フェラーリ新型「12チリンドリ」はサーキット走行だけでなく街乗りも快適! 最高時速340キロのフラッグシップ・スーパーカーが“究極の二面性”を手に入れた理由とは

2023年5月に世界初公開された、イタリア語で「12気筒」を意味する新型「12チリンドリ」の国際試乗会が開催されました。最新進化版のV12エンジンは、最高出力は830馬力を発生、日本での車両価格は、ベルリネッタが5674万円から、スパイダーが6241万円からとされているフラッグシップモデルの実力を試しました。

市街地では滑らかな乗り心地を披露する

 ルクセンブルクで行われたフェラーリ新型「12チリンドリ」(イタリア語で「ドーディチ・チリンドリ」と発音)の国際試乗会に参加してきました。

国際試乗会が開催されたフェラーリ新型「12チリンドリ」

国際試乗会が開催されたフェラーリ新型「12チリンドリ」

 フェラーリの新しいフラッグシップモデルである新型12チリンドリを見て、触れて、そして操ってみて思い出されたのは、2024年4月にマラネロで行われた、新型12チリンドリのスネークプレビュー(メディア向けの説明会)でエンリコ・ガリエラ氏が語った言葉でした。

 ガリエラ氏はフェラーリのチーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーという重職にあって、フェラーリが開く様々なイベントでブランドを代表するスポークスマンを務める人物です。

 そのガリエラは、新型12チリンドリのポジショニングについて、次のように語りました。

「スポーツカードライバー向きのローマがいっぽうにあり、サーキット走行向きのSF90がその反対側に位置するとすれば、12チリンドリのポジションはちょうどその中間にあたります」

 こう聞くと、12チリンドリがなんだか中途半端なキャラクターのように思えてきますが、ガリエラ氏は「スーパースポーツカーのパフォーマンスとグランドツーリズモの快適性を併せ持ったモデル」が新型12チリンドリだと説明したのです。

 この説明を聞いたときも私はうまく呑み込めませんでしたが、実際に新型12チリンドリに試乗すると、そのことがすんなり理解できるから不思議です。

 まず、市街地で新型12チリンドリを走らせると、その滑らかな乗り心地に驚かされるはずです。

 先代の「812スーパーファスト」は、硬い足回りから伝わるショックを頑丈なボディで巧みに受け止めているという印象でしたが、新型12チリンドリはそもそもサスペンション自体がしなやかで、路面からの振動はすべて足回りで吸収されているように感じられました。

 しかも、速度を上げてもボディはフラットな姿勢を崩さないので、ハイスピードクルージングでも疲れにくく、そして強い安心感が得られました。

 ここまでは新型12チリンドリの優れた快適性を証明するエピソードですが、クローズドコースでハードコーナリングを試しても、12チリンドリは見事なハンドリングを示して私を驚かせたのです。

 今回はルクセンブルク内に建つグッドイヤーのプルービンググラウンド(テストコース)で限界的なテスト走行を行いましたが、このような状況でもサスペンションがしっかりとボディを支え、コーナリングに伴うロールやピッチをしっかりと抑え込んでくれたのです。

 したがって、瞬時に向きを切り返すようなシーンでも、狙ったラインをピタリと捉えるのは容易でした。

新開発の自然吸気V12エンジンは 踏めば官能の“フェラーリ・ミュージック”を奏でる

 それにしても、このような状況で鋭いハンドリングを示したのは、812スーパーファストに対して20mm短縮したホイールベースと、新たに採用した独立型4WS(4輪操舵装置)が功を奏しているように思えました。

フェラーリ新型「12チリンドリ」のインテリア

フェラーリ新型「12チリンドリ」のインテリア

 ホイールベースを短くすればステアリング・レスポンスがよりシャープになることは、いうまでもありません。ただし、ただホイールベースを短くするだけでは、高速コーナーでの安定性が低下してしまいます。

 それを補うのが4WSの役割で、高速コーナーでは前輪と同じ向きに少しだけ後輪の向きを変えることにより、後輪が生み出すグリップレベルを改善し、安定性を高めているのです。

 しかも、新型12チリンドリに搭載された独立型4WSは、左右に素早く向きを変えるシーンでは外側の後輪だけを駆動することにより、両後輪の向きを制御するよりも俊敏な反応速度を実現。よりシャープなハンドリングの実現に役立ったといいます。

 テストコースで新型12チリンドリを思い切り振り回せたのは、この独立型4WSの効果が大きかったように私には思えました。

 さらに、テストコースを走っている途中で急な夕立に見舞われたのですが、湿った路面で前輪がアウト側に逃げ出すアンダーステアが発生しかけると、そのことを伝えるために前輪がブルブルと小刻みに振動。これがステアリングを通じて感じられるため、それ以上アンダーステアを増やさない対処をとることが簡単にできました。

 反対に後輪がアウトに流れ出すオーバーステアが出始めると、リアタイヤがむずがる様子がシートから伝わってくるので、こちらも難なく対処できます。

 つまり新型12チリンドリのシャシは、市街地での快適性だけでなく、サーキットでの限界走行にも十分応える強靱さも持ち合わせていたのです。

 そうしたシャシとともに快適性とハイパフォーマンス性を見事に両立させていたのが、新開発の自然吸気V型12気筒エンジンでした。

 このエンジンは最新のユーロ6eという排ガス規制をクリアしているだけでなく、市街地域では静かで、しかも柔軟なドライバビリティを発揮。ところが、スロットルペダルを深々と踏み込んで回転数を上げれば、エンジンが発する音とは思えない美しい音色で乗る者を魅了してしまうのです。

 とりわけ、8000〜9000rpmの領域では、女性が泣き叫ぶようなフェラーリ・ミュージックを響き渡らせ、五感を激しく刺激する官能性をもたらしてくれます。

 もちろん、そのパフォーマンスは抜群に高く、最高出力は実に830psを発揮。0-100㎞/h加速は2.9秒で駆け抜け、最高速度は340km/hを上回るといいます。公道を走行できるスーパースポーツカーとしては、まさに世界最高峰のレベルにあるといって間違いありません。

 快適性とハイパフォーマンス性の両立。これを最新のシャシ技術と自然吸気V12エンジンによって実現した12チリンドリは、フェラーリのフラッグシップモデルに相応しい1台といえるでしょう。

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