TOB、海外ファンドの存在感が急上昇|早くも前年の3倍増

日本企業のTOB(株式公開買い付け)で海外投資ファンドの存在感が急速に高まっている。今年のTOB件数は9月初めに前年より2カ月早く60件(届け出ベース)に到達したが、その4分の1に海外投資ファンドが関与している。前年は年間を通じても5件にとどまっていただけに、様変わりだ。

前年より2カ月早く60件に到達

米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループは9月10日、福島県いわき市の温泉リゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」を運営する常磐興産に対して子会社化を目的にTOBを始めた。これが今年のTOBとして60件目。前年は60件到達が11月10日だったので、今年のハイペースぶりが際立つ。

フォートレスは最大約140億円を投じて、常磐興産の全株式を取得する。常磐興産はフォートレスの傘下で、老朽化した施設の設備投資資金を確保し、業務基盤の再構築を進める。

3連休明けの9月17日にはヒューリックが投資用不動産販売のレーサムにTOBを始めた。翌18日には物流企業のトランコムを対象にMBO(経営陣が参加する買収)の一環としてTOBがスタート。TOB件数はここまで62件(9月18日時点)を数える。10~12月が前年と同じペースなら、少なくとも年間88件と、2007年(102件)に次ぐ過去2番目の高水準となる計算だ。

海外ファンド、早くも3倍増

その牽引役として見逃せないのが海外投資ファンド。今年の現在までの62件中、海外ファンドの関与は16件に上り、しかも米国勢が15件と大部分を占める。一方、国内ファンドの関与は4件にとどまる。

前年(2023年)のTOBは年間74件と、2009年79件以来14年ぶりの多さだったが、海外ファンドの関与は5件(投資銀行を一部含む。国内ファンドは5件)に過ぎず、今年は早くも3倍近い増加だ。

また、2009年はどうだったかといえば、海外ファンドの関与は4件(同5件)で、さほど変わらない。コロナ禍以降では2020年5件(同6件)、2021年7件(同5件)、2022年9件(同6件)と推移してきた。

※2024年は9月18日時点、M&A Online集計

MBO、ファンドと組むパターンが優勢

常磐興産をTOBで買収するフォートレスは不動産関連に強みを持つファンドとして知られる。今年5月には、宮崎市の大型リゾート施設「フェニックス・シーガイア・リゾート」を、昨年はセブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店「そごう・西武」を買収したことが記憶に新しい。

MBOで株式を非公開化するトランコムは米投資ファンドのベインキャピタルと組んだ。買収総額は900億円超に上り、ベインキャピタルがTOBなどを行う。

TOBをめぐっては主要プレーヤーとして近年、投資ファンドの台頭が目覚ましいが、とりわけ顕著なのがMBOだ。かつてはMBO資金を銀行から借り入れるケースが主流だったが、最近は投資余力が大きい投資ファンドと組むパターンが優勢となっている。

実際、今年のMBO全13件中、9件に投資ファンドが関与し、このうち7件を海外勢が占める。なかでもベインキャピタルは今回のトランコムを含めて今年すでに3件にかかわる。

ちなみに、前年は16件あったMBOのうち、投資ファンドの関与は4件(国内勢1件)だった。

アクティビストの攻勢も一因か

TOB件数を押し上げている要因の一つと考えられるのが資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応への東京証券取引所の要請だ。PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業は買収の標的になりやすいうえ、アクティビスト(物言い株主)の介入を誘発する一因となる。

このため、目先の業績や株価にとらわれずに抜本的な事業構造改革を進めやすくするためや、場合によってはアクティビストの影響力を排除するために、株式の非公開化を選択する動きが広がりを見せている。その際、将来の再上場も念頭に、頼る先が投資ファンドという流れができつつある。

独立系システム開発大手の富士ソフトは経営の足かせとなっていた海外のアクティビストと決別するため、ベインキャピタルによるTOB提案を受け入れて、株式を非公開化することを決めた。

ただ、9月初めに始まった富士ソフトのTOBをめぐっては別の米国投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が対抗TOBの意向を表明し、海外勢による異例の争奪戦に発展しそうな雲行きだ。

文:M&A Online

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