STARTO始動でテレビ・出版は"忖度"を払拭できたか

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テレビ局や出版社などの大手メディアは、旧ジャニーズ事務所時代からの忖度を払拭できたのでしょうか(画像:TBS番組公式ホームページ)

このところ各局が定例会見で、SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)から所属タレントを引き継いだSTARTO ENTERTAINMENTにかかわるコメントを発信しています。なかでも最大の話題になっているのは、新規キャスティングに関するコメント。

17日、NHK・稲葉延雄会長は、「(新規の出演依頼見送りの)方針に変わりはない」「(被害者補償などは)『一定の進展がある』と認識している」「(SMILE-UP.との)関係性がちゃんと切れているかの確認がもう少し必要」などとコメント。
22日、日本テレビ・石澤顕社長は、「SMILE-UP.とSTARTOとの対話を通して取り組みの進捗を確認しながら、新規起用はクライアントの意向も含めた総合的な判断で、個別案件ごとに適切に判断していく」「(被害者補償などは)『着実に進んでいる』という状況を受けて、制作現場では新規の起用を検討する段階に入ったと認識している」などとコメント。
23日、テレビ朝日・篠塚浩社長は、「(STARTOとSMILE-UP.との経営分離の)方向性を示したことは一歩前進と捉えている」「今後その通りに行くかどうかを注視していく」「前々から申し上げている通り、タレントのみなさんに問題があるとは考えていない。起用にあたっては、個別の企画に沿って総合的に判断していく」などとコメント。
24日、TBS・佐々木卓社長は、主に被害者補償と人権侵害の再発防止についてコメント。
25日、テレビ東京・石川一郎社長は、「『補償はそれなりに進展している』と聞いている」「(新規起用について)今までの方針と現段階で変更は変わらない」「情報の開示についても進歩して前向きに変わっている」「(資本関係など)まだ完全に移行しているわけではないでしょうし、見極めをしたうえで考えたい」などとコメント。
26日、フジテレビ・港浩一社長は、「まずは一つの節目を迎えたものと考えている」「ファミリークラブや版権などの扱いについて一定の方向性が示されたものと理解している」「具体的な計画などはまだ明らかにされておらず、適切に対応されることを求めていく」などとコメント。

各局ともに被害者補償については、「一定の進展」「着実に進んでいる」「一歩前進」「それなりに進展」と評価しつつも、再発防止、2社の経営分離(資本関係)、新会社のガバナンス、知的財産やファンクラブの移行などについては、「確認がもう少し必要」「取り組みの進捗を確認」「注視していく」「見極めをしたうえで判断」と慎重な姿勢を見せています。

小刻みな情報公開と本格始動宣言

このようなコメントの背景にあったのは、SMILE-UP.とSTARTO、両社の新たな動き。

4月10日、SMILE-UP.はホームページ上で「再発防止策の実施状況について」という文書を発表し、9つの主な取り組みを提示しました。さらに、「補償状況のご報告」は月2回ペースで行われ、4月15日の段階で補償金の支払者数は354人に到達(補償受付窓口への申告者数は981人)。また、懸念されている点を釈明するために「今後のファンクラブおよび音楽原盤等の版権の取り扱い方針について」という文書も発表するなど、小刻みな情報公開を続けています。

一方、STARTOは10日にホームページを開設し、SMILE-UP.に所属していた28組295人のタレント、185人の社員とともに本格始動することを宣言。さらに同日、東京ドームで13組72人が集うスペシャルライブ「WE ARE ! Let’s get the party STARTO!!」を開催しました。

まだまだ被害者補償は続き、両社の関係性などに懸念点は残っていますが、STARTOと所属タレントが大きく前に進もうとしていることは間違いないでしょう。ではテレビ局や出版社などの大手メディアは彼らの起用判断をするうえで、旧ジャニーズ事務所時代からの忖度を払拭できているのか。

日ごろテレビ局や出版社とやり取りをしている立場から、見聞きしているリアルな現状を忖度なしであげていきます。

物販に強い=視聴率や配信再生数が取れる

まずNHKを除く民放各局は、日本テレビの「新規起用の検討段階に入った」という見解でおおむね一致している感があります。

各局のテレビマンと話をしていると、東山紀之社長のSMILE-UP.が再び影響力を高め、福田淳社長のSTARTOが再び性加害を起こすと危惧している人はすでにいません。仮にそんなことがあったら、テレビ局が受け入れたとしても、世間の人々からは許されずビジネスが破綻することは明白だからです。

