「シートベルト = 命を守る」は過信だった? 福岡事故で明らかになった、子どもを守るための新しい基準とは

シートベルト着用でも守れなかった命

シートベルトが首にかかった状態の子ども(画像:写真AC)

シートベルトが首にかかった状態の子ども(画像:写真AC)

 2024年8月18日、福岡県福岡市の国道で、軽乗用車と路線バスが正面衝突する事故が発生した。この事故で、7歳と5歳の女児が命を落とした。ふたりは母親が運転する車の後部座席に座っており、シートベルトを着用していたが、腹部に強い衝撃を受けて死亡した。

 警察庁のデータによると、2014年から2023年の間の「自動車後部座席同乗中死傷者のシートベルト着用・非着用別致死率(死傷者数に占める死者数の割合)」では、シートベルトを着用していない場合、致死率が

・一般道:約3.3倍
・高速道路:約25.9倍

となっている。このデータから、シートベルトを着用することで致死率を大きく減らせることがわかる。しかし、残念ながらこのふたりの子どもたちは命を奪われてしまった。

 なぜこのような悲劇が起こったのか。どんな点に注意すれば、このような結末を避けられたのか。筆者(小島聖夏、フリーライター)は、一児の母親の視点でその原因を考えてみたい。

チャイルドシート未使用が招いた悲劇

小さい子どもにとって意外と危険なシートベルト(画像:写真AC)

小さい子どもにとって意外と危険なシートベルト(画像:写真AC)

 こども家庭庁は、2024年3月26日に開催された「こどもの事故防止に関する関係府省庁連絡会議」で、「こどもの不慮の事故の発生傾向と対策等」という資料を発表した。この資料によると、1歳以上の子どもが不慮の事故で亡くなる原因の中で最も多いのは交通事故であることがわかった。

 資料には、自動車使用時の子どもの事故の特徴と対策についても記載されており、

「シートベルトを適切に着用できない体格の小さな子どもを守るにはチャイルドシートが必要であり、運転者はチャイルドシートを使用しない6歳未満の幼児を乗せて運転してはならないと法律で定められている」

と書かれている。

 そのため、今回の事故で母親は5歳の女児にチャイルドシートを使用させるべきだったが、実際には使用していなかったことが死亡の原因になった可能性がある。

 さらに、7歳の女児はシートベルトを着用していたにもかかわらず命を落としている。この場合、どのような原因が考えられるのだろうか。

シートベルトの落とし穴

シートベルトを着用する子ども(画像:写真AC)

シートベルトを着用する子ども(画像:写真AC)

 結論からいうと、シートベルトは「大人を保護するためのもの」であり、子どもにとっては安全なものではないことが主な原因だ。こども家庭庁の資料によれば、

「自動車のシートベルトは交通事故などの衝撃により大人の乗員が全身を強打したり、車外に放り出されないようにするための保護装置」

と説明されている。また、日本自動車連盟(JAF)のオンラインメディア「JAF Mate Online」には、

「6歳になるとチャイルドシートの着用に対して法的な義務がなくなる。しかし、子どもがチャイルドシートなどに座らずシートベルトを使うと事故の際に腰ベルトが骨盤のサポートをせず、肩ベルトは首にかかり安全の確保ができない。そのため、子どもが危険になることがある」

と記載されている。つまり、身長が足りない子どもがシートベルトを使うと、逆に危険な状態を作り出してしまうということだ。

 文部科学省が2022年4月1日から2023年3月31日に実施した「令和4年度学校保健統計(学校保健調査の結果)確定値」によると、6歳児の平均身長は男子で117cm、女子で116cmとなっている。

 JAFの「はじめてのチャイルドシートクイックガイド」には、平均身長の子どもがシートベルトを装着すると、肩ベルトが首にかかり、腰ベルトがお腹の柔らかい部分にかかると記載されている。この状態で衝撃を受けると、首や内臓に深刻な損傷を与える可能性があるという。

 これらのことから、シートベルトは大人向けの保護装置であり、子どもには適していないと理解できる。筆者はこれまで、6歳を過ぎれば子どももシートベルトを安全に使えると思っていたが、実際にはそれが子どもを危険にさらす結果になっていた。

 もしこれらの情報がもっと広く知られていたなら、守れた命もあったかもしれない。

シートベルトの適切基準

チャイルドシートに座る子ども(画像:写真AC)

チャイルドシートに座る子ども(画像:写真AC)

 日本では2000(平成12)年にチャイルドシートの着用が義務化されたが、海外ではどのような基準になっているのだろうか。

 JAFによると、ほとんどの国では子ども専用の拘束(保護)装置の使用が義務付けられており、多くの国で身長に関する規定がある。特に135cm~150cmという基準が多く、大人がシートベルトを正しく着用した際、ベルトが骨の硬い部位に適切にかかる身長に基づいている。

 例えば、ドイツでは12歳未満で身長150cm以下の子どもを乗せる場合、チャイルドシートを使用する必要がある。イタリアでは、体重36kg以下、身長150cm以下の子どもには、体格に合った保護装置の使用が義務付けられている。

 日本ではこれまで、JAFが身長140cm未満の場合、チャイルドシートやブースターシート(背もたれのないタイプ)の使用を推奨してきた。しかし、140cmでも肩ベルトが首にかかる恐れがあることや、シートベルトを使用した子どもが死亡する事故が増加していることを受けて、推奨基準が150cm未満に引き上げられた。

 自動車に関するルールの変更は時に混乱を招くこともあるが、子どもを守るための変化は歓迎すべきだと感じる。

 小さい子どもを持つ親は、シートベルトの危険性を十分に理解し、子どもに合った安全対策を講じることが必要だ。

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