「寝台列車」本格復活のカギは出張? 「ホテル高騰時代」に光る新たな魅力、コスト削減と快適性で注目か

運行管理の壁

サンライズ瀬戸(画像:写真AC)

サンライズ瀬戸(画像:写真AC)

 寝台列車といえば、現在、東京と出雲市を結ぶ「サンライズ出雲」や、東京と高松(時期によっては琴平まで延長運転もある)を結ぶ「サンライズ瀬戸」くらいしか定期運行していない。

 これらの列車は、

・JR東日本
・JR東海
・JR西日本
・JR四国

の4社をまたいで運行されている。かつてのブルートレイン時代も、長距離運行が基本で、複数のJR会社をまたぐものが多かった。これにより、運行管理が難しくなり、ブルートレインの多くは廃止された。

 しかし、社会情勢は日々変化しており、

「寝台列車がなくなってしまったのは惜しい」
「寝台列車が復活してほしい」

といった声も増えてきている。ということで、本稿では、寝台列車の復活について取り上げる。感情的な視点は排除し、経済的合理性に基づいた視点で論じたい。

出張旅費構造の変化

出張のイメージ(画像:写真AC)

出張のイメージ(画像:写真AC)

 皆さんの職場では、出張規定はどのようになっているだろうか。

 昔は、距離に応じて新幹線や特急列車の普通指定席往復代金、規定の宿泊代金(宿の実費ではなく、1泊1万円などの一定額支給で、プラス・マイナスは出張者の裁量に任せる)、日当の合計を職場が支給するのが一般的だった。

 しかし、最近ではこの規定の宿泊代金に関する問題が増えている。出張者が安い宿を選ぶことで、差額が利益として残り、これが職場によっては不公平感を生むこともある。

 また、職場の資金で利益を得ることに対して反対の意見も出てきた。そのため、現在では、

「普通指定席の往復代金 + 宿泊費の実費(上限額は1万円から1万2000円) + 日当」

という支給方法が増えている。

企業の求める出張像の変化

過去の接待のイメージ(画像:写真AC)

過去の接待のイメージ(画像:写真AC)

 最近では、高い企業倫理が求められるようになっている。

 新幹線が発達し、高速鉄道が日本各地を結ぶようになったことで、

「宿泊の必要性」

が減少してきた。以前は

・前入泊
・業務後の宿泊

が一般的だったが、現在ではこれらを極力省く方向になっている。出張業務の時間をできるだけ短縮し、現地での

・観光
・会食
・接待

を避ける傾向が強まっている。要するに“遊びの時間”を持たせず、出張業務を中心に短時間で終わらせることが職場側の本音である。

 現在は“潤い”のない時代だが、北陸新幹線の延伸により、東京から北陸へのアクセスが大幅に向上した。その結果、出張業務の終了後に北陸の新鮮な魚を楽しむという楽しみが奪われたと、金沢延伸時や敦賀延伸時に多く報じられた。ただ、宿泊代金を削減できることは、職場側にとってはメリットである。

インバウンド需要で宿代高騰

ノビノビ座席(画像:写真AC)

ノビノビ座席(画像:写真AC)

 宿泊費の上限を超えて「差額を自腹で払った」といった投稿もSNSで見かける。ほかには

「ホテル代が異常に高い」
「朝食代は自腹」
「日帰りでないと無理」
「出張宿泊費の上限を変更してほしい」

といった声が多い。例えば、東京から大阪への1泊2日の出張では、のぞみ号を利用した場合、往復運賃は

「2万7740円」(所要時間2時間30分、走行距離556.4km)

となる。ホテル代1泊朝食付きの上限額は税込み1万円、日当2日間6000円で、合計支給額は4万3740円となる。

 一方、サンライズを利用する場合、東京~大阪間では、「ノビノビ座席」で運賃と指定席特急料金を合わせた片道の合計が1万2400円、B寝台個室ソロの片道合計が1万8470円(運賃8910円、特急料金2960円、B寝台料金6600円)、B寝台個室シングルは1万9570円(運賃8910円、特急料金2960円、B寝台料金7700円)となる。新幹線代とホテル代を合わせた金額は寝台特急の料金よりも高く、

「片道を寝台列車」

にすれば日当を抑えることができ、職場側にもメリットがある。

 宿泊代金や日当の抑制という職場側のメリットに加え、

「移動しながら睡眠を取れる」

という出張者側のメリットもあり、夜行列車はビジネスパーソンにも有益だと考えられる。かつて東海道本線の急行銀河号は「ビジネス急行」とも呼ばれていたが、現代のビジネスサポートという観点からも夜行列車には意味があるのではないか。

夜行バスvs寝台列車

夜行バス(画像:写真AC)

夜行バス(画像:写真AC)

 夜行バスは、コロナ禍を経て需要が戻りつつあり、路線の再開も進んでいる。宿泊代を抑えられるのは職場側にとってメリットがあり、出張者側は移動中に睡眠が取れるため、労使双方にとってメリットがある。

 東京~大阪間には多くの夜行バスが運行されており、少しの自腹で特別シートを利用するビジネスパーソンも増えている。また、プライベートの夜の時間をバスの車内で過ごすことも一般的になってきた。

 筆者の周囲にも、中小企業の部長以上やフリーランスなど、夜行バスをビジネスで愛用している人が少なくない。時間とお金を有効に使えるため、夜間移動には大きなメリットがある。

 ただし、関東バス(東京都中野区)などのドリームスリーパーが登場した際にも話題になったが、

「完全に横になれるベッド形式のバス」

は、

・道路運送法
・道路運送車両法

の制約により成立しない。この点を考慮すれば、完全に横になれる寝台列車がビジネスユースに向いているともいえる。今後、夜行バスの愛用者を寝台列車にシフトさせるためには、市場調査が必要だろう。

ビジネス列車の新時代

B寝台の表示(画像:写真AC)

B寝台の表示(画像:写真AC)

 仕事やプライバシーの保護、疲れにくさといった観点から見ると、サンライズのノビノビ座席程度では十分な人気が出ない可能性があると考えられる。やはり、サンライズの

「B寝台個室ソロ」

のような部屋が多くを占める、ビジネスサポート型の夜行列車にこそ可能性があるのではないか。

 パソコンを使った仕事、休息、睡眠という三つのニーズを満たすことを考慮すれば、個室ソロを中心とした車両が、かつて人気を集めた急行銀河のようなビジネスサポート型の夜行列車になるだろう。もちろん、そのような夜行列車は観光目的の利用者にも喜ばれるはずだ。

 しかし、寝台列車の運行にはJR各社の協力が不可欠であり、運行管理やコスト面などで課題が多いため、現状では運行しない方がよいという意見もある。正確なデータはないが、現代の技術でサンライズの代替編成を製造すると、1編成7連で

「50億円」

はかかると予想される。電車の減価償却期間は13年で、特定の利用形態においては

「30~35年」

の運用を見込んで設計されているため、維持や更新のコストも考慮しなければならない。現在のサンライズの価格を下げることは難しいだろう。需要と供給を考慮すると、サンライズと同等、もしくは

「1.1倍程度の価格帯」

が妥当だと思われる。

 ビジネスユーザーにとっては、出張費用を節約できるうえに、夜行バスとは異なり、横になりながら移動できる寝台列車の復活を期待してしまうのも無理はない。サンライズも、ブルートレインを超えるエポックメーキングな存在となった。長期的な鉄道の維持と成長戦略として、寝台列車を

「ひとつの選択肢」

として位置付けておきたい。

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