「怪しい数字」にまんまと騙される人に欠けた視点
「不快指数が高いから不快」は本当?
蒸し暑さを感じる梅雨の季節。この時期になると何気なく耳にする言葉に「不快指数」というものがあります。不快指数とは、蒸し暑さを示す指標です。あなたも気象情報などで見聞きしたことがあるのではないでしょうか
あなたの周囲にいるどなたかが、次のような発言をしたとしましょう。
「明日は不快指数が80なので不快だ(過ごしにくい1日だ)」
さて、あなたはこの発言をどう受け止めるでしょうか。「不快指数が高いんだからそりゃ不快でしょう?」と思われた方、もしかしたら、あなたは典型的な「数字に騙されやすいタイプ」かもしれません。
この例は、騙されやすい人がはまる落とし穴を浮き彫りにします。いったい何が問題なのでしょうか。そして、どうすれば落とし穴にはまってしまう残念な人にならずにすむか、解説します。
まず、先ほどの発言には2つの「ツッコミどころ」があります。まず、「不快かどうかはあくまでその人の感覚によるものだ」といった類のツッコミが考えられます。少しばかりひねくれた視点と思われる方もいるかもしれませんが、個人的にはもっともな指摘だと納得します。
騙されたくなければ「定義」を確認
ただ、もうひとつ、より重要なツッコミが考えられます。
「そもそも、不快指数の定義は?」
というツッコミです。
この指摘ができる人は、そもそも不快指数の定義がわからなければ、たとえその数値が高くても、意味づけや評価などできるわけがないと思っています。数字の定義がわからないのにその数字に意味づけをしてはいけません。
では不快指数の定義を確認してみましょう。複数の定義があるようですが、一般的には次の定義が用いられます。
すなわち、不快指数とは気温と湿度という2つの数字で決まるものであることがわかります。しかしそれは裏を返せば、気温と湿度以外のものはまったく考慮されていない数値であるということです。
たとえば、気温や湿度が高かったとしても、心地よい風が強く吹いていたらどうでしょうか。不快どころか、「過ごしやすい」と感じる人もいるかもしれません。
つまり、不快指数が高いからといって不快だ(過ごしにくい1日だ)と決めつけるのは早計ということになります。
これもまた少しばかりひねくれた視点と思われる方もいるかもしれません。しかし数字に騙されることを回避するためには、これくらいひねくれた視点を持ってちょうどよいと考えています。
不快指数以外の例も挙げて考えてみましょう。ビジネスでよく使う数字として、在庫回転率という数字があります。小売業などでは馴染みがある数字です。
「最近は在庫回転率がいい。在庫数の管理はうまくいっている」
このようなもっともらしい発言ほど、騙されやすいものです。もしこのような発言を聞いても鵜呑みにしてはいけません。
まずは在庫回転率の定義を確認します。一般的な定義は次のとおりです。
ここで重要なのは、在庫回転率という数字には2種類あり、それらは必ずしも一致しないということです。金額ベースの在庫回転率はよかったとしても、個数ベースも同じとは限りません。だとすると、在庫数の管理がうまくいっていると簡単に認めるのは早計ではないでしょうか。
一般論として、ビジネスの世界には「販売数は減ったけれど売り上げは増加した」といった事例はいくらでもあります。金額ベースの数字と個数ベースの数字は、根本的に違う数字と理解するべきでしょう。
「数字は嘘をつかない」というけれど
このような視点を持つと、世の中にあるいろんな数字の表現に対して敏感になってくるはずです。
あなたのもとに、「ウチの部門は昨年に比べて生産性が2倍になりました!」という報告が届きました。さて、いったい何が2倍になったのでしょうか。
この部門の生産性という数字とあなたの認識する生産性という概念がまったく異なるものだとしたら、当然ながらこの発言を聞いて「それはすごいですね」と思ってはいけません。
「この製品はリニューアルしたことで効果が5倍に!」というよく見聞きするフレーズがあります。しかし、これはいったい何が5倍になったのでしょうか。「効果」の定義を確認しないことにはこの発言を信じることができません。
たとえばリニューアル前は利用客からランダムに100人を選定し、効果を実感した人の人数を調査した結果が10名しかいなかったとします。「効果を実感した人」の割合は10%です。
リニューアル後、調査の設計を意図的に変え、超優良顧客から2名だけを選んで同じ調査をした結果、1名が「効果を実感」と答えたとします。すると「効果を実感した人」の割合は50%に増加します。
もしこの数字を「効果が5倍」と表現しているとしたら、あなたはどのように感じるでしょう。私であれば、「超優良顧客ふたりに聞けば、そりゃひとりくらいはポジティブな感想を言うでしょう」と感じます。
あまりに極端な例であり、まるでペテンのような話です。しかし人を騙す数字とはたいていの場合このようにして作られるもの。だからこそ定義を確認することさえ怠らなければ、私たちが日常生活やビジネスシーンで目にする数字に間違った意味づけをする可能性は激減します。
多くの人は「数字は嘘をつかない」とおっしゃいます。その通りだと思います。しかし数字自体は嘘をつかなくても、数字を示す側が相手を騙そうとしている可能性はあります。「100」という数字は揺るがない客観的な情報ですが、その「100」にどう意味づけするかはあくまで読み手が決めるものです。あえてひねくれた視点を持ち、数字の定義を確認する習慣を身につけましょう。
(深沢 真太郎 : BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家)
06/13 08:00
東洋経済オンライン