グラドル界を席巻「PPE」弱小事務所"勝利の戦略"

よきゅーん

ロジカルに自身の“経営論”を明かしてくれたよきゅーん(撮影:梅谷秀司)
えなこ東雲うみ篠崎こころ……。彼女たちはいずれも、青年誌で表紙を飾るトップグラビアアイドルであり、多くのフォロワーを抱えるメガインフルエンサーでもある。今、コンビニの雑誌コーナーで、彼女たちの名前を見ない日はないといっても、過言ではない。
彼女たちが所属する芸能事務所「株式会社PPエンタープライズ」(以下、PPE)を率いるのは、自身もタレントとして活躍するよきゅーん(乾曜子)
タレントの撮影現場にもこまめに立ち会い、チャンスを逃さず徹底的に売り込む。その仕事における哲学には、強く心を打たれる。
*この記事の前半:ギネス記録"コスプレ&経営者"よきゅーんの半生

自身の「好きな子」を売り込み飛躍

20代はコスプレイヤー、アイドルとして活動したよきゅーん。

30代からは「経営者」として、飲食事業や芸能事業を手がけるように。そのキャリアは、本稿の前編にあたる「ギネス記録"コスプレ&経営者"よきゅーんの半生」で紹介した。

出役としての活動もあるが、現在の主軸は2018年に設立したPPEの経営、そして、所属タレントのマネージャー業。

「自身が好きな子を頑張って売り込む」と意気込むよきゅーんの目は、グラビア界での「快進撃」を裏付ける。

よきゅーんいわく、PPEの躍進は「えなこの功績」が大きかった。

すでに「日本一のコスプレイヤー」として知名度を得ていたえなこが、初めて青年誌のグラビアへ登場したのは2017年1月だ。

『週刊ヤングジャンプ』(集英社)の巻末に登場すると、たちまち話題を集めてグラビア界での人気を獲得。その後、所属タレントの活躍にもつながった。

グラビア界を席巻する「PPE」の面々

グラビア界を席巻する「PPE」の面々。写真中央がえなこ(よきゅーん提供)

当初から、よきゅーんは「数字を出さなければ、認められない」とえなこに伝えていた。背景には、グループアイドル時代の経験があったという。

経営者の今は「大人の立場」がわかる

20代で女子アイドルグループ「中野腐女子シスターズ」(2010年4月に「中野腐女シスターズ」、2011年7月に「中野風女シスターズ」に改名。同年12月をもって音楽活動休止)と、男装ユニット「腐男塾」(現・風男塾)のリーダーとして活動。

しかし、30歳で「年齢」を理由に、グループの卒業を宣告された。

悔しさもありながら、経営者になった今では「私個人に売り上げがあれば卒業とはならなかったはず」と回想。その経験がより身にしみるようになった。

若いうちに「勉強しておくべきこと」も多々ある。

たとえば、いわゆる大人の事情にも左右される芸能活動では、周囲の「大人の立場」も加味しなければ、うまくいかない。

20代で、仕事関係者から「よきゅーんの意見は正しい。でも少し、発言をやわらかくしたほうがいい」と指摘された当時は納得できなかった。

しかし、今は「折れるべき場面はあるし、自分にとっての正しさが必ずしも正しいわけではない」と悟っていて、タレントにも身をもって学んだ教訓を受け継いでいる。

痛みを伴う経験は「若いうちにしておいたほうがいい」と、よきゅーんは持論を展開。自身の経験をもとに「私はこうして転んだ。あなたは、別の可能性もいったん考えるべき」と、タレントを諭すときもある。

所属タレントの「トップオタク」は自分

SNSでは時折、身近な怒りや、病みを書き込むタレントも見かける。

しかし、よきゅーんは「そういった書き込みは、誰も得をしない」と俯瞰する。

「所属タレントを好きでなければ、マネージャーは務まらない」と熱弁(写真:よきゅーんさん提供)

書き込めば少なからず、なぐさめてくれるファンもいる。

ただ、案件や広告起用を考えるクライアントが見れば、「この子は、嫌なことがあると、何でも吐き出してしまうのか」と、キャスティング候補から外すかもしれない。

いわゆる炎上でも知名度は上げられるが、よかれあしかれ「いい子」が求められるのが芸能界であるという持論は、いたってロジカルだ。

タレントを時にいさめつつ、愛ある距離間でよきゅーんは接する。

自身は、タレントを最も愛する「TO(トップオタク)」になるべきマネージャーとして、外部の人間へ売り込むのが仕事である。相手に対して所属タレントへの「熱量」溢れるプレゼンで、徹底的に売り込む

