地域密着の理念崩壊? JRダイヤ改正で減便・減車・無人化、もはやホンネは「在来線に乗らないで」なのか?

ローカル線の利用者減少は人口の要因か

花輪線(画像:写真AC)

花輪線(画像:写真AC)

 毎年10月末にJR旅客会社の決算発表が行われる。また2010年代後半から同時期に各社の「線区別」の利用状況が公開されるようになった(JR東海を除く)。

「線区」とは、同じ名称の路線でも区間により利用状況に差があるので、いくつかの部分に分けて評価するためである。以前はこの種のデータは会社の内部情報として入手が困難だったが近年は公開されるようになった。JR会社によっては

「ご利用の少ない線区」

などと別枠で表示する例もあることから、経営の重荷になる赤字ローカル線の廃止に結びつけたい意図があると推察される。

 国鉄の分割民営・JR発足(1987年)当時、JR各社は全国画一的な経営を改めて地域密着をめざすとアピールした。しかしそれ以後、ほとんどのローカル線で利用者の減少が続き、半減ならまだましなほうで、JR発足当時の1~2割という例さえ見られる。利用者減少の理由として沿線の人口減少が挙げられることが多く、ことにローカル線では高校生の通学が利用者に占める割合が多いため少子化の影響も加わる。しかしそれだけが要因だろうか。

 筆者(上岡直見、交通専門家)は移動には鉄道を優先して利用し、ローカル線もできるだけ使うようにしている。しかしJR各社では、大都市圏以外ではダイヤ改正のたびに不便になり

「乗ろうにも乗れない状況」

が拡大している。

 一例を挙げるとJR東日本の花輪線 (岩手県・秋田県)では、JR発足直後には増便が行われたが、その後はダイヤ改正のたびに便数が減り、利用者はコロナ前の2019年でJR発足時から

「67%低下」

している。一方で沿線人口は、減少傾向とはいえ同期間で17%の低下にとどまる。このような利用者の激減は人口減少だけでは説明できない。

10年ごとの人口減少と輸送密度

乗車人員、沿線人口、高校生(相当年齢)人口、従業者数(画像:上岡直見)

乗車人員、沿線人口、高校生(相当年齢)人口、従業者数(画像:上岡直見)

 そこでJR東日本の188線区について、2000(平成12)年から10年おきに整理してみた。

 人口関係は国勢調査より、また利用者数(正確には「輸送密度」。1kmあたり1日平均で通過する旅客数)は前述のJR公表数値を使用する。なお国勢調査は5年おき(西暦0、5の年)だが、利用者については2020年にコロナで大きな影響があるので、直前の2019年のデータを使用する。1年のずれがあるが傾向をみるには差し支えないであろう。上図に例を示す。

 線区により性格が異なるが、パターンとして、

1.小都市・農村地帯の北上線:ほっとゆだ~横手間(左)
2.新幹線と接続する線区の奥羽本線:新庄~湯沢間(中)
3.東京駅から100km圏内の内房線:君津~館山間(右)

を例示した。

・赤:乗車人員
・青:沿線人口
・緑:高校生(相当年齢)人口、
・オレンジ:従業者数

で、それぞれ2000年を1としたときの10年おきの変化率である。いずれのパターンでも

・沿線人口
・高校生(相当年齢)人口
・従業者数

が減少していることは確かだが、その減少率以上に利用者が減っている。

民鉄・第三セクターでは利用者増加も

乗車人員、沿線人口、高校生(相当年齢)人口、従業者数(画像:上岡直見)

乗車人員、沿線人口、高校生(相当年齢)人口、従業者数(画像:上岡直見)

 極端な例だけ取り上げたのではないかとの疑問があるかもしれないが、研究者の報告でも同様の結果が示されている。

 例えば大津賀柚花氏・中川大氏(富山大学)は学会報告(土木計画学研究・講演集,2022年6月)で、JR・中小民鉄・第三セクターの148区間について網羅的に分析している。やはりJRでは輸送密度が低下している区間が多いのに対して、中小民鉄・第三セクターでは増加している区間が多いと指摘している。

 参考までに民鉄・第三セクターの例も挙げる。上図は福井県の福井鉄道(民鉄)とえちぜん鉄道(第三セクター)である。なおえちぜん鉄道は、前身の京福電鉄が連続大事故を起こして撤退した後を受けて2003(平成15)年に発足しているため、乗車人員の変化率は2010年からとしている。いずれにしても沿線人口・高校生・従業者数が減っているのに対して乗車人員は伸びており、JR各社とは様相が異なる。

 筆者の以前の記事で指摘したように、えちぜん鉄道では駅トイレの整備に力を入れるなど、日常の利用者を大切にするコンセプトのもとでコロナ以前よりも利用者増加を達成している。福井鉄道は、えちぜん鉄道との共同プロジェクトで相互直通運転を実現し乗車人員が延びている。

 これに対して最近のJRは、ダイヤ改正のたびに

・減便
・減車
・無人化

を繰り返し、トイレや待合室から、さらには窓口の廃止まで進め

「在来線にはできるだけ乗らないでくれ」

といわんばかりのサービス切り捨てを強行している。JR発足時の「地域密着」の理念は完全に破綻した形だ。

公共交通は誰のためのものか

北海道の交通ネットワーク(画像:上岡直見)

北海道の交通ネットワーク(画像:上岡直見)

 別の側面として交通政策の歪み、あるいは放置の背景がある。上図は北海道の交通ネットワークを示す。

 黒はすでに廃止された旧国鉄とJRの鉄道路線、オレンジはJR北海道が直ちに廃止とは明言していないものの、自社では維持できないとリストアップした線区である(ピンク部分は、廃止決定だがバス転換の調整遅れで鉄道の運行が続いている部分)。さらに背景の太い緑線は、既存あるいは計画中の高規格自動車道である。

 あたかも、廃止あるいはその可能性が高い鉄道路線をなぞるように、高規格自動車道が作られている。一方で、道路が整備されたからといって路線バスが便利になったわけでもない。路線バスもこの10~20年で急速に縮小している。高齢者の免許返納が奨励されたり、若い人でも経済的要因などで

「車ばなれ」

が全国的に起きたりしている。公共交通を企業の採算性のみで運営し、結果として人々の移動の選択肢が奪われている現状では、地域の衰退がますます加速する。

 しばしば

「民間企業なのだから不採算路線の廃止はやむをえない」

という意見が見られる。それでは採算性が高い大都市圏のJRは利用者にとって優れたサービスだろうか。詰め込み輸送は経営の観点での「コストパフォーマンス」がよいだけで、利用者にとって何も歓迎すべき状態ではない。

 サービス縮小はローカル線の問題と思っているうちに、矛先は大都市圏の利用者にも迫っている。最近では

・JR東日本の「みどりの窓口」廃止
・京葉線の快速廃止騒動
・2025年から首都圏の主要路線でもワンマン運転

が予定されている。公共交通は“誰のためのものか”改めて考えてみたい。

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