「アジアのベストレストラン」1・2位に日本の快挙

セザンのダイニング

今年のアジア1位に選ばれた東京のフランス料理店「セザン」のダイニング(写真提供:SÉZANNE (セザン))

3月26日、「アジアのベストレストラン50」2024年版ランキングが発表された。

今年のアジア1位に選ばれたのは東京のフランス料理店「セザン」。第2位は同じく東京の「フロリレージュ」。

トップ2軒を日本のレストランが占めるのは、2013年のランキング開始以来2度目の快挙だ。

「アジアのベストレストラン50」とは

「アジアのベストレストラン50」は「世界のベストレストラン50」から派生した地域ランキングで、2013年に始まった。

現在は、アジアのほかに「ラテンアメリカ」「中東・北アフリカ」の地域や「世界のベストバー」「世界のベストホテル」などの部門別ランキング、有望な若手を選ぶ「50ネクスト」などで、料理人やホスピタリティに携わる人々を顕彰している。

投票権を持つのは、各国の飲食店関係者や批評家などおよそ1000名。過去18カ月内に訪れた自国とそれ以外の店に合わせて10軒ずつ投票し、順位が決まる。

英国の雑誌会社が2002年に始めた「世界のベストレストラン50」は、開始当初こそ欧米のレストランに偏っていた(2004年時点で50軒のうち英国13軒、フランス13軒、アメリカ9軒)。

だが世界中のレストランから順位をつけて発表するというシステムは、SNSが隆盛となった時代背景もあり急速に注目を集め始めた。

日本でも何度か期間限定店舗を営業したデンマークのレストラン「ノーマ」も、世界中に広く名前が知られるようになったきっかけは、このランキングで世界1位になったことだった。

国際的に同じ評価基準でレストランを評価づける媒体にはミシュランガイドやゴ・エ・ミヨなどがある。

しかし、これらは地域ごとに発表される「その地域の中での」ガイドであり、世界を横断してレストランを評価するシステムが生まれたのは、ベストレストラン50が初めてと言っていい。

日本のワンツーフィニッシュは11年ぶり

今回、アジア50軒に選ばれた9軒の日本のレストランをご紹介したい。

1位 セザン(東京)

フォアグラ鷄醤油(セザン)

「セザン」の料理(写真提供:SÉZANNE (セザン))

「フォーシーズンズホテル東京 丸の内」のダイニング。

シェフは1987年生まれ、英国出身のダニエル・カルバート氏。2021年に現職に就任。

前任地の香港「ベロン」では、「アジアのベストレストラン50」4位の実績がある(2020年)。

2023年「世界のベストレストラン50」37位。

2位 フロリレージュ(東京)

turnip(フロリレージュ)

「フロリレージュ」の料理(写真提供:Florilège (フロリレージュ))

シェフ川手寛康(かわて・ひろやす)氏は1978年生まれ。

「カンテサンス」副料理長を経て、2009年「フロリレージュ」開業。

日本の食材・生産者に焦点を当て、経産牛を用いるなどの社会的メッセージを料理に込める。

2023年「世界のベストレストラン50」27位。

8位 傳(東京)

料理長の長谷川在佑(はせがわ・ざいゆう)氏は1978年生まれ。

29歳で神保町に「傳」開業。日本の家庭料理に範を取りながら、紙箱に入った鶏のから揚げ「傳タッキー」など楽しさと驚きを感じさせるもてなしで人気を得ている。

2023年「世界のベストレストラン50」21位。

そのほかランキングした日本のレストランは以下の通り。

9位 ラシーム(大阪)

14位 ナリサワ(東京)

35位 ヴィラ アイーダ(和歌山)

39位 茶禅華(東京)

45位 ゴウ(福岡)

47位 チェンチ(京都)

「アジアのベストレストラン50」2024年上位10軒

(画像:筆者作成)

また、個人賞として「アジアのベストペストリーシェフ賞」に加藤峰子さん(ファロ・銀座)が選ばれた。

日本のレストランの位置づけを考える

「世界の50軒」に比べて対象地域がより身近な「アジアの50軒」では、他国と比較した日本のレストランの位置づけがわかりやすい。

日本をはじめとする12の国・地域から選ばれ、日本から9軒ランクインしている今年のリスト、実際のところ「適切」なのだろうか?

