伝統のアメリカンV8スポーツカーが「未来的な走り」を獲得! シボレー「コルベット」初のハイブリッド4WD「E-Ray」公道での印象は?

世界的にスマッシュヒットを記録している8世代目のシボレー「コルベット」のラインナップに、ブランド史上初めてモーターを駆動力に利用する“ハイブリッド4WD”採用の新機軸「コルベットE-Ray」が加わりました。気になるドライブフィールはどのような仕上がりなのでしょうか?

初物づくしの“C8”に史上初のハイブリッド4WDを設定

 初めての“ミッドシップ”、初めての“DCT(デュアルクラッチトランスミッション)”、そして初めての“右ハンドル”……。“C8”と呼ばれる8世代目のシボレー「コルベット」は、ブランド史上初の要素が盛りだくさん。「コルベット」の歴史に新たなページを刻む、大きなターニングポイントを迎えた世代となっています。

 そんなC8「コルベット」に、新たな“初”が加わりました。「コルベット」史上初のモーターを搭載した“ハイブリッド”と、初めての“4WD”です。

シボレー新型「コルベットE-Ray」

シボレー新型「コルベットE-Ray」

 新たに加わったブランド初のハイブリッドモデル「コルベットE-Ray(イーレイ)」は、502psの6.2リッター自然吸気V8エンジンに加えて、162psのモーターをフロントに搭載。システムトータルの最大出力664psと、高性能仕様である「コルベットZ06」の646psを凌駕する史上最高のパワーを誇ります。

 スゴいのはその加速性能で、停止状態から時速60マイル(約96km/h)まで必要とするタイムはわずか2.5秒。この鋭い発進加速も歴代「コルベット」で最速です。

 気になるハイブリッドシステムは、かなりシンプルなもの。車体中央の後ろ寄りに積まれた“LT2”型と呼ばれる大排気量OHVエンジンがリアタイヤへパワーを送り出す一方、前輪はエンジンとは完全に切り離され、車両前部に積まれたモーターからの駆動力でタイヤを回すモータードライブ仕様となっています。前輪と後輪で異なる動力源を活用しているのが特徴といえるでしょう。

 ちなみに、ミッドシップのハイブリッド4WDといえば2世代目のホンダ「NSX」をイメージする人も多いことでしょう。確かに「NSX」もフロントはモーターだけで駆動するなど似ている部分はあります。しかし「NSX」は後輪もモーターが駆動をサポートするなど、ハイブリッド機構との連携がより複雑。それに比べて「コルベットE-Ray」は、とてもシンプルな仕かけなのです。

 エンジンを止めてモーターだけで走行できるのも、「コルベット」史上初めてのこと。その際の上限速度は約72km/hとされています。

 また、モーターだけで走れる航続可能距離はバッテリー残量によって大きく左右されますが、最大で6.4kmとされています。このモーター駆動モードはドライブモードセレクターを「ステルスモード」に切り替えると作動し、早朝の外出や深夜の帰宅時など、静かに走行したいときに大きな効果を発揮します。

 正直なところ、あの「コルベット」が図太いV8サウンドを奏でることなく無音で走る姿はかなり新鮮です。

 ハイブリッドといえば、省燃費をイメージする人も多いかもしれません。「コルベットE-Ray」のモード燃費値は公表されていませんが、スタンダードモデルや「Z06」と比べるとしっかり向上はしています。

 しかし肝心なことは、「コルベットE-Ray」のハイブリッド機構は一般的な燃費重視系のハイブリッドとはベクトルが違うということ。モーターを加えることでさらなるパワーを引き出し、より速く走ろうというのが「コルベットE-Ray」のねらいだからです。速さと新感覚のためのハイブリッド、ととらえるのが正解です。

「コルベットE-Ray」は、「コルベット」らしさをきちんと受け継ぎつつも、次の時代へのシフトを担う“「コルベット」からの新たな提案”といえるでしょう。

これまでの「コルベット」にはなかった未来的な雰囲気をプラス

 そんな「コルベットE-Ray」の走りはどんな印象なのでしょうか?

シボレー新型「コルベットE-Ray」

シボレー新型「コルベットE-Ray」

 正直にいうと、モーターだけで走行する「ステルスモード」を除くとハイブリッド感は希薄です。

 モーターはあくまで黒子に徹していて、やはり濃いのはV8エンジンの存在感。ただし、アクセルペダルを踏み込んだときの加速の立ち上がりがスタンダードモデルよりも鋭いのはきっと気のせいではなく、モーターのサポートが効いているからでしょう。

 アクセル全開時の加速は、さすがの力強さと迫力。「ヒューン」といういかにもモーター駆動らしい音の演出もあり、これまでの「コルベット」にはなかった未来的な雰囲気も感じられます。

 ハイブリッドだからといって全面的にモーター駆動フィールを押し出すのではなく、V8エンジンの躍動感もしっかりと感じさせながらフレーバー的に未来感を演出するというバランスが絶妙。「ハイブリッドだからつまらない」、「何かが物足りない」という気持ちにはさせない仕上がりだと実感します。「コルベット」はモーターが組み込まれても、やっぱり「コルベット」なのでした。

 そんな「コルベットE-Ray」の価格(消費税込)は2350万円。1420万円のスタンダードグレード「2LT」に比べると高価ですが、高性能仕様である「Z06」の2500万円よりは低く設定されています。

 車両重量は、「2LT」に対して140kg、「Z06」に対して90kg増となる1810kg。この辺りを見ても、もしサーキットを走るのであればスタンダードモデルや「Z06」の方がいいでしょう。多くの人が「コルベット」に求める野性的な風味も、やはり純エンジン車の方が格上です。

 しかしながら、より鋭い加速、そして未来を感じさせる加速感を求めるのであれば、「コルベットE-Ray」は相当魅力的な存在。「どちらがいい」というよりも、多彩な選択肢の中から好みに合わせて選べるのは重要なことです。

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 蛇足ですが、筆者(工藤貴宏)は「コルベット」に乗るたびに「スーパーカーよりも手が届きやすい価格設定ながら、分かりやすい高性能とエモーショナルな感覚に満ちあふれているクルマづくりこそ、2代目のホンダ『NSX』には必要だったのではないか?」と考えてしまいます。

 たしかに新世代「NSX」は意識が高く、エンジニアの志もとても高いものでした。だからこそ、「もしハイブリッドがもっと刺激的なドライブフィールで、さらにハイブリッド機構のないもっと割安のガソリン車があれば、多くの人に受け入れられただろうに」と思わずにはいられないのです。

「NSX」になかった魅力を備えた「コルベット」が世界的に成功を収めている原動力は、巧みな商品設定にあると考えます。

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