なぜ日本は「渋滞天国」なのか? なんと“年12兆円”の損失が語る圧倒的リアリティーとは

「渋滞損失時間」という概念

渋滞のイメージ(画像:写真AC)

渋滞のイメージ(画像:写真AC)

 深く考え始めるときりがないが、クルマを運転する普通の人にとって、車社会の最大の問題はやはり「渋滞」だと思う。

 クルマの便利さや快適さは、運転したことがある人や乗ったことがある人なら誰でも感じたことがあるだろう。しかし、クルマは鉄道とは異なり、道路の交通量が多すぎると渋滞が発生するし、事故や故障車によって急に車線が規制されることもあるのが問題だ。

 渋滞の規模によって異なるが、渋滞が起きると交通の流れが悪くなり、目的地までの所要時間が長くなる。この通常の所要時間と渋滞発生時の所要時間の差は

「渋滞損失時間」

と呼ばれる。

 渋滞損失時間は、その道路の渋滞の大きさを数値で示すため、現状の深刻さを把握し、対策の方法や優先順位を決めるのに役立つ。

日本の渋滞の深刻化

かなり深刻な日本の渋滞問題(画像:写真AC)

かなり深刻な日本の渋滞問題(画像:写真AC)

 日本では1960年代の高度経済成長期にモータリゼーションが進み、一般的にクルマが普及し始めた。その結果、道路にはクルマがあふれ、渋滞が発生するようになった。

 半世紀以上が経過した現代でも、日本の車社会における渋滞は深刻な問題だ。平日の通勤や通学の時間帯、休日のレジャーや帰省の時間帯など、多くの場所で渋滞が見られる。

 また、年末年始やゴールデンウィーク、お盆などの大型連休の時期には、通常よりも大規模な渋滞が発生することが多い。ニュースで、高速道路が20km以上渋滞している映像や表示を見たことがある人も多いだろう。

 国土交通省や高速道路を管理するNEXCOの取り組みにより、日本全体で渋滞は年々緩和されているものの、依然として大渋滞が発生するポイントは少なくない。したがって、日本の渋滞は深刻な社会問題のひとつといえる。

渋滞損失時間の数値が高い日本

貨幣価値に換算するとかなりの高額になる日本の渋滞損失時間(画像:写真AC)

貨幣価値に換算するとかなりの高額になる日本の渋滞損失時間(画像:写真AC)

 日本の渋滞損失時間について、2015年に国土交通省が発表したデータによると、年間でひとりあたり約42時間、これは日本全体で

「約53億時間」

に達する。この時間を貨幣価値に換算すると、年間ひとりあたり約10万円、全体では

「約12兆円」

にもなる。これは相当な損失だ。

 渋滞中はクルマの運転以外にほとんど何もできないため、ひとりあたり年間42時間を渋滞に費やすのは非常に無駄な時間だ。また、日本全体で年間約12兆円の損失は

「約280万人の労働力」

に相当することも驚きだ。

 世界の交通状況の調査結果をまとめた年次リポート、トムトム・トラフィック・インデックスの世界の都市別ランキングでも、2019年の先進7か国(G7)加盟国198都市のなかで、日本の都市が高い順位に入っている。具体的には、

・東京:2位
・大阪:10位
・名古屋:22位
・札幌:42位
・神戸:67位

となっており、特に都市部の渋滞が深刻であることがわかる。

深刻な三大都市圏や山梨・岐阜・沖縄

沖縄の国際通り(画像:写真AC)

沖縄の国際通り(画像:写真AC)

 先ほどのランキングに入っている四つの都市は、日本の三大都市圏に位置している。三大都市圏の渋滞損失時間は年間で

「約30億時間」

とされており、日本全体の約半分がこの地域での損失となっている。三大都市圏は人口が多いため、クルマの所有台数も多く、道路も整備されているが、まだ十分とはいえず、毎日多くの場所で渋滞が発生している。私(都野塚也、ドライブライター)で、東京に住んでおり、仕事とプライベートで年間約6万kmを走るが、渋滞に遭遇しない日はほとんどない。

 さらに、都道府県別の人口あたりの渋滞損失時間の統計を見ると、

・山梨県
・岐阜県
・沖縄県

が上位に入っている。つまり、都市圏だけでなく、地方圏でも渋滞は深刻な問題になっている。

 特に沖縄県では、人口増加以上にクルマの台数が増えており、これは沖縄の鉄道を含む

「公共交通」

の整備が遅れていることも一因だ。沖縄県は全国的に見ても公共交通の利用率が低く、クルマの利用率が高い。

 実は沖縄県の県庁所在地である那覇市は、人口密度が大都市と同レベルで、名古屋市よりも高く、横浜市とほぼ同じだ。そのため、観光で沖縄の道路を利用する人も多く、混雑時の旅行速度は三大都市圏よりも遅くなっている。

渋滞損失時間への対策や軽減方法

伊勢湾岸道と名二環を接続する飛島JCT(画像:都野塚也)

伊勢湾岸道と名二環を接続する飛島JCT(画像:都野塚也)

 渋滞損失時間が大きいと、単に時間を失うだけでなく、経済的な損失も大きくなる。実際、私もよくドライブをするが、渋滞のことを考えると行きたかった観光スポットやご当地グルメのお店をあきらめたことは数えきれないほどある。

 渋滞損失時間を軽減または解消するために、国土交通省やNEXCOではさまざまな取り組みが進められている。そのなかでも最も重要なのは

「新しい道路」

の整備だ。高速道路や高規格道路、バイパスの整備が各地で行われている。

 例えば、首都高速道路では横浜北線や横浜北西線、外環道の千葉区間の開通によって周辺の渋滞が緩和されている。中京圏でも、東海環状自動車道や伊勢湾岸自動車道、名古屋第二環状自動車道の開通により、渋滞時間が減少しているという成果が見られる。

 また、既存の道路でも渋滞をできるだけ減らすための取り組みが行われている。渋滞が発生しやすいポイントには、

・ここが渋滞発生ポイント
・ここから上り坂
・速度回復にご協力を

といった看板が設置されている。

 私たちドライバーができることは、渋滞の時間帯や日をできるだけ避けて走行することや、渋滞を引き起こさない運転を心がけることだ。具体的には、

・無駄な車線変更
・急な減速

を避け、自分の後ろを走るクルマのことも考えた運転を心がけるとよい。

 渋滞損失時間の軽減に向けて、国土交通省やNEXCOの政策に注目しながら、今できることを少しずつ始めていこう。

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