その背景にはかつて、出役として「歌や演技で人の心を動かせる」と体感した経験も。

マネージャー業では「タレントの営業マンとして、クライアントに『いいものですよ』『起用したらこうなります』といかに宣伝できるか」に力を注いでいるという。

自身の事務所では「人手が足りない」と苦笑。それでも、できる限りに時間を工面して、所属タレントの仕事現場へと駆けつける。

ねぎらいはもちろん、現場で「次の仕事」へとつなげるべく、交渉する目的もある。

1日の同時間帯で、数名の所属タレントが稼働している場合には、「マネージャーの必要性が高い現場」を最優先にするという。

二人三脚で歩む「えなこ」のおかげ

PPEは当初、よきゅーんが代表取締役を務め、所属するのはえなこのみの芸能事務所だった。

しかし、彼女の飛躍とともに成長。やがて、多くの所属タレントを擁するグラビア界での一大勢力になった。

所属タレントには「私ではなく、偉いのはえなこ。雑誌にしろ、えなこがいなければ、開拓できなかった」と常々伝えている。その「根性」ある仕事ぶりにも、よきゅーんは厚く信頼を寄せる。

よきゅーん

売り出し当時には、えなこの価値を見出さなかった編集者に「絶対、負けねえ!」と悔しさも(撮影:梅谷秀司)

あるロケ番組への出演時、えなこに用意された衣装の締め付けが厳しかった。それでも「現場を乱すわけには」との思いから、一切の弱音を吐かずに本番をまっとう

収録後、よきゅーんへ「衣装が苦しくて。後ろのファスナーを開けてもらってもいいですか?」と願ったというエピソードからも、えなこのプロとしての矜持が伝わってくる。

そして、よきゅーんは、その胆力も評価。

かつて、SNSで「枕営業」を疑うファンに対して、えなこは「常にもっと仕事をもらえるようにと、やりたいことや休みも自分の意志で削って仕事に向き合っている」「自分の力で年収3000万以上稼いでいます」と反論して話題を集めた。

ひとたび上り調子になってから、えなこの年収は「倍々にふくらんでいった」と、振り返るよきゅーん。

雑誌でのグラビア活動をスタートして以降、ファンに「雑誌を購入して、編集部へのアンケートを送ってほしい」と熱心にアピールしてきた努力や、「えなこ」としてのセルフプロデュース力など、その「ブランディング力」にも、敬意を込める。

所属タレントの数だけ、悩みがある。

その1人、グラビアアイドルであり、YouTubeではガンプラの製作動画などで注目を浴びる東雲うみとのエピソードも、よきゅーんは明かしてくれた。

よきゅーん

所属するのは「自分にとって魅力がある子ばかり」と吐露(撮影:梅谷秀司)

自身のカレンダー発売イベントで「思いのほかたくさんの方が来てくださって、女性の方も多かった」と、よきゅーんに伝えた東雲。

当日まで、SNSでのあらぬ指摘に落ち込んでいたが、「私がやるべきはSNSの発言に怒ったり、落ち込んだりではない。目の前でイベントに並んでくれた方々を幸せにしなきゃ」と決意した東雲を、よきゅーんは「今それに気づけたのは偉い!」と称えた。

続けて「世の中には、人を幸せにできる立場の人間がいて、できる立場のうみちゃんは人を助けられる人間に」とアドバイス。元気を与え、元気をもらえる関係性はまさしく「Win-Win」となりうる。

それを出発点に「地位と名誉を手に入れたら、お金はあとでついてくる」というよきゅーんの持論もまた、説得力がある。

才能ある子が「食い物」にされないために

PPEは現在、過去に芸能界で苦汁をなめた経験あるタレントが「余生を楽しむ事務所」でもあると、よきゅーん。

弱小事務所所属タレントが軒並み、青年誌で表紙を飾る現状では「枕営業」も疑われるが「トップの私が女性なのに、そんなこと言われても」と、あっけらかんと反論。

芸能界では「女の子が食い物にされることも、正直ある」と述べるよきゅーんは、「女の子が安全に活躍できる、健全な事務所」も目指して奮闘する。

グラビア界を席巻している現状は、あくまでも通過点として「ヒーローが集う『週刊少年ジャンプ』のような事務所に。正攻法で、カッコよく勝ち続けたい」と宣言するよきゅーんの表情は、愛と野心に満ちていた。

*この記事の前半:ギネス記録"コスプレ&経営者"よきゅーんの半生

(カネコ シュウヘイ : 編集者・ライター)

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