撤退観測も飛ぶ「みんなの銀行」は浮上できるか

みんなの銀行アプリ

日本初の「デジタルバンク」が3期連続で最終赤字に沈んでいる(記者撮影)

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下のデジタルバンク「みんなの銀行」が正念場を迎えている。2024年3月期決算は93億円の最終赤字を計上し、開業からの累積損失は約260億円にのぼる。5月末の投資家向け説明会では、FFGの五島久社長が撤退の可能性に言及。直後に火消しに回る場面もあった。

みんなの銀行は、既存の銀行が取り込めていなかった「30代以下の若者」に照準を定めた。だが、その戦略には開業当初から誤算が生じていた。FFGは「2027年度の黒字化」を目標に掲げるが、その道筋は必ずしも見通せない。存続に向けて正念場を迎えている。

「3年で黒字化」のはずが

「当初は『3年で黒字化』と発表していた。ただ、すべてがゼロからのスタートで、思惑と違うことの連続だった」。みんなの銀行の永吉健一頭取は吐露する。

同行が開業したのは2021年5月。国内初のデジタルバンクと銘打ち、ほかの銀行とは一線を画したビジネスを志向した。事業は2本柱で、1つは銀行としての預金や決済、カードローンだ。スマホで完結する取引を武器に、30代以下のデジタルネイティブ世代に訴求する。もう1つは、API連携を通じて銀行機能を事業会社に提供するBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)やシステムの外販だ。

開業当時の計画では、2年目までは年間50億円程度の赤字が先行するものの、3年目の2023年度に単年度黒字化を果たすと掲げた。FFGにとっても収益源となるだけでなく、取り込めていなかった若年層や九州域外の顧客にも接触できるチャネルとして期待を寄せていた。

ところが、右肩上がりの収益計画はほどなくして歯車が狂い始める。初年度の赤字こそ想定通りだったが、2022年度以降も赤字額が拡大。2023年度に至っては、黒字化はおろか93億円もの赤字に沈んだ。資本はみるみる溶け、5月にはFFGが90億円の増資を行うと発表した。

みんなの銀行の業績推移

計画未達の主因は、稼ぎ頭と期待していたカードローンの伸び悩みだ。2024年3月末の残高は118億円と、開業当初に見込んでいた800億円に遠く及ばない。アダとなったのは、30代以下が7割を占める特徴的な顧客層だった。

カードローンの審査にあたって、みんなの銀行は40代以上が7割を占める既存銀行と同じモデルを流用していた。その結果、モデルが想定する債務者とみんなの銀行の利用者属性にズレが生じた。若年層は与信枠が小さく、1件当たりの実行額は約25万円と計画値の半分強にとどまった。デフォルトも頻発し、不良債権比率は6~7%と想定の2倍に膨らんだ。

カードローン残高の推移

利回りの高いカードローンからの収益は、BaaSなどのシステム事業が収益化を果たすまでの期間を乗り切る上でも重要だった。みんなの銀行とシステム子会社ゼロバンク・デザインファクトリーを合わせた営業経費は2024年3月期で117億円と、同じFFG傘下の福岡中央銀行の約2倍。積極的な広告宣伝に加えて、エンジニアやデータサイエンティストなどを自前で採用して開発を内製化していったためだ。ストック収入であるカードローンが停滞した結果、重い経費構造が決算に直撃した。

突き上げを食らったFFG

赤字体質のみんなの銀行に対して、FFGは「あくまで新規事業」として鷹揚に構えていた。黒字化の時期も当初の2023年度から2025年度、そして昨年には2027年度へと先送りした。反面、投資家はグループの利益を食い潰すみんなの銀行への態度を硬化。「いつになったら撤退するのか」という声まで上がるようになった。

投資家からの突き上げを無視できなくなったFFGは、2027年度の黒字化を掲げつつ、収益化が困難になった場合のプランBやCもにじませた。そのワーストケースとして例に挙げたのが「撤退」だ。

FFGから「2027年度までに黒字化」と、事実上のタイムリミットを設定されたみんなの銀行。残り4年で黒字化を果たせなければ、一度は否定した撤退観測が再び現実味を帯びる。

喫緊の課題は、収益柱であるカードローンのテコ入れだ。みんなの銀行はこれまで実行したローンの実績を基に、若年層に特化した与信モデルを構築。今年度から与信審査に自前のモデルを採用し、残高の伸長やデフォルトの抑制を図る。

もう一つの課題であるシステムコストは、BaaSの収益化がカギを握る。現時点でBaaS基盤の提供先は5社あるが、BaaS経由での口座獲得数は5万と進捗は鈍い。顧客基盤を有する大口先の開拓を通じて口座獲得を急ぐ方針だが、みんなの銀行のBaaS手数料は口座数ではなく取引量に連動する。口座獲得だけでは不十分で、決済利用を促し稼働率を高める必要もある。

FFGもテコ入れ急ぐ

投資家の突き上げを食らっているFFGが、みんなの銀行の経営に関与を強めるかも焦点だ。4月1日、FFGでDXを所管する藤井雅博執行役員が、みんなの銀行の代表取締役会長に就任した。FFGの商品をみんなの銀行経由で販売したり、みんなの銀行が開発したシステムをFFGに提供したりするグループ間取引が増えそうだ。

他方、みんなの銀行は経営の独立性を尊重すべく、これまではFFGからの露骨な「ミルク補給」には慎重だった。今後もデジタル投資や広告宣伝の手は緩めない意向で、親会社との取引を増やしつつも一定の距離感を保てるかが問われることになる。

みんなの銀行はかねて、自らを「ネット銀行」ではなく、デジタル技術を駆使して新たな金融サービスを提供する「デジタルバンク」と称する。預貸という伝統的な銀行業に頼らず、システムの外販やBaaSで稼ぐビジネスモデルに脱皮できるかは、デジタルバンクの将来性を占う試金石でもある。

(一井 純 : 東洋経済 記者)

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