みんなの銀行頭取「27年度黒字化に全力尽くす」

みんなの銀行永吉健一社長

永吉健一(ながよし・けんいち)/1995年福岡銀行入行。2016年に新たな金融プラットフォームを提供するiBankマーケティングを起業。みんなの銀行の立ち上げにも関わり、2022年4月よりみんなの銀行頭取(記者撮影)
ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下のデジタルバンク「みんなの銀行」の帰趨に注目が集まっている。2024年3月期決算は93億円の赤字を計上し、5月末の投資家向け説明会ではFFGの五島久社長が撤退の可能性に言及したためだ。撤退観測の真相や、収益化の道筋について、みんなの銀行の永吉健一頭取を直撃した。

審査モデルがフィットせず

――「事業撤退」という観測が流れました。

みんなの銀行のような新規事業は、ローンチ前からプランBやCを想定している。今回、いきなり撤退の話が出たわけではない。当初は開業から3年で単年度黒字化を掲げていたが、昨年に黒字化の時期を2027年度へ変更した。そこを目指していろいろなことをやっている。

投資家向け説明会での(FFGの五島久社長の)発言は、あくまで一般論だ。みんなの銀行の2024年3月期連結決算は93億円の最終赤字で、今期も同水準の赤字を見込む。万が一、このまま決算が横ばいでカードローン残高が増えず、お客さんも増えない状態でも続けるのか、という問いに対して、撤退という考えは常に持っているという一般論を答えたまでだ。

――とはいえ、当初の業績計画からは乖離しています。

開業からしばらくはカードローンがPL(損益計算書)の柱になり、ゆくゆくは決済やBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)の手数料が大きくなる予定だった。だが、始めてみるとカードローン残高が積み上がらない。みんなの銀行の顧客属性は30代以下が7割に対して、既存の銀行は40代が7割。ほかの銀行が用いている審査モデルが、みんなの銀行にはフィットしなかった。

貸出金額も1件当たり40万円を計画していたが、(信用枠の小さい若年層が多いため)実際は25万円程度。ここで残高のギャップが2倍弱出ている。モデルが合っていないからデフォルトも増えた。こうしたことは、カードローンを実行してみて初めてわかった。

カードローンの実績がたまってきた段階で、社内のデータサイエンティストチームが独自の審査モデルを構築した。精度が良いので、今年度からは自前のモデルに切り替えた。1件当たりの貸出金額は、足元では30万円ほどに増えている。デフォルト率も下がってくるだろう。

――FFGに債権を流動化したり、逆に好採算のローンポートフォリオを取得したりして、決算を「作る」こともできたはずでは。

みんなの銀行はFFGの新規事業として、ゼロスクラッチで作ったデジタルバンクだ。新しいチャレンジをしている中、グループの関与は足かせになりかねない。この3年間、みんなの銀行が目指すことを自由にやってきた。

これからは少しフェーズが変わる。われわれが先行してやってきた取り組みをFFGに還元したり、FFGが開発したサービスをみんなの銀行を経由して全国に展開したりすることもできる。

少子高齢化で地方のマーケットが縮小し、親世代が亡くなると相続資産が大都市圏に移ってしまう。そこをカバーできるのは、全国にチャネルを持つみんなの銀行だ。こういう形での連携は考えていく。

何ら改善していなかったら撤退も

――2027年度の黒字化は必達目標ですか。

グループとしてそう言っており、われわれに与えられた使命も、そこに向けて全力で取り組むことだ。

2027年度時点で黒字化していなかったら本当に撤退するかというと、それはまた別の話だ。何も改善していなかったら撤退するかもしれない。ただ、赤字だったとしても、アセットが積み上がっていて翌年や翌々年の黒字化が見えていたら、その時の判断になるだろう。

みんなの銀行の業績推移

――今期末のカードローン残高目標は300億円と、前期末の118億円から2倍以上に伸ばす計画です。達成に向けた方策は。

昨年度は審査モデルのチューニングや広告効果の検証、デフォルトした債権の管理・回収といったトライアンドエラーを繰り返してきた。この4月、5月は各20億円ほどの残高を獲得できている。このまま20億円ずつ積み上がるとは限らないが、手応えはある。

みんなの銀行は普通の銀行とは異なり、まだすべてのサービスがそろっていない。足りない機能を追加しており、一例がデビットカードだ。今はカードレスしかないが、多くの実店舗で使えず、ユーザーから改善要望が届いていた。板カードを発行すれば決済利用は伸びる。口座振替機能を実装できれば、手数料も入ってくる。

――前期末時点で5社だったBaaSの提供先も、今期末には11社まで増やす計画です。どういった企業を開拓しますか。

顧客基盤の大きさが一つのポイントになる。100万人や1000万人規模の顧客を抱えるパートナーにBaaSを提供できれば、掛け算で口座が増える。そうした先とは重点的にコミュニケーションを取っていく。住信SBIネット銀行のネオバンクや(楽天銀行がJR東日本に提供している)JREバンクといった事例のおかげで、事業者の間でもBaaSへの関心が高まっており、われわれへの問い合わせもかなり増えている。

われわれのBaaSは1口座当たりいくら、という値付けはしていない。使われない口座にまで手数料が発生すると、事業者がコスト倒れになるからだ。代わりに決済などの取引量に基づいた手数料体系にしており、事業者の負担感は低いのではないか。

成長投資は引き続き進める

――多くのネット銀行は、住宅ローンを収益源としています。みんなの銀行でも取り扱う可能性は。

取引をデジタルで完結させるのがみんなの銀行のコンセプトだ。現時点で(デジタルでは完結しない)住宅ローンをやる考えはない。われわれが銀行代理店として、福岡銀行の住宅ローンを提供する余地もあるが、ネット銀行の金利には敵わない。保険や金融商品の販売も、営業体制を整える必要がある。われわれのような小さな銀行では難しい。

ただ、向こう10年間住宅ローンをやらないとは限らない。将来的には住宅ローンもデジタルで行えるようになっている可能性もある。

――黒字化のために経費を抑える考えは。

マーケティングコストを抑えれば、経費は数億円浮くだろう。ただ、それをするとローンや口座獲得のスピードが落ちる。4年後の黒字化に向けた投資は進める。

――システム開発は当初アクセンチュアに外注していましたが、足元での内製化率は6割まで高まっています。外注によって固定費を下げるより、今後も内製化を進めますか。

アクセンチュアには、徐々に内製化を進める方針の下、協力してもらっている。100%にはならないだろうが、内製化が進むほど開発コストやコミュニケーションギャップが減る。

既成のプロダクトを買うと、その通りにしか使えない。外注と内製化では、新しいことにチャレンジするスピードがまったく違う。例えば生成AIについても、社内のエンジニアがプレーンなシステムを触りながら、さまざまな使い方のアウトプットが生まれている。

(一井 純 : 東洋経済 記者)

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