機能性食品で「怪しい健康食品」を取り除いている

多くの健康被害が明らかとなり、機能性表示食品全体へ波紋を広げている(撮影:尾形文繁)
小林製薬が販売していたサプリメントによる健康被害問題は、収束の気配が見えない。いまだ因果関係や原因の特定に至っていない。
今回、問題となったサプリメントは、事業者の責任において科学的根拠に基づいた健康効果をうたう機能性表示食品だった。政府は5月末をめどに、この機能性表示食品制度の方向性を取りまとめることとしている。
バイオベンチャーのアンジェスを設立した大阪大学の森下竜一寄附講座教授は、2015年4月にスタートした機能性表示食品制度の制度設計に深く関わってきた人物だ。今回の健康被害と制度を見直す流れを、“旗振り役”はどう見ているのか。

食の安全に関する問題

――小林製薬のサプリに関する報道を、どう見ていますか。

まだ原因ははっきりしないが、製造工程でなんらかのアクシデントがあったのだろう。サプリから検出されたという「プベルル酸」の腎毒性はまだわかっていないし、誰かが何かを混ぜた可能性もゼロではない。単にカビの混入による食中毒の可能性もある。

紅麹自体は古くから使われている食品で、安全性は高かったはず。ただ報道によれば、小林製薬の製造における紅麹の発酵過程は長い。工程の途中で何らかの不純物が入ったのだとしたら、製造過程や出荷時の品質管理で防げていたことだ。

そうであればこれは健康食品だけでなく、食品すべてで起こりうる問題。機能性表示食品制度の問題ではなく、食の安全に関する問題だ。問題の本質を考えないと、再発防止につながらない。

――消費者の機能性表示食品に対する不安が高まっています。

推測ではあるが、円安などを理由に届け出時と異なる原材料を使ったことや、製法を変更した可能性もあり今回の事態につながったかもしれない。

しかし機能性表示食品にかかわらず、トクホや栄養機能食品も含めた健康食品は、医薬品とは違う。あくまでも食品なので、原料を変更することで改良されることもある。だから食品の原料を変えることは、必ずしも悪いことではない。

薬のように原料まで規制するのは過剰だし、実際不可能である。そもそも食品は、その日その日で出来が違ったりもする。食品としての特性を理解する必要がある。

機能性表示食品だったのは不幸中の幸い

――政府は、機能性表示食品制度の見直しを進めています。

もりした・りゅういち/1962年生まれ。1987年大阪大学医学部卒業。スタンフォード大循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授など歴任。1999年に遺伝子治療薬開発を目指すメドジーン(現アンジェス)を設立(編集部撮影)

このような問題が起きてしまったから、見直しは避けて通れないだろう。今回は機能性表示食品が悪者にされているが、もし一般のいわゆる健康食品だったら、もっと被害が拡大していたかもしれない。通常の食品には、健康被害の報告義務がないからだ。

機能性表示食品は健康被害の情報収集が義務付けられているから、早く被害に気づけた面もあるだろう。問題のサプリが機能性表示食品だったのは、不幸中の幸いとも言える。

今後、機能性表示食品での健康被害報告は(法的に)義務化したほうがよいと思うが、何を報告するかの判断が難しい。医薬品であれば、健康被害との因果関係を医師が判断するが、消費者による報告は因果関係の見極めができるのか。実際に小林製薬のケースでは、医師の報告で問題が表面化した。

――届け出のみで表示できる機能性表示食品よりも、国が認可するトクホ(特定保健用食品)が再評価される流れになるでしょうか。

機能性表示食品制度は規制緩和と言われるが、そうではない。いわゆる健康食品といわれる広義の健康食品には、もっと怪しいものがある。昔はイメージだけで売っているものも多く、あまりに怪しいから有効性と安全性を厳しくしたのが機能性表示食品。むしろ規制強化だ。

