機能性食品は「根拠の質が低い」とわかるのが長所

小林製薬の紅麹サプリ問題は、健康食品業界全体へと波及している(撮影:ヒラオカスタジオ)
機能性表示食品制度が発足して10年目。小林製薬の「紅麹」を含むサプリメントによる健康被害問題を受けて、消費者庁は制度見直しを進めている。
健康食品ビジネスのコンサルティングや勉強会を行うグローバルニュートリショングループは、これまで300件超の「売れる」機能性表示食品の商品開発や届け出のサポートを行ってきた。紅麹問題で揺れる機能性表示食品制度が残してきた功罪は何か。これからどう変わっていくのか。制度に詳しい同社の武田猛代表に聞いた。

安倍元首相の狙い

――小林製薬の「紅麹」問題は、機能性表示食品制度にどのような影響をもたらしていますか。

今回の件で、機能性表示食品業界は消費者庁や厚生労働省からの信用を失ってしまったのではないか。この制度のガイドラインには、健康被害情報が出たらすぐに報告しなさいと書いてある。機能性表示食品制度を利用するにあたっては行政とのコミュニケーションが非常に重要で、信頼関係があれば何かあった時にサポートしてくれる。だから、基本的に医師から連絡があれば直ちに保健所や消費者庁へ相談するべき。

だが小林製薬は、健康被害の情報が入った時点でジャッジできなかった、もしくはしなかった。これで行政との信頼関係を失ってしまったと思う。

――そもそも機能性表示食品にはどんな役割がありますか。

これは安倍晋三元首相が経済成長施策の一環として創設した制度。以前からトクホ(特定保健用食品)はあったが、トクホの許可を得るにはお金と時間がかかり、大手企業でないと利用が難しい。中小零細企業の参入を容易にするため、企業が責任を持って機能を表示できるアメリカのダイエタリーサプリメント制度を参考に設計したのが機能性表示食品制度だ。

3月22日時点の参入事業者数はトクホで132社だが、機能性表示食品は1709社(グローバルニュートリショングループ調査)。安倍元首相の当初の狙いは実現しつつある。

機能性表示食品の普及により、自分に必要ない商品を買う人は減っていると思う。例えば血糖値に対する機能が書いてあれば、関係のない人は買わない。いわゆる「健康食品」しかなかった時代には、「何にでも効きます」「これを飲んでおけば安心」というイメージの商品が多かった。

大手中心に、企業が研究開発へ投資するようになったという功績もある。産業の発展や雇用の確保などに寄与している。企業が利益を出していれば税金も収めているだろう。社会貢献になっている。

――功績はあれど、安全性の面で消費者からの信頼は揺らいでいます。

2013年12月、この制度の創設に関する検討会で最初に言及されたのが「安全性の確保」だった。その後に、機能性表示の科学的根拠や消費者への情報提供について議論されている。制度設計の時点で、まず安全性の確保から議論が始まったことは忘れてはいけない。

しかし、この約10年で消費者からの信頼は揺らいできている。事業者側が若干いいかげんになってしまっていることが理由の1つ。届け出された科学的根拠の質が低いという批判は多く、広告で主張されているほどのエビデンスはないという例もある。この制度では自社でエビデンスを作ることができるため甘くなりがち。第三者から質の低さを指摘されても仕方ない。

だが小林製薬の件は機能性表示食品制度に起因するものではなく、日本の食品安全行政全体に関わる話。そこはわけて考えなければいけない。

国が安全性を評価するのが世界基準

――機能性表示食品の制度自体に問題点はありますか。

制度開始時点で、安全性の評価については問題があった。国内で販売実績や食経験がない成分については、国が安全性を評価するのがグローバルスタンダードだ。アメリカのダイエタリーサプリメント制度では、新規原料(New Dietary Ingredient、NDI)を含むサプリメントを販売する場合、発売の75日前までにFDA(アメリカ食品医薬品局)に届け出ることになっている。そしてFDAが新規原料を審査する。

つまり安全性の評価は企業任せではなく、国が関与する。EUやオセアニアにも新規原料の概念はある。一方で日本にはこの概念がなく、審査する仕組みもない。そんな中で機能性表示食品制度が立ち上がり、企業が安全性を担保する仕組みになった。

――政府は、機能性表示食品制度の見直しを進めています。何が論点になるでしょうか。

たけだ・たけし/1963年大阪生まれ、岐阜育ち。2004年当社設立。18年間の実務経験と20年間のコンサルタントとしての経験を積み、健康食品業界でビジネスに携わる。コンサルタントとしては国内外合わせて750以上のプロジェクトを実施(記者撮影)

まず、安全性の確認方法について。現在のガイドラインには安全性評価のフローがあり、これに基づいて評価する仕組みになっている。消費者庁が速やかに行えるのは、ガイドラインをさらに厳格化することだと思う。

次に品質管理体制の確認方法について、GMP(Good Manufacturing Practice、適正製造規範)*の義務化が重要な論点となる。健康被害状況の届け出体制に関する議論も急務だ。今回の見直しで、有害事象が起きた場合の報告が義務化されるのではないか。「○日以内に」と報告までの期限も決められると思う。

エビデンスの質向上についてはもっと時間をかけて議論されるだろう。

*GMP:原材料の受け入れから製造、出荷まですべての過程において、製品が「安全」に作られ、「一定の品質」が保たれるようにするための適正製造規範。サプリメント形状の加工食品については、厚生労働省がGMPガイドライン等を示して自主的取組を推進している。今後、機能性の観点も含めたGMPの検討が期待される(消費者庁、機能性表示食品の届出等に関するガイドラインより)

透明性の高さがメリット

――エビデンスを自社でつくることの見直しも必要でしょうか。

それは必要ないと考えている。アメリカやオーストラリア、ニュージーランドでもエビデンスは事業者が作っている。

エビデンスの質が低いとわかることが、日本の機能性表示食品制度のよいところだ。透明性が高いから質が低いとわかる。アメリカではエビデンスは公表されていないので、質はわからない。この点で、今でも機能性表示食品制度は世界最先端だと思っているし、胸を張れる。社会が監視してモニタリングする制度といえる。

――透明性は高くても、それを理解できる消費者は少ない。

その通りだ。一般消費者はエビデンスを見てもわからない。そのためアカデミアや消費者団体が時々チェックしている。ここから先は業界団体でどこまで自浄作用を発揮できるかが重要になる。国の周知も足りていない。消費者庁には出先機関がなく、限界があるのだろう。

サプリは切り分けて考える必要性も

――カプセル・錠剤型のサプリは機能性表示食品の中でも特に問題視されているのでしょうか。

サプリは過剰摂取しやすい。成分を抽出したり濃縮したりするので、医薬品との相互作用も心配される。小林製薬の件で亡くなった方には既往症があったようだから、もしかすると相互作用が関連しているかもわからない。食品だから安全なわけではなく、安全な食べ方があるだけ。例えばご飯も食べすぎたら肥満になる。

――サプリは「必ず毎日飲まなくては」と思う人がいる。

そこが怖いところ。習慣化しなきゃと思って、知らないうちに過剰摂取になる場合がある。日本にはサプリの法律がない。アメリカのダイエタリーサプリメント制度には法律があるし、EUにはフードサプリメント指令、ASEAN諸国にもヘルスサプリメントという制度がある。一般食品と区別して、サプリはサプリで厳しく規制するのが一般的だ。

今回の機会にサプリの法律についても議論されると思うし、これはあったほうがいいと思う。しっかりサプリの定義をして、GMPを義務化するなど、一般食品より厳しい品質管理を要求することはできると思う。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)

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