【活況TOB】すでに前年超え、年間90件台をうかがう勢い
TOB(株式公開買い付け)が活況を呈している。2024年はここまで75件(11月8日時点、届け出ベース)を数え、2009年(79件)以来14年ぶりの高水準だった前年の年間74件を超えた。例年、11月、12月は件数が積み上がる傾向があり、前年並みのペースが続けば、年間90件台に乗せる計算だ。
TOB件数はリーマンショック前の2007年に過去最多の104件(M&A Online調べ)を記録。これに次ぐのが2009年の79件だが、長らく超えられないでいる。
ピーク期が再来へ
2000年代後半、11月8日にコネクターメーカーのI-PEX、住宅リフォームの安江工務店に対するTOB開始の届け出があり、今年の累計件数が75件に達した。
I-PEXへのTOBはMBO(経営陣による買収)の一環として行われ、創業家が主導して株式の非公開化を目指す。買付代金は総額331億円。上場を廃止し、足元の業績や株価にとらわれず、中長期の視点で事業構造の変革を推し進めるとしている。
一方、安江工務店へはサーラコーポレーションが最大約39億円を投じて完全子会社化する。サーラは主要事業の一つとして住宅関連事業を手がけている。両社は東海エリアを営業地盤としており、顧客基盤の相互活用などで業容拡大につなげる狙い。
TOBのピーク期はリーマンショック(2008年)をはさむ2000年代後半にさかのぼる。2007年に104件と過去最多を記録し、08年78件、09年79件だった。
その後、2010年代は概ね年間40~50件で推移した。復調したのはコロナ禍初年の2020年。この年に60件、21年70件に伸ばした。東証市場再編のあった22年54件に落ち込んだが、23年74件と09年(79件)以来の高水準となり、24年はさらに増勢を強め、再びピーク期を迎えつつある。
投資ファンドの関与、すでに倍増
TOBの活況を牽引するのは海外勢を中心とする投資ファンドだ。2024年のここまでのTOB全75件のうち、投資ファンドが関与する案件は22件(投資銀行も一部含む。一覧表を参照)と年間を通じて11件だった前年の2倍に達する。しかも22件中、海外ファンドが17件を占め、国内ファンドの関与は5件にとどまる。
記録的な円安水準は2022年春から2年半を超える。こうした中、潤沢な余剰資金を持つ海外ファンドが日本市場での買収にアクセルを踏み込んでいる姿が浮き彫りになった形だ。
また、ここまで全75件のTOBのうちMBO関連は14件あるが、ファンドとの連携が9件(海外勢7件、国内勢2件)を占めた。
MBOでは従来、買収資金を銀行融資で賄う場合が一般的だったが、近年は豊富な資金力に加え、事業再生や事業の成長性向上などの優れた経営ノウハウの獲得を目的に、海外ファンドと組むパターンが主流になりつつある。
KKR・ベインが富士ソフト買収で激突
足元のTOB戦線で最もホットな話題を提供しているのがシステム開発大手の富士ソフトをめぐる一件。KKRとベインキャピタルの米国を代表するファンド同士の一騎打ちの構図になっているからだ。買収金額は5000億円を超える。
先行するKKRは11月初め、富士ソフトへの第1回TOBで33.86%の株式(議決権ベース)を取得したと発表。これに対し、ベインは富士ソフトの賛同を条件として、KKRを上回る価格でのTOBを提案している。ただ、KKRが3分の1超の株式を確保したことにより、ベインがTOBを実行した場合も完全買収は事実上閉ざされた形だ。
今のところ、富士ソフトはKKRによる第2回TOBと、ベインが提案したTOBのいずれにも、賛成か反対かなどの意見を表明していない。富士ソフト株価はここへてきKKRによる買付価格8800円とベインが提示した9450円との間で一進一退が続いている。
◎2024年TOB:投資ファンドが関与した案件(11月8日時点)
文:M&A Online
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11/12 06:35
M&A Online