数億の税金を溶かした悲惨な過去! 南アルプスIC近くオープン「コストコ」は本当に成功するのか

南アルプスにコストコ誕生

現在の南アルプスIC周辺の地図(画像:国土地理院)

現在の南アルプスIC周辺の地図(画像:国土地理院)

 山梨県南アルプス市の中部横断自動車道南アルプスインターチェンジ(IC)の近くに、2025年4月に会員制量販店『コストコ南アルプス倉庫店(仮称)』が開業する。

 この開業に合わせて、複合商業施設『fumotto南アルプス』も整備されており、現在その一部がオープンしている。事業用地は12haで、

・大型商業エリア
・交通拠点エリア
・地域交流エリア

を開発する計画で、大型商業エリアにはコストコが建設される。つまり、コストコ南アルプス倉庫店はfumotto南アルプスの一部というわけだ。

 この施設は、山々を望む甲府盆地の中心に位置しており、中部横断道の開通によって実現した成果である。また、南アルプス市にとっては失敗が許されない重要なプロジェクトであり、一発必中の砲弾のような存在でもある。なぜなら、この商業施設は

「大失敗の跡地」

の上に建設されるからだ。

平日なのに多くの来訪者

fumotto南アルプス。10月22日撮影(画像:澤田真一)

fumotto南アルプス。10月22日撮影(画像:澤田真一)

 筆者(澤田真一、ライター)は、記事執筆のためにfumotto南アルプスを訪れた。静岡県静岡市葵区に住んでいる自宅のすぐ前には、新東名高速道路の新静岡ICがある。ここから新清水ジャンクション(JCT)を経由して中部横断道に入り、そのまま北上して南アルプスICを目指した。所要時間は約1時間だった。

 平日の昼間にもかかわらず、fumotto南アルプスには多くの訪問者がいた。未完成の施設に、なぜこれほどの集客力があるのかと驚いたほどだ。コストコの建設は現在も進められており、骨組みの建物の周りを多数の作業員が行き交っていた。その光景を訪問者たちがスマートフォンで撮影している。

 しばらく散策していると、この未完成の施設が持つ

「不思議な集客力の源」

を理解する瞬間に出くわした。地域の物産を扱う物販施設『fumotto MARCHE』がにぎわっていたのだ。山梨県や中部横断道の開通によってアクセスが便利になった静岡県の物産が販売されている。来訪した中高年の女性たちは、真剣なまなざしで商品を見つめ、手に取っていた。

 部分的にオープンしている今でもこれだけの客を集めているのだから、コストコがオープンした暁にはさらに多くの訪問者でにぎわう光景が広がるだろう。南アルプス市にとって、そのような近未来が確実に訪れなければならない。

かつて存在した「観光型農場」の末路

fumotto南アルプスから望む中部横断道。10月22日撮影(画像:澤田真一)

fumotto南アルプスから望む中部横断道。10月22日撮影(画像:澤田真一)

 かつて、ここには「南アルプス完熟農園」という施設が存在していた。開業は2015年6月で、南アルプス市の前市長、中込博文氏が推進したプロジェクトだ。いわゆる

「観光型農場」

で、果樹園や野菜畑、バイキングレストラン、物産販売所が一体となった施設だった。

 南アルプス完熟農園を運営する株主会社、南アルプスプロデュースは南アルプス市が出資した企業であり、市はこの農園の整備に8億円もの費用を投入している。つまり、南アルプス完熟農園は実質的に市営の施設だったのだ。

 このように大きな期待がかけられていたにもかかわらず、南アルプス完熟農園は開業からわずか7か月後の2016年1月に閉園してしまった。閉園の理由はさまざまで、

・準備不足
・物産販売所のオリジナル商品の不足
・天候不順による商品供給の困難

などが挙げられる。しかし、特に注目すべきは、南アルプス完熟農園の開業直前に発生した

「政変」

だ。2015年4月の南アルプス市長選挙で、当時の現職中込氏が新人の金丸一元氏に破れたことが影響したのだ。

市を揺るがした破産申請

fumotto南アルプス。10月22日撮影(画像:澤田真一)

fumotto南アルプス。10月22日撮影(画像:澤田真一)

 南アルプス完熟農園に対する商業施設としての評価は、今も賛否がわかれている。集客については、当初の予想以上だったという分析もあり、農園の経常赤字も市が発表したほどの多額ではなかったという意見もある。

 しかし、金丸氏が非常に早い段階で農園に見切りを付け、運営会社の破産申請を甲府地裁に申し立てたという事実はひとつのポイントだ。この決断により、それまで農園にかけていた億単位の費用が無駄になってしまった。もちろん、その資金は市税から捻出されたものである。

 金丸氏のこの判断については、南アルプスプロデュースと農園に商品を供給していた生産者協議会の関係者から監査請求が出されている。請求の要旨は次のとおりだ。

1 請求の要旨
(1) 金丸一元市長が、平成28年1月29日付で株式会社南アルプスプロデュースに対し、独自の判断で破産法に基づく債権者申し立てによる破産手続きを申請し、同年2月4日付で破産手続きが開始され南アルプス市に多大な損害を与えたと判断されるため、その損害額を請求するもの。
(南アルプス市監査委員告示第3号)

 この監査請求は

「いずれも違法、不当な行為又は怠る事実にあたるとは認められず」

という理由で棄却されたが、南アルプス完熟農園を巡る現職市長と前市長の対立はその後も続いている。このような背景を知ると、コストコ南アルプス倉庫店に寄せられる

「期待と不安」

がより明確に見えてくるだろう。

失敗が許されないコストコ

南アルプスIC付近のコストコ建設地。10月22日撮影(画像:澤田真一)

南アルプスIC付近のコストコ建設地。10月22日撮影(画像:澤田真一)

 南アルプス完熟農園がオープンしていた2015年と現在の最大の違いは、中部横断道の存在だ。

 2021年8月に静岡県の新清水JCTから山梨県の双葉JCTまでの区間が開通し、それにともなって沿線地域の交通や物流が大きく変わった。これにより、静岡市の海産物を甲府盆地の各地域へ迅速に届けられるようになり、地元経済にも影響を与えている。

 中部横断道は、静岡県から山梨県へ向かう一般来訪者にとっても重要な道路だ。南アルプス完熟農園とは異なり、コストコ南アルプス倉庫店を含むfumotto南アルプスは静岡県からの集客が大いに期待できる施設となっている。

 しかし、それは同時に

「fumotto南アルプスは失敗が許されない」

ということでもある。コストコが地元住民の期待に応えられるのか、それともかつての悪夢を繰り返してしまうのか、引き続き注目する必要がある。

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