835馬力のV12エンジンで最高速度345キロ! アストンマーティンの新たなトップモデル 新型「ヴァンキッシュ」の“エレガント”な走りとは

クラス最高となる835馬力・1000Nmを発生する5.2リッターV型12気筒ツインターボエンジンをフロントに搭載するアストンマーティンのフラッグシップモデル、3代目「ヴァンキッシュ」の国際試乗会がイタリアで開催されました。どんな乗り味なのでしょうか。モータージャーナリスト大谷達也氏のレポートです。

性能的にはトップクラスのスーパースポーツカーだが、その乗り味は?

 イタリア・サルディーニャ島で行なわれたアストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」の国際試乗会に参加しました。

アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」の走り

アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」の走り

 V12エンジンをフロントに搭載する2ドア・2シータークーペであることから、先代「DBS」のフルモデルチェンジ版と捉える向きも多いようですが、それは必ずしも正しくないと、アストンマーティンのコミュニケーション部門でトップを務めるケビン・ウォターズは説明します。

「先代DBSは、DBシリーズ(この世代はDB11)をベースにしたスポーツモデルという位置づけです。いっぽうでヴァンキッシュは、その名のとおりDBシリーズ(現行世代はDB12)からは独立した存在のモデルです。ヴァンキッシュにDB12用とは異なる独自のシャシを採用しているのは、このためです」

 その決定的証拠といえるのがホイールベースです。

 先代DBSのホイールベースは2805mmで「DB11」とまったく同じ。いっぽう、新型ヴァンキッシュのホイールベースは2885mmで、「DB12」より80mmも長く設定されています。

 また、DB12のボディパネルは単にコンポジット製と表記されているので、ここにはプラスチックに近い素材が含まれていてもおかしくありませんが、ヴァンキッシュはすべてカーボンコンポジット製。DB12用とは、軽さの点でもコストの点でも大きく異なっているはずです。

 そしてDB12との最大の違いは、新型ヴァンキッシュが新開発のV12エンジンを搭載していることにあります。

 5年前にその開発が始まった新世代V12エンジンはアストンマーティンのパワートレイン部門で設計が行なわれた模様。エンジンの生産は外部のサードパーティに委託されますが、その拠点はイギリス国内にあるので、「純イギリス製であることには変わりありません」と前出のウォターズは胸を張ります。

 その最大出力が835psで、最大トルクは1000Nmを達成。新型ヴァンキッシュに345km/hの最高速度と3.3秒の0-100km/h加速タイムをもたらします。したがって性能的にはトップクラスのスーパースポーツカーと何ら遜色がないといっていいでしょう。

 では乗り味までスーパースポーツカーそっくりかといえば、これがまるで異なります。

 とりわけGTモードでは、路面からの突き上げを足回りが巧みに吸収してくれる快適な乗り心地が味わえます。

 それでいてボディはしっかりとフラットな姿勢に保たれるので、ハンドリングは正確そのもの。サルディーニャ島のワインディングロードでも一体感の強いコーナリングを体験できました。

どこまでも走っていきたくなるグランドツアラー

 エンジンの感触も、いわゆるスーパースポーツカー用とは大きく異なるものでした。

クラス最高となる835馬力・1000Nmを発生するアストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」搭載の5.2リッターV型12気筒ツインターボエンジン

クラス最高となる835馬力・1000Nmを発生するアストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」搭載の5.2リッターV型12気筒ツインターボエンジン

 ドライビングモード切り替えでGTを選び、通常の交通の流れにあわせて走ると、エンジン音はほとんど耳に届きません。

 最高速度が345km/hに達するハイパフォーマンスモデルにしてはロードノイズも低めで、高速道路をクルージングするようなシーンではとても快適でした。

 その心地よさは、このまま500km、ひょっとしたら1000km走るのも苦にならないと思わせるほどで、アストンマーティンが標榜するグランドツアラーというキャラクターにぴったりマッチするものです。

 それでも、アクセルペダルを強く踏み込んだままタコメーターの針が4000rpmを越える領域までエンジンを引っ張れば、滑らかななかにも心地いいビートが感じられるエンジン音が聞こえていて、「ああ、やっぱりV12は違うなあ」という感動が味わえます。

 もちろん、そのままアクセルペダルを踏み続ければ、公道上ではとても認められていない速度域に簡単に到達するはずですが、そうした走り方がヴァンキッシュに似合っているようには思えません。

 そうではなく、もっとエレガントに、もっと快適にハイウェイクルージングを楽しむ。そのためのぜいたくなパワーソースが、新たに開発されたV12エンジンの役割だったといっていいような気がします。

 そういったヴァンキッシュのキャラクターはエクステリアデザインにも表れていて、いかにもフロントエンジン・スポーツカーらしいロングノーズ・ショートデッキのプロポーションは、ある意味でクラシカルな美しさを湛えています。

 ただし、細部には最新の処理が施されていて、現代のスーパーグランドツアラーに相応しい斬新さも感じられます。アストンマーティンは、これまでにもエレガントさとスポーティさを絶妙にブレンドした2ドア・クーペを数多く生み出してきましたが、新型ヴァンキッシュもその例に漏れないように思います。

 インテリアデザインの美しさも見事です。

 私に割り当てられた試乗車は、シート地のレザーがフォレストグリーンという深い緑に染められていましたが、そのクラシカルでスポーティな色合いは、とても上品であると同時に上質で、いつまで見ていても見飽きませんでした。

 アストンマーティンのカタログモデルは、これでDBシリーズのDB12、ヴァンテージ、ヴァンキッシュの3モデルがいずれも最新世代に生まれ変わりました。

 わずか18ヵ月間で主要3モデルのフルモデルチェンジを終えてしまうそのスピード感には驚くしかありません。しかも、2022年2月に追加されたSUVのDBX707は、先ごろヒューマン・インターフェイス系が全面的に改められたので、アストンマーティンのカタログモデルはいずれもデビューから日が浅いものばかりになったといえます。

 100年を越す伝統を有しながら、その伝統にあぐらをかくことなく、常に進化を続けるアストンマーティン。今後の展開もまた、非常に楽しみといえそうです。

ジャンルで探す