進化したVWのコンパクトSUV「Tクロス」がヒットを続ける理由とは? 新型は“おしゃれ&上質な内外装”と“なめらかな走り”が好印象
VW「Tクロス」のマイナーチェンジモデルが上陸。公道でその実力を試すことができました。世界市場でヒットを記録するなど、このコンパクトSUVが高評価を得ている理由とは? 新型をドライブしながら考えました。
世界的なヒットモデル VW「Tクロス」人気の理由とは
世界的にヒットモデルとなっているVW(フォルクスワーゲン)のコンパクトSUV「Tクロス(T-Cross)」はなぜ売れ続けているのだろう? 先日、マイナーチェンジを受けてリフレッシュされた新型「Tクロス」をドライブしながら、そんなことを思い浮かべました。
VW「Tクロス」は、ヨーロッパだけでなく日本でもヒットを記録。VWを代表する人気モデルとなっています。
VWの人気モデルといえば、多くの人は「ゴルフ」をイメージすることでしょう。コンパクトハッチバックの「ゴルフ」はかつて、VWの販売をけん引していました。しかし今は、引き続きVWを代表するアイコン的な存在ではあるものの、セールス面を見ると他ブランドと同様、VWの売れ筋はSUVとなっています。
そんなVWで最もコンパクトなボディサイズを持つ「Tクロス」は、ここ日本でもスマッシュヒットを記録。2020年から2022年にかけては輸入SUVとしてナンバーワンの座を獲得しました。
昨2023年は、わずか400台ほどの差で惜しくも2位に甘んじてしまった「Tクロス」。とはいえ、トップは同じVWの兄貴分である「T-ROC」であることを考えると、VWにとってはこれ以上ない結果だったといえるでしょう。
「Tクロス」の車体設計を始めとするメカニズムの基本は、コンパクトハッチバックの「ポロ」。全長4140〜4135mmという「Tクロス」のボディサイズから見ると、日本車のトヨタ「ヤリスクロス」、ホンダ「WR-V」や「ヴェゼル」などが競合になるといってもいいでしょう。
「Tクロス」のエンジンは、1リッターの3気筒ターボで、駆動方式は前輪駆動のみ。4WDの設定はありません。この辺りは、4WDへのニーズに対応した日本のコンパクトSUVとは異なり、潔いというか日本以外の市場ニーズを忠実に反映した結果といえるでしょう。
今回、マイナーチェンジでブラッシュアップされた新型「Tクロス」を運転して感じたのは、まさにその巧みなサイズ感。狭い道の多い日本の道路環境でも扱いやすいボディサイズなのです。
確かに全幅は1785mmと日本のライバルに比べてワイドですが、実際のところ、1800mmを超えないサイズであれば気になることはほぼありません。よほど枠が狭い駐車場に停めるとかでなければ問題はないでしょう。
そして、やはり優れているなと感じたのはパッケージングです。リアシートのヒザまわりは驚くほど広く、ファミリーユースでも十分使えます。その上、ラゲッジスペースの容量だって、リアシート使用時で455リットルとクラストップの広さ。初代「ゴルフ」の時代から、VWはパッケージングの巧みさが高く評価されてきましたが、その伝統は新型「Tクロス」にもしっかりと息づいているのです。
しかも「Tクロス」、このクラスのSUVでは極めて珍しいリアシートのスライド機構を備えています。アウトドアレジャーへ出かける際などに多くの荷物を積み込むときは、リアシートを前方へスライドさせるだけで、リアシートを畳むことなくラゲッジスペースを拡大できるのです。この機構はライバルに対する大きなアドバンテージといえるでしょう。
洗練されてなめらかさが増したパワートレイン
そんな「Tクロス」に実施された今回のマイナーチェンジは、まさに“リフレッシュ”と呼ぶにふさわしい内容。基本メカニズムなどには変更がなく、内外装の変更と改良が主な改良メニューとなっています。
エクステリアは、前後のライト類を中心にデザインや仕様を変更。リアのコンビネーションランプは、“ジェリ缶”と呼ばれる予備のガソリンタンクもイメージさせる“X”状に光るようになり、左右のランプが細い水平のライトでつながるイマドキの仕立てとなっています。
インテリアには、“beats”サウンドシステムやシートヒーターを設定するほか、ダッシュボードにソフトパッドを張り込むことで質感を追求。特に、このソフトパッドの有無による印象の違いは大きく、従来モデルはやや質素で質感がライバルに追いつけていないと感じることもありましたが、新型ではその差が縮まりました。
1リッターのターボエンジンも、公式発表的には従来モデルからの変更点はありません。しかし、実際に乗ってみると、回転フィールが洗練され、なめらかさが増した印象です。
しかも、加速のつながりが明確に良化しました。公式資料に記載されない範囲で、おそらく制御などが煮詰められているのでしょう。デュアルクラッチ式トランスミッション“DCT”の制御もなめらかになり、より扱いやすさが増した印象です。
乗り心地は基本的に良好です。今回の試乗車は18インチタイヤを履いていましたが、段差を超えた際にときどきコツコツとした感覚を覚えることを除けば、フラットライド感も高くて十分に快適です。筆者(工藤貴宏)はこれで十分だと感じましたが、そのコツコツ感をなくしたければ、17インチや16インチのタイヤを履くグレードを選ぶといいでしょう。
そんな新型「Tクロス」を試乗してみて驚いたのが燃費のよさ。特に高速道路走行時は数値がグングン伸びる印象です。上手に運転すると20km/Lには届きそうなほどの高効率ぶりです。
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「Tクロス」はなぜ人気があるのか? その答え合わせとまいりましょう。
人気の理由は、扱いやすいボディサイズながら実用性に優れていること。そして何より、輸入SUVとしては手ごろなプライスゆえ、身近に感じる人が多いからでしょう。
かつて「ゴルフ」は、コンパクトな輸入車としては日本でもリーズナブルで、気軽に買いやすい輸入車でした。しかし、そんな「ゴルフ」も今ではボディサイズが大きくなり、その分、価格も上がって気軽とはいいにくい存在となりました。
その点「Tクロス」は、ボディサイズが小さくて価格も抑えめ。かつての「ゴルフ」のように身近に感じられるのです。まさに「Tクロス」は“かつての「ゴルフ」のような存在といえるでしょう。
これらの要素を踏まえれば、トレンドであるSUVであることを含めて、日本のVW車で1位を争う人気モデルとなっているのも当然の結果といえるでしょう。
10/23 17:10
VAGUE