「アジアのベストレストラン50」2024 国別集計

(画像:筆者作成)

日本のレストランは、今回は50軒のなかに9軒選ばれており、軒数だけ見るとシンガポールと同数だ(表参照)。

しかしたとえば世界中で統一の選考基準を用いているとされるミシュランガイドの星の数で比較してみると、シンガポールでは三つ星が3軒、二つ星が6軒。

ひるがえって日本では東京・京都・大阪・奈良だけでも三つ星20軒、二つ星が63軒ある(2024年4月現在、ミシュランガイド公式サイトによる)。

「アジアのベストレストラン50」の国別の軒数が料理でのランキングにならないのは、このリストには料理以外の要素が大きく関わっているからだ。

リスト入りしたレストランを見てみると、たとえば際立ったコンセプトや環境への先進的なコミットメント、はてはシェフ自身のキャラクターや社交力までが問われているのが読み取れる。

たとえば今年サスティナブルレストランを受賞したタイ・バンコクの「ハオマ」は、レストランの中でいくつもの社会的取り組みを行っている。

食材を自ら栽培・飼育するという食料資源への意識に加え、社会的持続可能性(元受刑者に仕事の機会を与える)、廃棄物を抑える環境への配慮などを行っているという。

食材を余さず使うという環境への関心だけでなく、社会的課題にレストランとしてどう向き合うか、また地域コミュニティへの積極的な参加が求められているという証左でもある。

表彰式の様子

今年度の表彰式は韓国・ソウルで行われた(写真:ⒸThe World)

これらの活動は味に直接には関わらないし、美食とはそもそも最上の食材を潤沢に用いるという意味で、本質的には持続可能性とは正反対の性質を持つものだ。

それでもレストランが環境整備の部分に労力やコストを投じられるかは、店だけでなくコストを負担するゲストにも問いかけられているといえる。

授賞式そのものが翌年の順位を左右する?

このランキングでは、レストラン個別の順位もさることながら、各地域で何軒のレストランがランクインしたかが、世界全体(この場合はアジア)から見た国ごとの飲食店の存在感や魅力、影響力の指標のひとつとしても読み解ける。

それは、このリストが、とりもなおさずその地域に投票者を呼び込んだ結果であるからだ。

投票者が自らの「行きたい」という思いのもと出かけるため、レストランへの行きやすさも順位に関わる大きな要素となる。

また、順位を左右する要素として意外と大きいのは、授賞式がどの都市で行われるかということだ。

華々しい授賞式は料理人、ソムリエ、サービス担当者、またメディア関係者などが一堂に会し、交流する場だ。

授賞式に参加する投票者は、その前後におのずからその近隣のレストランを訪れることになる。だから、授賞式のあとにその国や地域でランクインする軒数が増えるという現象が、これまでも起こってきた。

日本での授賞式開催が"悲願"の理由

すでに12回目を数える「アジアのベストレストラン50」、日本で授賞式が行われたことはまだない。

実は2020年に、いったんは日本での誘致に成功し、佐賀県武雄市で「アジアのベストレストラン50」の授賞式が行われることが決定していた。

しかしコロナで移動が制限されはじめた時期と重なり、結局、その年の授賞式はオンライン開催となってしまった。

コロナ後の海外旅行解禁や円安の影響を受けて、2023年夏ごろからふたたび日本にも多くの観光客が訪れるようになった。

なかでも、魅力的な食事を目的としたいわゆるガストロノミーツーリズムを、2023年から日本政府でも観光戦略のひとつとして推進している。

観光客に各地方を訪れてもらうことで、農業や漁業、飲食業や宿泊業など、「観光分野での経済波及効果を地域全体で最大化すること」(観光庁)を目的としたものだ。

「現在のベストレストラン50のリストに入っているレストランのシェフたちは今、結果的に各国のアンバサダー的な役割まで担っています。しかも、ほとんどは自費での参加です」と語るのは、「ベストレストラン50」の日本の評議委員長である中村孝則さんだ。

「このアワードの理念は、単なるランク付けではありません。むしろ、ガストロノミー文化を担う人たちが国を超えてつながることで、おたがいの多様性を認め合い、レストランの楽しみを共有し、レストラン産業全体の社会的な地位を向上させることを目的にしています。

このアワードをぜひとも日本で開催したいというのが私の悲願でもあります。授賞式を日本に誘致することで、日本のガストロノミーや食文化の魅力を国内外の人にさらに広く知ってほしいと強く願っています」

日本からランクインしたレストランのシェフや関係者たち

日本からランクインしたレストランのシェフや関係者たち。写真右端が日本評議委員長の中村孝則さん(写真:ⒸThe World)

レストランの意義は料理の味の追求だけではない。レストランが人と人をつなげ、外部から人を呼び込む役割をも担うものならば、行政の後押しやサポートがもっと強くなることが望まれる。

レストランはその地域の食文化を体現する重要な存在であり、人々が食事を通してその土地を理解しその土地の地場産業振興につながる、親しみやすく普遍的なコンテンツであるからだ。

今回のランクイン店をはじめとする国内のレストランが、日本の食の豊かさを伝える魅力的な「大使」になるに違いない。

(星野 うずら : レストランジャーナリスト)

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