表向きは「引き続き注視していく」という慎重なニュアンスであるものの、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率と配信再生数を得るために新規起用を進めていくことが既定路線。それ以前に昨秋から今春にかけてのキャスティングで、「本当に新規起用はなかったのか」と言えばグレーなニュアンスがありました。

民放各局はドラマやバラエティなどの番組ジャンルを問わず、「キャスティングは以前から決まっていた」というコメントを押し通してきましたが、「何月何日に契約した」などの詳細を明かすケースはほぼありませんでした。世間の人々は「このキャスティングは新規起用かどうか」を知ることができない……というより、もともと「どうしても知りたいことではない」ためグレーな回答で許されるところがあるのでしょう。

STARTOには、令和5年間の音楽セールス動向をまとめた「オリコン令和ランキング」の「アーティスト別セールス部門 新人」で1位のSnow Man(460億円)、2位のSixTONES(256.7億円)、4位のなにわ男子(143.7億円)など、「現在最も物販に強い」と言われるグループがいます。3位のYOASOBI(170.6億円)、5位のAdo(115.4億円)、7位のJO1(89.5億円)、8位のNiziU(82億円)、10位のVaundy(78.9億円)の顔ぶれと売り上げを比べれば、いかに彼らの勢いがあるかがわかるでしょう。

物販に強い=ファンの熱が高く、「視聴率、配信再生数ともに取れる」「ネット上の反響が大きい」ため、特に民放各局にとって彼らは「グループでなくても1人でも出てほしい」という存在。水面下で争奪戦が起きていることはあっても、新規契約の打診がまったく行われていないとは考えづらく、噂話レベルですが筆者もいくつかのオファー内容を聞いています。

グループでSTARTOとエージェント契約を結んだ嵐(オリコン令和ランキング アーティスト別セールス部門 トータル2位・467.9億円)のほか、King & Prince(同3位・467.4億円)なども健在であること。他の大手芸能事務所から以前ほどの影響力が薄れていることなども含め、各局にとってSTARTOは、昨年までの極端な忖度はしないものの、「極めて重要な芸能事務所の1つ」であり続けています。

4年間の育成で影響力をキープ

「KinKi Kidsのブンブブーン」公式サイトにはお別れのあいさつ文が(画像:「KinKi Kidsのブンブブーン」サイトより)

しかし、今春はフジテレビが「KinKi Kidsのブンブブーン」「SUPER EIGHTのあとはご自由に」「トキタビ」「いただきハイジャンプ」を終了させ、「木7◎×部(もくしちまるばつぶ)」はゴールデンから土曜夕方に移動し、放送時間も半分に縮小。他局でも、STARTO所属タレントの出演番組を終了・移動させるケースが続きましたが、この動きはなぜなのか。

性加害騒動がなければ継続していたであろう冠番組を終了させた主な理由は、「終わらせてもいい」、あるいは「終わらせたかった」という存在だったから。今春で終了した番組は、視聴率や配信再生数、制作費、スタッフの労力やモチベーション、マンネリなどの理由から、局の扱いが難しくなっていたものが少なくありません。業界内では、「旧ジャニーズ事務所との良好な関係を保つために続けていたが、性加害騒動をきっかけに終了させられた」という見方をされているのです。

逆に「それSnow Manにやらせて下さい」(TBS系)のような最重要グループの番組はもちろん続行。同番組はイギリス・BBCが最初に性加害告発のドキュメンタリーを放送した昨年3月の約1カ月後にゴールデンタイム昇格しましたが、ほとんどその影響を受けていません。むしろ、その間もSnow Manの起用価値は上がり続け、9人組の彼らは「1人でもいいから自分の番組にキャスティングしたい」と言われるグループになりました。

また、STARTOの所属タレントには「音楽番組だけでなくバラエティや情報番組にも対応できる」「1~2人で出演しても結果が出せる」という優位性があることも、民放各局が変わっていない背景の1つ。アイドルに限らず芸能界を見渡しても、数字を取れるうえにさまざまな番組に起用できるタレントは少ないだけに、彼らは企画書やキャスティング会議などで名前があがりやすいのです。

