47歳、手取り20万円で派遣社員…老後は乗り切れる?
貯蓄だけの生活にならず、かつ少ない年金で充実した老後を送れますか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、老後資金について悩む、派遣社員として働く47歳の女性。まとまった貯蓄はあるが、今後どれだけ働けるかがわからず、できれば実家に戻りたいが、それも不確定とのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
ハケンジョシさん(仮名)女性/派遣社員/47歳
関東/賃貸住宅
家族構成
一人暮らし相談内容
少ない資金で老後を乗り切る方法を教えてください。大学卒業後、5年近く個人事業主をしたのち派遣社員をしています。派遣社員になったタイミングで厚生年金に加入しましたが、20歳から個人事業主をしていた計7年間、年金が未納です。また、派遣社員のため65歳まで職があるかも不安です。将来は実家に戻りたいと考えておりますが、妹が相続する予定のため確実ではありません。順調にいけば65歳までに2000万円は貯められると思いますが。それ以上大幅に増える見込みはありません。少ない年金と貯金で老後を乗り切る方法を教えてください。
個人的には、ローン完済済みの実家がありますので、公務員の妹と同居できれば、年金が少なくても生活は十分可能と考えております。ただ、何らかの事情で持ち家を手放す場合、または同居できなかった場合の老後プランをシミュレーションしていただければと思います。
稼ぐ能力が乏しい者でも、老後資金を貯めるだけの生活にならぬよう、ある程度充実した中年期を送りながら、少ないお金で老後を乗り切る方法を教えていただければ大変ありがたく思います。
家計収支データ
ハケンジョシさんの家計収支データは図表のとおりです。家計収支データ補足
(1)収入について手取り18万~23万円程度。時給のため、月によって変動がある。現在の就業先に派遣社員として長く在籍。
相談者コメント「時給アップは見込めません。また、年齢的に社員化も難しいと言われております。30代前半から並行して就職活動を10年ほど行いましたが、採用に至りませんでした」
(2)今後の住まいについて
失職または母親が亡くなった時点で実家へ戻ることを考えている。相談者本人は将来的に同居を希望しているが、妹の意思による。母は70代、年金暮らし。現在の職場は実家から通える範囲だが、就業先の方針で一定周期で移転するため、今後も通勤できるかは不明。
(3)通信費と趣味娯楽費の内訳
通信費:携帯電話代2000円+インターネットのプロバイダ料3000円
趣味娯楽費:習い事1万円
(4)加入保険について
本人/医療共済(病気死亡400万円、入院1万3500円、他に手術、通院、障害、死亡、先進医療特約)=保険料4000円
(5)年金の見込み額
ねんきん定期便の記載額は年額68万6800円。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:60歳以降の収入が老後の生活を左右するアドバイス2:家賃を下げることも有効な老後対策
アドバイス3:最善を求めて、できるだけ早く話し合いを
アドバイス1:60歳以降の収入が老後の生活を左右する
老後についてのご相談ですが、老後資金の貯め方として「稼ぐ能力が乏しい者でも、老後資金を貯めることに特化せず、ある程度充実した中年時代を送りながら」というご希望があります。その中で「ある程度充実した」という部分を、金額にしてどのくらいに想定するか。それについての記述はありませんでしたので、現実的なところとして、趣味娯楽費を月1万円から2万円に増やして、試算をしてみます。
現在の貯蓄が月5万円ですから、1万円減って4万円。それを60歳になるまで継続すれば13年間で624万円。したがって60歳になった時点で、それまでの間、大きな支出がなければ、手持ち資金=老後資金は2324万円(利息等は考慮せず)となります。
問題は、そこから公的年金支給開始となる65歳までの5年間です。仮に、その間、まったく収入がなく、生活費が今と変わらなければ、5年間で900万円。老後資金が一気に半分近く減ってしまいます。
ご相談文に「65歳まで今のまま働けるかどうか不安」とありますが、やはりこの5年間でできるだけ老後資金を減らしたくはありません。
逆にいえば、どの程度その減りを抑えることができるかが、老後の大きなポイントのひとつといってもいいでしょう。理想は、生活費分の収入=手取り15万円は得るということ。そこを目指してほしいと思います。
公的年金の受給額は、このまま働き続けて、年間90万~100万円といったところ。生活費は年間180万円ですから、不足額は85万円前後。65歳から25年間(90歳)で2125万円。65歳までの5年間、老後資金が目減りしていなければ、90歳までは足りることになります。
ただし、当然長生きリスクも考慮する必要があります。途中、まとまった支出が発生しないとも限りません。したがって、収入は下がっても構わないので、70歳まで働くことを目標にしたい。月5万円の収入でも5年間で300万円。それがそのまま老後資金として加算されます。
アドバイス2:家賃を下げることも有効な老後対策
現状のままであれば、できるだけ長く働くことが老後に備える上での大きなポイントとなりますが、想定したとおりに収入を得られるかどうかは、もちろん不確定であり、そこが今後のリスクでもあります。では、それにはどう対処すべきか。手短な方法としては、生活コストを下げることが有効です。ただし、家計は保険も含めて、ほぼ無駄がありません。よくここまで抑えていると思えるほどです。
そうなると、住宅コスト=家賃を下げるしかありません。来年から月1万円下げることができれば、90歳までで実に500万円も住宅コストを下げることができます。
アドバイス3:最善を求めて、できるだけ早く話し合いを
しかし、ハケンジョシさんも希望しているように、実家に戻るという選択肢が方法としては最善でしょう。現在の家賃は、生活費の50%以上を占めています。もし実家に戻られると、単純計算で年間96万円、10年間で960万円の生活費が節約できることになります。結果、60歳以降、働くことができなくても、資金的に大きく困ることはないと考えていいでしょう。
そうなると、妹さんとの問題をいち早くクリアしなくてはいけません。
データには「相続は妹がする予定」とありますが、すでにそういう取り決めをされたのでしょうか。あるいは現在、妹さんはお母さんと実家で暮らし、世話をされているのでしょうか。仮にそうだとして、妹さんの同意がなければ、実家に戻ることはできないのでしょうか。
そもそも、相続については、ハケンジョシさんも法定相続人の一人であり、資産を等しく相続する権利(実家の代わりに同等の現金を相続するなど)があります。その意味で、立場は対等だともいえます。
確かに、相続やそれも含めた実家については、親族間のデリケートな問題ですし、これまでの経緯もここではわかりません。簡単には話が進まない可能性もあります。
しかし、いつまでも妹さん次第では、ハケンジョシさんも今後のライフプランが立てづらくなります。
できるだけ早く、妹さんと(あるいはお母さんも交えて)そのことを話し合うべきでしょう。ご自身が実家に戻りたいという旨を伝えた上で、そのためにどうするべきか。それを踏まえた上で、老後の準備を進めるべきです。
そして、もし可能なら、お母さんとの同居を含めて、できるだけ早く実家に戻ることも検討されてはどうでしょうか。仮に転勤になった場合、一時的に賃貸住宅を利用しても、トータルでは十分な節約になります。
また、今後、何らかの理由で実家を手放すことになったとしても、結果的により長い期間、実家で生活することにつながります。
相談者「ハケンジョシ」さんから寄せられた感想
深野先生、アドバイスありがとうございます。60~65歳の過ごし方が大きな課題であること、また、先生のアドバイスと私自身の考えとのブレが少なかったことで目標が立てやすくなりました。60代で15万円の収入を得るのは難しいと思いますが、少しでも収入を確保し、資金の減りを緩やかにできるよう頑張りたいと思います。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:清水京武
(文:あるじゃん 編集部)
11/08 22:20
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