創業者が退場したEV充電インフラ大手のENECHANGE、会計処理よりも深刻なリスクとは
政府からも手厚い支援を受けていた業務用EV(電気自動車)充電事業大手のENECHANGE(エネチェンジ)<4169>が迷走している。創業者の城口洋平前CEO(最高経営責任者)が会計処理問題で7月30日に辞任。同社の株価は2024年2月13日の1494円から、10月31日には283円と5分の1以下にまで値下がりした。その原因は会計処理に伴う業績悪化だけではない。
SPCの連結化で業務用EV充電事業の赤字が拡大
混乱の始まりは2024年3月、同月に開く定時株主総会での2023年12月決算報告の断念だった。その原因はエネチェンジが連結対象外として会計処理をしていた業務用EV充電事業の特別目的会社(SPC)の出資者に対し、城口CEO(当時)が出資額の半額近くを貸し付けていた事実が判明したこと。あずさ監査法人が、「これは間接出資であり、SPCが連結対象に該当する」と指摘。
エネチェンジはSPCに普通充電器を販売した代金を自社の売上高に計上していたが、あずさ監査法人はグループ内取引であって売上高として計上できないと主張した。エネチェンジがこの主張を受け入れた結果、連結売上高は当初から22億円低い43億円に下方修正され、最終赤字も12億円から49億円に膨らんで債務超過となる。
同社の業務用EV充電事業は順調に推移している。設置台数が積み上がり、稼働率も向上。運営経費などの抑制も寄与しているが、損益分岐点には届いておらず営業赤字が続く。そこで同社は業務用EV充電器の設置件数を加速するため、設置費用や月額費用をすべて無料とする「0円キャンペーン」を展開している。工事費用の200万円を政府からの「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」約160万円と、エネチェンジが提供する導入支援金約40万円で賄う仕組み。
国がEV充電事業インフラ補助金を2023年の175億円から2024年には360億円と2倍以上に引き上げたこともあり、同社の設置台数も2024年3月末時点で累計2368口に。2023年12月末時点の2076口から3カ月間で14.6%も増えた。同事業の2024年12月期第1四半期(1〜3月)売上高は、前年同期比149.5%の269億円に成長している。それでもセグメント損失は△6億1800万円と黒字化のメドが立たない。「0円」で販売しているのだから当然だ。同社は連結から切り離したSPCにEV充電器を販売して売り上げを計上する会計操作で赤字圧縮を図ったのだ。
そこまでして「0円キャンペーン」を持続する理由は何か?それはEV普及をにらんだ「先行者利益」の確保だ。今は赤字でも、EVが普及して同社の業務用EV充電器がデファクトスタンダード(事実上の標準)になれば莫大な利益を得ることができる。EVの普及が進むことで、充電できない有料駐車場や宿泊施設、マンションは消費者に選ばれなくなるリスクが高まる。さらに有料充電サービスを提供できれば、新たな収入源となるはずだ。そうなれば有償でも、競って納入実績が豊富な同社のEV充電器を導入するようになるだろう。現在の「0円キャンペーン」は、そのための布石なのだ。
先行者利益を狙った業務用普通充電器が「時代遅れ」に?
だが、同社の思惑通りに事が進むかどうかは不透明と言える。EV充電の主流が急速充電に移りつつあるからだ。エネチェンジが展開しているのは主に6kWの普通充電器。急速充電器は30分間の充電で容量の80%まで充電でき、「日産アリア B6」ならば約370km走行できる。これに対して6kWの普通充電器では同時間の充電だと約20kmしか走行できない。
急速充電には発熱などで電池を劣化させるデメリットもあるが、ここ数年で電池の状況に対応した電圧の自動制御や温度管理が進歩。劣化を最小限に抑えることができるようになったことから、スマートフォンやスマートウォッチなどのウェアラブル端末、パソコンなどでは急速充電が標準になりつつある。この流れがEVに飛び火する可能性もある。
米テスラが提唱したNACS規格の「スーパーチャージャー」は水冷式ケーブルの採用などで、250kWの急速充電に対応している。トヨタや日産などの日本車メーカーをはじめ外国メーカーも2025年以降に北米で発売するEVはNACS規格に対応する方針を固めており、遠からず世界中のEVが同規格に対応することになりそうだ。
急速充電器が主流となれば、ENECHANGEが展開する普通充電器は「時代遅れ」のレガシーシステム化する。家庭用の普通充電器は安価であり、EVが普及すれば「自宅で普通充電、外出先では急速充電」が当たり前になるだろう。そうなると、赤字を計上してまで拡大した普通充電器網は資産どころか「お荷物」になりかねない。急速充電器への移行が急務だ。同社の将来を見る上で、充電インフラの変化は重要な「分岐点」となる。
文:糸永正行編集委員
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