Snow ManとSixTONESのデビューは2020年1月ですが、約4年でここまでの存在に育成できたからこそ、STARTOは民放各局への影響力を今なお保てているのでしょう。

そのため民放各局はSnow ManやSixTONESなどのコア層に強い影響力を持つタレントを抱えるSTARTOの要望を受け入れたり、他の芸能事務所以上の配慮をしたり……「結局、旧ジャニーズ事務所の頃とほとんど変わっていない」という声を先日、ある番組の撮影現場で聞きました。

売り上げ第一のキャスティングに回帰

一方で旧ジャニーズ事務所のころから変わったのは、制作サイドが他事務所のタレントと共演させられるなど、キャスティング上の忖度が不要になったこと。特に音楽番組では、旧ジャニーズ事務所のタレントが揃うTOBEのグループを筆頭に、LDHのグループ、BE:FIRST、JO1、INI、&TEAM、その他K-POPグループなどと共演しやすくなりました。現状では福田淳社長が率いるSTARTOが民放各局に圧力をかけることは考えづらく、「どのようにポジティブな形で共存していくのか」を模索しているようです。

今春は日本テレビが新番組「with MUSIC」を立ち上げ、TBSが「CDTV ライブ!ライブ!」の放送時間を倍増させるなど音楽番組が活況ですが、その背景には、これらの“推し活”で人気のグループが大量出演できるようになったことが大きいのです。

また、今春は民放のドラマにも山下智久さんや錦戸亮さんなど、旧ジャニーズ事務所を退所したタレントが出演しています。「コア層の個人視聴率や配信再生数ばかり狙いすぎている」という感はありますが、キャスティングの自由度が上がったのは間違いないでしょう。

これまでとの違いは、「キャスティングは忖度ベースではなく、売り上げを得ることを第一に行う」「その際、適正範囲内での配慮はする」というスタンス。この点では一般企業と変わらない、よくあるビジネス上の取り引きや駆け引きなのかもしれません。

ただ、もしSTARTOや所属タレントが不祥事を起こしたら、民放各局は忖度せずにしっかり報じられるのか。つまり、エンタメと報道の分離については注視していく必要性があるでしょう。

出版社はまだ“過去維持”の姿勢

次に出版社はSTARTOに対して忖度などをしているのか。

雑誌、漫画、ウェブ版などにSTARTOのタレントが出演してもらえるか。さらに言えば、写真集やカレンダーなどを手がけられるか。

前述したようにSTARTOのタレントは、ファンの熱が高く、物販に強いだけに、これらは出版社にとって売り上げを左右する極めて重要な問題。ジャニーズ事務所からSTARTOに変わっても「絶対に怒らせてはいけない」という存在であることは変わらず、現場レベルでは「最大限の配慮が必要」という意識のままです。

旧ジャニーズ事務所との長いつき合いの中で、「何度か怒られた」「撤退をほのめかされた」という編集者は筆者が知っているだけでもかなり多く、その過去がトラウマのようになって今なお社内に残っている節があります。彼らと話していて伝わってくるのは、「これまで通り穏便に進めたい」「急には変われない」という“過去維持”のスタンス。

たとえば、筆者がSTARTOの所属タレントについてコラムを書こうとすると、「まだ社内でOKが出ていない」「リスクがあるので、もう少し様子を見させてほしい」などとストップがかかってしまいます。編集部員たちも立場や査定があり、会社員として売り上げが重要なだけに、もし福田淳社長が「忖度は不要」「自由に書いてください」と言ったとしても、そう簡単にスタンスを変えられないのでしょう。

ちなみにこのようなコラムを書けるのは、東洋経済オンラインが独立性や中立性の高い媒体だから。STARTOとビジネスの関係性が深い出版社の雑誌やウェブ版などは、まだまだ「もめごとになる前に回避する」という自主規制の意識が強いようなのです。

出版社も営利企業である以上、このような姿勢を単純に「良くないこと」と決めつけて批判するのは乱暴にも見えます。ただ、テレビ局と同じようにメディアとしては、もしSTARTOや所属タレントが不祥事を起こしたら忖度せずに報じなければ信頼を失ってしまうでしょう。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)

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