安全性に関しては、何かあれば早期に情報を収集する点で、トクホと機能性表示食品は一緒。機能性表示食品は有効性に関する論文などにおいて、情報の公開度はトクホより高い。

またトクホは基本、対象商品だけによる1つの臨床試験での承認であるが、機能性表示食品では文献のシステマティックレビューを用いており、多くの報告に基づいたエビデンスも多い。場合によっては、メタ解析によるレビューもあり、非常にエビデンスレベルの高い届け出もある。そこをメディアは間違って報道しているような印象がある。

さらに機能性表示食品では事後の品質分析をするが、トクホではされていない。実際、トクホを分析をしたら、有効成分がまったく入っていなかったという事件もあった。

サプリ全体で売上高が10%落ち込んでいる

――森下さんが副理事を務める日本抗加齢協会では、機能性表示食品の届け出のサポートをしているのですね。

年間数十件ほどの相談がある。届け出は「てにをは」が難しい。トクホのような審査であれば、何がだめだったかわかるのだが、届け出の場合はなぜ却下されたかがわからず、サポートが必要とされる。届け出の根拠に使う、研究レビューを作成することも支援している。

――小林製薬の問題発覚が、機能性表示食品の市場に冷や水を浴びせることになっているのでは。

すでに足元では、サプリ業界全体で売り上げが10%ほど落ち込んでいるというデータがある。トクホ含めてだ。消費者がトクホと機能性表示食品の違いをわかってないからだろう。

――機能性表示食品制度が始まってから7年ほど経つのに、トクホとの違いが消費者に伝わってない理由をどう考えますか?

トクホが難しすぎるのかもしれない。それにトクホは1製品を開発するのに数億円、認可取得に4年あまりもかかる。大企業でないと申請を通すのは難しく、その間に商品開発のトレンドが変わる場合もあり難しい。だからトクホ商品は消費者ニーズに合わず、増えていない。

機能性表示食品は、もっと短期間で開発が可能だ。すでに届け出が出ている成分を使えば500万円くらいで開発することができる。地方の中小企業などにも幅広く活用されており、個人が申請するケースもあるほどだ。

――「国が認可している」というトクホのイメージを、機能性表示食品に抱く消費者もいたのでは。

誤認があるのは事実だろう。そもそもトクホが医薬品のように「効く」というイメージを持つのもいかがだろうか。あくまでも食品で、薬ではないのだから病気の治療効果があるわけではない。

日本の薬機法では、効果があるものは薬で、ないものが食品とされている。食品は、人体に効果がないというのが大前提。機能性表示食品の論文も限られた状況の中ではこうだった、ということでしかない。消費者のリテラシーを上げてもらわないといけない。

日本の食品行政は複雑

――消費者にとって、トクホや機能性表示食品のメリットは何なのでしょうか。

健康の維持増進だ。病気を治療したり予防するのは医薬品だが、そこまでは必要としないレベルの人に対し、セルフメディケーションとしての食品の役割がある。

日本の食品行政は複雑で、ビタミンなどの栄養機能食品は届け出がいらないから健康被害もわからない。まったく有効性を表示できないはずの、いわゆる健康食品も依然として大きな市場がある。できる限り情報が公開されており、健康被害情報の収集も可能にし、そうした怪しいものを市場から取り除いているというのも、機能性表示食品の大きなメリットだ。

――森下さんは大阪万博の総合プロデューサーも務めています。大阪市はパビリオンのレストランで、アンチエイジングに関する機能性表示の規制緩和を進める方針だったと思います。

小林製薬の一件が起きてしまったので、消費者のニーズは高いと思うのだが、なかなか議論を進めるのは難しい。外国では、国内では薬機法に触れるような文言が書かれたサプリも多く、国内外で規制が違う。万博では海外の方が多く来られるので、日本でもわかりやすい表示が望ましいと思う。そうしないと外国人にとってはどんな商品かがわからないからだ。

(兵頭 輝夏 : 東洋経済 記者)

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