カートレインは時代を超えて復活するか? 「観光活性化」「環境問題」の時代に再評価、その利便性を再考する

カートレインとは何か

ラルデン近くのレッチベルク南側ランプのローリングハイウェイ、BLS Re 465 2両編成によるけん引(画像:Kabelleger)

ラルデン近くのレッチベルク南側ランプのローリングハイウェイ、BLS Re 465 2両編成によるけん引(画像:Kabelleger)

 乗用車を列車に乗せて長距離を移動できる「カートレイン」というサービスは、1985(昭和60)年から1999年まで日本でも運行されていたが、経済的な理由や車の大型化、利用者数の減少などから廃止された。カートレインは、運転の負担を減らし、長距離移動を快適にするサービスとして人気があったが、これらの問題により存続が難しくなった。

 特に、家族連れや長距離ドライブを避けたい人々には非常に魅力的な選択肢だった。例えば、東京から九州や北海道への旅行では、運転の疲れを軽減しつつ、目的地に着いた後も自分の車で移動できるという利便性があった。さらに、交通渋滞や高速道路の料金を気にせず移動できる点も好評だった。

 しかし、カートレインの運行にはいくつかの課題もあった。国際交通安全学会(IATSS)によると、まず専用の貨車や設備が必要で、運行コストが高くなった。また、自動車が大型化するにつれて、貨車に積める車両の種類が限られてきた。さらに、航空機や高速道路の発展によりカートレインの需要は減少し、これが廃止の一因ともなった。

 一方、海外ではドイツなど一部の国でカートレインが今も運行されており、米国のアムトラックは「オートトレイン」という名前で、フロリダ州サンフォード駅とバージニア州ロートン駅間で運行している。2022年には「オートトレイン」の年間利用者数が約28万人に達するなど、需要が高い状況だ。

 こうした海外での運行事例を受け、日本でも近年カートレインの復活が議論され始めている。なぜ今、このサービスが再び注目されているのか、その背景を探ってみたい。

復活が議論される背景

 カートレイン復活が議論される理由のひとつは、環境問題への関心が高まっていることだ。特に、CO2排出量の削減が求められる今、自動車での長距離移動は環境に負荷が大きいとされている。

 カートレインを使えば、車を直接運転するよりもエネルギー効率が良く、CO2の排出を抑えることができる。このような環境への配慮が、カートレインを再評価する大きな要因になっている。

 さらに、交通渋滞を避けられるという利点もある。長距離移動では、高速道路の渋滞がよく問題になるが、カートレインを使えば渋滞を回避し、移動時間を短縮できる。加えて、運転手の疲労も軽減されるため、安全で快適な移動手段としてのメリットが再認識されている。

 カートレインの復活が現実味を帯びている背景には、技術の進化も大きく関係している。過去に廃止された理由のひとつに運行コストの高さがあったが、近年の技術革新により、そのコストが低減される可能性が出てきた。例えば、効率的な運行管理システムや、エネルギー効率の高い列車の導入などがその例だ。

 こうしたコストや技術面でのハードルが下がったことで、カートレインの復活が現実的な選択肢として再び浮上してきているのだ。

観光業と地域経済への貢献

 カートレインの復活が期待される理由のひとつに、観光業の活性化がある。特に地方の観光地ではアクセスの向上が経済発展に重要な役割を果たしており、カートレインがその手助けになると考えられている。

 例えば、観光地である北海道や九州では、新幹線や高速道路の開業によって広い地域へのアクセスが改善され、観光客の増加とそれにともなう地域経済の発展が期待できる。

 経済産業省の調査によれば、2022年度には国内旅行者の約半数が自家用車で移動していることがわかっている。コロナ禍の影響で、人々が密を避けるために自家用車で旅行する傾向が強まったことも理由のひとつだ。カートレインが復活すれば、こうした自動車旅行者にとって利便性が向上し、さらに観光需要が拡大すると見込まれる。

 特に、遠方の観光地に自家用車でアクセスする手段として、カートレインは非常に魅力的だ。経済産業省のデータでは、2023年度の国内宿泊旅行の消費額が約6兆5千億円に達し、そのうち約5割が宿泊費と交通費を占めている。カートレインが復活すれば、目的地やルートによっては交通費が抑えられる可能性もある。

 地方の観光業や地域経済だけでなく、こうした経済的な側面から見ても、カートレインの復活は大きな貢献を果たすと期待されている。

復活に向けた課題と現実的な可能性

 カートレインの復活が議論されるなかで、実現にはまだいくつかの課題が残っている。

 過去に廃止された理由には、自動車利用者の増加や車両の大型化があった。現在でも、これらの問題はカートレイン復活の障害になる可能性がある。特に、現代の自家用車は快適性や安全性が大きく向上しており、

「わざわざ列車を利用する必要があるのか」

という疑問が出てくる。

 さらに、運行路線やインフラ整備も大きな課題だ。カートレインは特定の路線でしか運行できず、そのためのインフラ整備には大きなコストと時間がかかる。

 具体例として、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は、北海道と本州をつなぐ「青函トンネル」に続く新しいトンネルの建設を提案している。そのなかで、鉄道と自動車の物流の将来を見据え、カートレインとJR貨物の共用トンネルも提案されている。しかし、建設費用は約7200億円、工期は約15年と見積もられている。

 とはいえ、環境問題や交通渋滞、観光業への貢献など、多くのメリットがあるため、カートレイン復活の議論は続くだろう。技術の進化やコストの削減が進めば、このサービスが再び現代に合った形で実現する可能性は十分にある。

 カートレインは単なる移動手段にとどまらず、地域経済の発展や環境問題の解決策としても、大きな役割を果たす可能性を秘めているのだ。

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