「社会や顧客の課題に向き合い、市場で競争力があるという状態でこそ企業は成長を果たしていける」…パナソニックホールディングス・楠見雄規社長

 企業は、環境や社会問題の解決に貢献しながら、持続的に事業を発展させることが求められる時代になった。「サステナビリティー経営」の実践や競争力強化の取り組みについて、世界60か国・地域以上で事業を行うパナソニックホールディングスの楠見雄規社長に話を聞いた。(杉山正樹、坂下結子)

大事なのは事業を担う「人」

 ――サステナビリティー経営を重視する意義は。

インタビューに答えるパナソニックホールディングスの楠見社長(大阪府門真市で)=大塚直樹撮影

 「事業を通じて地球環境や人々の暮らしに貢献し、社会や顧客から認められ、選ばれることで利益を得ていく。これが企業の持続的な成長につながる競争力の源泉だ。社会や顧客の課題に向き合い、その市場で競争力があるという状態でこそ、企業は初めて成長を果たしていける。

 何よりも大事なのは、事業を担う『人』だ。創業者・松下幸之助が言った『物をつくる前に人をつくる会社である』という言葉に立ち戻ることにもなる。これをどう実践していけるかが、持続可能な経営を実現する最大の課題になっている。挑戦する人であふれた組織でなければ、競争力も向上していかない」

 ――競争力強化の取り組みの成果は。

 「道半ばのところがある。収益を支える既存事業で十分に競争力が得られていないものもある。そこで5月に投下資本利益率(ROIC)による業績の管理を厳格化し、成長性のない事業を課題事業に位置づけ、2026年度までにゼロとする考えを示した。社員の皆さんもこの考え方で見てくれるようになってきた。

 ただ、ROICの水準を達成したらいいと思うのは大きな間違いだ。もっと目線を上げないといけない。投資家からはスピードをあげて事業構造の整理を求めるコメントもある。我々のグループの中に持ち続けているのが、果たしてベストなのかどうかとの視点での見直しは、以前にも増して議論を進めている」

リスクを見据えながら設備投資

 ――重点投資領域に掲げる電気自動車(EV)向け車載電池と、ヒートポンプ式温水給湯暖房機(A2W)の状況は。

 「EVの普及速度の鈍化や、A2Wは購入を支援する補助金の見直しなどの影響を受けている。しかし、長期的には伸びる領域であることには間違いないとの確信は持てた。市場の成長が鈍化すれば、コモディティー(汎用)化のリスクにさらされることがあり、今後、リスクを見据えながらやっていく段階に変わりつつある」

 ――車載電池の見通しは。

 「打てる手は打ってきたし、新たにSUBARU(スバル)、マツダに供給するご縁も頂いた。これまで顧客と握った上で投資をすると申し上げてきた。必要以上に先行して生産設備に投資をして、設備が稼働しないということだけは避けないといけない。今後も投資は、順次、見極めながらやっていくことに変わりはない」

 ――AI関連事業の方向性は。

 「パナソニックグループが得意とする『くらしの領域』での活用に向けAIの技術を研究・開発していかないといけない。現在、米国の拠点で開発を進めているので、今後にご期待いただけたらと思う。

 AIはサービスだけでなく、企業の持続的成長にも相当、関わってくる。AIで効率化をしないと、内部の効率性で他社に負けてしまうからだ。23年4月から全社員に独自の生成AI『PX―AI』を扱えるようにした。仕事のスピードをどんどん上げていく」

 ――25年1月の米ラスベガスで開かれる世界最大級のIT・家電の展示会「CES」で、キーノート(基調講演)を担当する。

 「パナソニックの登壇は12年ぶりだ。前回紹介した領域はもう重点でなくなっている商品もある。5年、10年先の時代をテクノロジーでどう変えていくのかを発信できたらいい」

大阪万博、子どもたちの内面に働きかけたい

 ――大阪・関西万博では、パナソニックの考えや理念をどうやって共有するか。

 「年齢層が若い子どもたちとの接点が薄くなっている。昔はおもちゃの次に、ラジカセがあった。今は女性の場合、ナノケアのドライヤーまで飛んでしまう。万博では、自分たちが未来を変えるんだということを感じてもらいたい。地球環境など、(10年代以降に生まれた)アルファ世代に関心を持ってもらう上で、パナソニックが働きかけてくれているということがわかってもらえたらいい。

 幼い頃に大阪万博があった。松下館はあまり印象に残っていない。海外のパビリオンで食べたものの方が覚えている。話題になった月の石を見て感銘を受けた。子どもたちの内面に働きかけることができればと思う」

 ――国際オリンピック委員会(IOC)とのスポンサー契約が終了した。

 「以前は、海外にテレビを販売する意味合いがあった。五輪を機にテレビを買ってもらうキャンペーンも含め、ずいぶん機会があった。今はテレビが技術的に進化した、新しい商品が出たから買うというフェーズではない。五輪関連では、プロジェクションマッピングもあるが、関わり方が希薄になった観点から判断した。IOCにはお世話になって感謝もしている」

  ◆楠見雄規氏(くすみ・ゆうき)  1989年京大大学院工学研究科修了、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)入社。パナソニック常務執行役員などを経て、2021年6月から社長。奈良県出身。趣味は、料理とサイクリング。

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