんどんすさみます。これが悪循環の始まりです。

また、「ぼくってダメな子だな」「どうせ何をやってもダメだよ」という自己否定感にとらわれてしまい、チャレンジ精神や向上心を失ってがんばれなくなります。先述したように、大人になってからも尾を引いて自己改造の必要性を感じたときも「でも、どうせ自分には無理」と思ってしまう可能性があります。

第2として、うまくいかないことについては否定的に叱るのではなく、工夫することが大事です。そして、工夫には合理的な方法の工夫と言葉の工夫の2つがあります。

まず、合理的な工夫については例えば次のようにします。

A君は毎朝トマトに水をやるのを忘れがちでした。でも、水を入れたペットボトルを枕元において寝るようにしたら忘れなくなりました。

また、B君は学校から体育着を持ち帰るのを忘れがちでした。でも、ランドセルの蓋の内側に「体育着」と書いた付箋紙を貼るようにしたら忘れなくなりました。

C君は宿題に取りかかるのが遅くて叱られていました。でも、学校から帰ってきて宿題を1問だけやってから遊ぶことにしたら、取りかかれるようになりました。

以下、羅列的に紹介します。片づけが苦手ならワンタッチ収納やラベリングなどの工夫。忘れ物が多いなら持ち物コーナーの設置や親の最終確認の励行。やるべきタスクがテキパキこなせないならお支度ボード。イヤなことを後回しにするなら家庭内時間割。時間にルーズなら模擬時計。

次に言葉の工夫です。とにかく大事なのは子どもを責める要素を入れないで伝えることです。

○○するといいよ。先に○○すると後で楽だよ。先に○○する?それとも遊んでから○○する?さあ、○○しよう。パパと競争だ。何秒でできるかな?用意ドン。○○してくれるとうれしい。○○してくれてありがとう。がんばってるね。などです。

親子関係と自己肯定感をひたすら大切に

ただし、工夫をしても簡単には直らないことが多いのはここまで書いたとおりです。そういうときは、手伝ったりやってあげたりしましょう。しかも、叱りながらでなく明るく楽しく、子どもとの触れ合いのひとつとしてエンジョイしながらです。こういう実際的な方法で乗り越えてきた親子は星の数ほどたくさんいます。

「子どもができないことを手伝ったりやってあげたりしていると、いつまでも自分でできない。それは自立の妨げだ」などといっておどす人がいますが、それも迷信です。親子関係をよくしながら子どもの自己肯定感を育てていけば、その子のペースでやがてしっかり自立します。

できないことをいつまでも叱り続けて、親子関係を悪くしたり子どもの自己肯定感を損なったりしているほうが、よっぽど子どもの自立の妨げになります。

最後にまとめです。子どもの短所や苦手は親のせいではなく生まれつきです。自己改造へのモチベーションもないので子どものうちには直りません。大人になってからのほうが直る可能性があります。叱るのではなく、合理的な方法と言葉の工夫をして、それでも無理なら手伝ったりやってあげたりしましょう。

子どものときに短所を直そうと無理するのはやめましょう。諦めが肝心です。人生も子育ても諦めることで道が開けることもあります。そして、親子ともども毎日明るく楽しく幸せに暮らして、親子関係と自己肯定感をひたすら大切にしましょう。そうすれば、やがてしっかり自立します。

(親野 智可等 : 教育評論家)

ジャンルで探す