“小さな高級車”の印象を強めた新型「ミニ・クーパー」の実力とは? 中身はガラリと刷新!「ゴーカートのようなキビキビ感」は健在か

先のフルモデルチェンジで、ネーミングを「ミニ・クーパー」へと改めたミニの3ドアモデル。その電気自動車版に、ひと足早く自動車ライターの渡辺敏史さんが試乗しました。プラットフォームとパワートレインを一新した新世代ミニの印象とは?

日本市場では初となる“ミニBEV”の気になる実力

 BMWの傘下としてミニブランドが独立&再興を遂げたのは、21世紀に入った直後、2001年のことです。

小さな高級車として強い存在感を放つ新型「ミニ・クーパー」

小さな高級車として強い存在感を放つ新型「ミニ・クーパー」

 それ以来、四半世紀近く、ミニは3世代に渡って世界のカスタマーに親しまれてきました。その間、“スピンアウト的物件”もいくつか生まれましたが、とりわけ「カントリーマン」は市場に根づいた感があります。

 考えてみれば、ミニに加えてロールスロイスと、英国を象徴する大小ふたつのアイコンを巧く切り盛りしているわけですから、BMWもなかなか器用な会社ですよね。

 そんなミニも2024年、基本となる3ドアモデルが4代目へとフルモデルチェンジを果たし、そのネーミングもよりイメージしやすい「ミニ・クーパー」となりました。

 新生「ミニ・クーパー」のハイライトといえば、従来からのエンジン車に加え、新たにBEV(電気自動車)版がラインナップされたことでしょう。

「クーパーC」(消費税込396万円)と「クーパーS」(同465万円)がラインナップされるエンジン車は、アーキテクチャー自体は3代目のキャリーオーバー。例えるなら、ホンダの現行「N-BOX」のような熟成型の刷新といえます。

 一方、インフォテインメント系はガラリと新しくなり、そちら目当てでお財布を開いてしまう人も現れそうです。

 対するBEVの展開グレードは、「クーパーE」(消費税込463万円)と「クーパーSE」(同531万円)の2本立て。つまり「クーパーE」が“ミニBEV”の識別子となります。

 ミニとBEVの関係は2009年にまでさかのぼります。当時、BMWがBEVの都市部におけるユーザビリティをリサーチする上で、カスタマーにリースされた「ミニE」というモデルがその端緒となります。

 2代目の3ドアをベースとするそのモデルは、多分に試作車的な要素が大きく、リアシート部に駆動バッテリーを搭載した2シーターモデルと、パッケージ面でも商品化は難しいものでした。

 次いでミニのBEVが登場したのは、2019年のこと。3代目の3ドアをベースとするそれは、使い勝手もエンジン車に準じたものとなりつつ、航続距離は234kmとコミューター的な用途に準じたこともあり、日本市場への導入は見送られました。

 というわけで新型「ミニ・クーパー」は、日本における初めてのミニBEVとなるわけです。

●BEVとエンジン車ではアーキテクチャーが異なる

 ミニBEVの車格は、エンジン車に限りなく近い……というか、ほぼ同じのようにもうかがえますが、ホイールベースはBEVの側が30mm長くなっています。

 それが物語るように、実はBEVモデルはエンジン車とはアーキテクチャー自体が異なっています。

 BEV専用に開発されたそれは、中国の長城汽車と折半出資の合弁会社・光束汽車が生産を担当。2023年に稼働開始したばかりのBEV専用ラインで生産されることになります。まっさらの車台をまっさらの設備で……という機会は、クルマ屋の歴史においてもそうそう出くわすことはありません。

 搭載されるバッテリーの容量は、「クーパーE」が40.7kWh、「クーパーSE」が54.2kWh。航続距離はWLTCモードで前者が344km、後者が446kmと発表されています。

 出力的には、「クーパーE」が184ps/290Nm、「クーパーSE」が218ps/330Nmとなり、動力性能を示す0-100km/h加速は「クーパーE」が7.3秒で「クーパーSE」は6.7秒、最高速は前者が160km/h、後者が170km/h……と、いずれもホットハッチ級の瞬発力を備えています。

 ゆえに、68万円の価格差の多くは、航続距離の差ということになるかもしれません。ちなみにV2Hにも対応予定とのことで、自治体や自宅環境によっては補助金等の額も変わってくることになるでしょう。

ドライブフィールはけっこう大人になった雰囲気

 ミニBEVの内装のハイライトは、前述のエンジン車と同じく、一新されたインフォテインメントシステムにあります。

小さな高級車として強い存在感を放つ新型「ミニ・クーパー」

小さな高級車として強い存在感を放つ新型「ミニ・クーパー」

 これは、サードパーティのアプリ参入も容易なAndroid Automotive OSをベースに構築されたBMW OS9を元ネタに、グラフィックやサウンドなどをミニ用に最適化したもの。操作系の多くは、240mm径のOLEDタッチパネルスクリーンに内包される方式となります。

 ユーザーインターフェースはよく練られていて、画面にはよく使う機能をウィジェットとして表示することが可能、さらに、速度などの走行情報は標準装備のヘッドアップディスプレイにも表示されるなど、デザインと使い勝手をできるだけ両立しようと考えられているようです。

 そんな“ミニBEV”の走りの雰囲気は、けっこう大人になったという感じです。

 これは、すでに日本に上陸している新しい「ミニ・カントリーマン」にも共通する印象なのですが、以前に比べるとより小さな入力域からきちんとアシが動くようになり、クルマの姿勢変化がリニアに伝わるようになりました。これまでのミニを知る方には、ちょっとやわらかめのセッティングになったかな、と思われるところもあるかもしれません。

 でも一方で、タイヤのケース剛性にも頼りながら横方向のゲインを高めていた従来のセットアップに対して、タイヤをきっちり路面に着けて粘りや踏ん張りみたいなところをしっかり使っていく……そういう方向性に賛同する向きも多いのではないでしょうか。

 さりとて、舵を切り増していけばゴーカート的なキビキビ感はいまだ健在。車格的に同等な“Bセグメント”級のモデルと比べても、その非凡さが伝わってきます。

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 デザインはよりシンプルに、乗り味は上質さや奥行きを増して……と、その結果、小さな高級車的な存在感も見せるようになった新型「ミニ・クーパー」。

 BEV化によりもたらされた変化は、ミニというブランドに新たな魅力を加えることになったといえるでしょう。

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