最近、街なかで「社名入りの歩道橋」をよく見かけますが、なぜ増えているのでしょうか?

歩道橋の歴史と進化

一般的な歩道橋(画像:写真AC)

一般的な歩道橋(画像:写真AC)

 日本初の歩道橋は、1959(昭和34)年に完成した。クルマの普及が進んでいた時期で、愛知県西枇杷島町(現在の清須市)の国道22号に架けられた。周辺には小学校があり、交通量が多いため、児童の交通事故が目立っていた場所だ。付近には幼稚園や保育園もあり、子どもたちは通学のために国道を渡らなければならなかった。

 増渕文男氏の論文「跨道人道橋の建設史と設計基準の変遷に関する研究」(1993年)によると、歩道橋が増え始めた昭和30年代後半(1960~1970年代)は、交通事故が急増し、社会問題として「交通戦争」が起きていた時期だった。そのため、歩行者の安全を守るために、クルマと歩行者を完全に分ける歩道橋が考案されたという。

 このような歩道橋は、全国的に普及し、今でも学校の近くや交通量の多い道路に見られる。かつては歩道橋の橋げたに道路名や地名が記されていたが、最近では地名ではなく、異なる名称が使われることも多い。

 これは、スポーツ施設などで使われる

「ネーミングライツ」

が歩道橋にも適用されるようになったためだ。ネーミングライツとは、企業や団体が施設や場所の名前に自社名やブランド名を付ける権利を購入することだ。スポンサーがその施設にお金を支払い、施設の名前に自社名や商品名を付ける仕組みで、例えば、スポーツ施設やスタジアムではスポンサー名が施設名に入ることがよくある。

 この仕組みは、スポンサーが自社のブランド認知度を高めるために利用し、施設側はネーミングライツを売ることで資金を得ることができる。最近では、駅や歩道橋などの公共施設にもこの仕組みが取り入れられるようになってきた。

 では、なぜ歩道橋にもネーミングライツが導入されるようになったのだろうか。

歩道橋のネーミングライツ

大阪府が全国で初めて歩道橋のネーミングライツ事業を実施(画像:大阪府)

大阪府が全国で初めて歩道橋のネーミングライツ事業を実施(画像:大阪府)

 国土交通省の2022年度調査によると、全国には1万1786基の歩道橋がある。その多くは1960~1970年代に設置され、老朽化が進んでいる。

 しかし、リーマンショック以降、地方自治体の財政は厳しく、歩道橋の維持管理が困難になっているのが現実だ。そこで、歩道橋の「ネーミングライツ事業」が打開策として導入された。

 2024年9月1日時点で、最も多くの歩道橋にネーミングライツを取り入れているのは名古屋市で、同市では「歩道橋ネーミングライツパートナー事業」を実施している。この事業の目的は、「民間の資金を活用して道路施設の持続可能な維持管理を行い、企業の地域貢献の場とする」ことだ。

 また、大阪府が全国で初めて実施した「歩道橋ネーミングライツ事業」では、「歩道橋の名称(愛称)に企業や商品名に関する権利をパートナー企業に買い取っていただき、その収入を維持管理に充当することで、安心安全な道路づくり・府民サービスの向上をすすめる」としている。

 この取り組みでは、企業が年間20万~30万円の契約金を支払うことで、歩道橋の橋げた部分に自社名や愛称を表示することができる。一方、自治体はその収益を歩道橋の維持管理費や修繕費に充てることができる。

 このように企業にとっては、どのような効果が期待できるのだろうか。

企業PR効果70%超

歩道橋の桁部分に企業名、商品名を入れた愛称を表示することができるネーミングライツ事業(画像:名古屋市)

歩道橋の桁部分に企業名、商品名を入れた愛称を表示することができるネーミングライツ事業(画像:名古屋市)

 歩道橋のネーミングライツは、多くの地方自治体で地域貢献やPR効果を生むものとして注目されている。愛知県一宮市の公式サイトによると、

「歩道橋は交通量が多い幹線道路に設けられているため、多くのドライバーに視認されます。日常的に近隣にお住まいの方の視界に入るため、地域におけるネーミングライツパートナー企業の存在感を高める効果が期待できます」

と記されている。また、「歩道橋は地域の高齢者や児童などの交通弱者を守るための大切な施設であることから地域に貢献する企業としてのイメージをアピールする効果が期待できます」と説明されている。

 全国初の試みとして大阪府が導入したネーミングライツでは、2010(平成22)年3月16日から24日にかけて大阪府内の10代から80代の1407人を対象にPR効果についてアンケート調査を実施。その結果、

・企業名などのPR効果が大いにあると思う:15%
・効果があると思う:56%

で、合計70%以上の人が「効果がある」と回答していた。

 また、ほとんどの自治体では、ネーミングライツパートナー企業が自社のウェブサイトや出版物にその旨を表示することが許可されており、これによって地元での企業の存在感を高める効果が期待されている。

ネーミングライツに期待すること

歩道橋を渡る子どもたち(画像:写真AC)

歩道橋を渡る子どもたち(画像:写真AC)

 これまで多くの児童生徒が利用してきた歩道橋にも、さまざまな変化が起きている。老朽化により撤去されるものもあれば、

・道路の整備
・少子高齢化
・バリアフリー化

などの影響で利用者が減り、撤去されることもある。また、現存する歩道橋のなかには、建設から50年以上が経過しており、修繕が必要なものも少なくない。

 こうした状況のなかで、歩道橋をなくして横断歩道を作ればよいと考える人もいるかもしれない。しかし、歩道橋は

「車道から立体的に歩行者を分離する役割」

を果たし、特に登下校する子どもたちを交通事故から守る大切な存在なのだ。

 実際、歩道橋は学校の近くに設置されることが多く、利用者の多くは児童であり、場所によっては“なくてはならない存在”となっている。筆者(小島聖夏、フリーライター)も、通っていた小学校がクルマ通りの多い道路を横断した先にあり、毎日歩道橋を使って登校していた。

 今あるすべての歩道橋を自治体の力だけで維持するのは現実的には難しい。しかし、今後は多くの地域でネーミングライツを取り入れることによって、財源の確保や地域貢献が期待できるかもしれない。

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