イスラエル製ドローンを導入すべき? 批判必至の「防衛省」が直面する矛盾、同国に頼るしかない3つの理由

イスラエル製ドローン導入の壁

小型攻撃用ドローン(画像:エルビット・システムズ)

小型攻撃用ドローン(画像:エルビット・システムズ)

 防衛省はイスラエル製ドローンの導入を進めようとしている。2025年度の概算要求では攻撃型を含む小型ドローンに90億円程度(主要事項情報収集IIIより)を費やすとしている。具体的な器材は同国製と目されている。

 しかし、その導入は困難となった。イスラエルが

「ガザ侵攻」

を始めた結果である。その是認につながる兵器購入は難しくなった。

 この問題はどのように解決すればよいか。

 ガザ停戦まで待つべきである。今は買うべき時期ではなく、急いで買う必要もなく、いつでも買える兵器だからである。

イスラエル製「一択」のワケ

イスラエル(画像:Pexels)

イスラエル(画像:Pexels)

 なぜ、日本はイスラエル製ドローンを買おうとしているのだろうか。事実上、それしか選択肢がないためだ。

 ひとつめに、国産は全く期待できない。

 まず、防衛産業にはその意欲も能力もない。乳母日傘(おんばひがさ。ちやほやされながら育てられること)の保護産業でありアニマル・スピリッツとは無縁である。これまでを見てもドローンで新市場を開拓する気概は全く見せていない。

 また、新規参入も望めない。安倍政権がドローンを抑制した結果である。官邸にフクシマの砂を落とした事件(2015年4月「首相官邸無人機落下事件」)で過剰反応し、法規制で産業の芽をつんだからだ。

 このため実用品の国産はできない。もちろん自律飛行できる器材は作れる。ただ、かゆいところに手が届くような気の利いた兵器は望めないのである。

 ふたつめに、イスラエル製しかないことだ。

 特に小型攻撃用ドローンの分野では世界一である。国内外での使用実績から性能設定や実用性で際立っており、他国製の追随を許さない独走状態である。

 ロシアやインド、中国もその技術を求めるほどである。なかでもインドはそのためにイスラエルに接近したほどである。同国製以外の選択肢は、事実上存在しないのである。

 三つめは、調達容易である。イスラエルは国を選ばず兵器を売る。

 もともと無節操な国である。冷戦時代には世界の敵であった南アフリカとも協力していた。

 兵器輸出でも節操はない。周辺の敵対国を除けば誰にでも売る。独裁政権でも売るし、使い道にも文句はいわない。市民の弾圧に使おうが気にもしない。

 これは防衛省にしても都合はよい。何の成約もなしに世界最先端の攻撃型ドローンを入手できるからである。

ガザ侵攻の無法

ガザ反戦デモ(画像:Pexels)

ガザ反戦デモ(画像:Pexels)

 しかし、計画には異論が呈されている。

 イスラエルがガザの侵略を始めた結果だ。しかも現地では非人道的な振る舞いをしている。戦争にもルールはある。それをイスラエルは公然無視している。結果、同国製兵器は買いにくくなった。

 まず、侵略を追認する効果を生んでしまう。日本はガザ侵攻を肯定してはいない。

「消極的だが否定したい立場」

である。兵器調達はこの立場と衝突する。侵略の追認とも受け取られてしまう。

 また、

「同国戦争経済への協力」

ともなる。金額的には少額だが戦争遂行を助ける結果を生む。汚い戦争に手を貸してしまうのだ。

 なによりドローン開発や生産のための原資を与えてしまう。イスラエルはガザ以下への攻撃にドローンを使っている。日本はその強化に力を貸してよいのかとの問題も生じる。実際に購入を進めれば内外からの批判を受ける。

 イスラエルは、すでに“世界の敵”となっている。肩を持つ国のほうが少ない。その国から新規に兵器導入を進めるのは世間体が悪い。

 国内でも

「なぜイスラエル製を買うのか」

は問題となる。イスラエルへの不快感は高まっている。近年では珍しいことに街頭でもパレスチナへの連帯がしばしば訴えられている。しかも、普段は政治主張と距離を取る国民もそれに拒絶感を示していない。

 右派ですら、やましさを持つ。いつもは

「米国を盲目的に支持する」

が今回ばかりは距離を取っている。ガザ侵攻を表立って批判はしないものの、決して肯定はしていない。「ガザの虐殺を肯定するようなマヌケなまねは御免被る」との立場である。

 なお、日本政府も同じスタンスである。内心では「よりによって今、イスラエル製を買うのか」と考えるのである。

「無人機は欲しいが、購入ははばかられる」矛盾

イスラエル国旗(画像:Pexels)

イスラエル国旗(画像:Pexels)

 防衛省は矛盾に直面している。イスラエル製の無人機は欲しい。だが、国内外からの非難から購入ははばかられる。そのような葛藤の状態にある。この問題はどうすればよいのか。

 最もよいのは、少なくとも

「ガザ停戦まで調達を延期する」

ことである。本来ならイスラエル製兵器は買うべきではない。ただ、無人機は日本の都合でどうしても欲しい器材である。それからすると、購入時期は見計らったほうがよい。それについては日本も求めているガザ停戦がひとつの目安となる。

 なぜそのように判断するのか。

 第一に、最悪の時期は避けなければならないからである。

 今、イスラエルとの関係を深めることは不適切である。なかでも兵器導入といった軍事関連の関係強化は悪手でしかない。それからすれば、小型ドローンでも導入は見合わせたほうがよい。

 逆に、最悪の時期を避ければそれほどの問題とはならない。もちろん、イスラエル製兵器の購入は好感にはつながらない。ただ、導入で生じるあつれきは大幅に減じるのである。

 第二は、それほど急ぐ装備ではないことである。

 たしかに自衛隊の無人機導入は遅れている。本来なら最優先すべき分野だが、陸海空とも等閑視(とうかんし。いいかげんに扱って放っておくこと)してきた。今はその遅れを取り返そうとする時期にある。

 しかし、イスラエル製無人機に関しては急ぐ必要はない。

 なぜなら、陸戦用の小型ドローンだからである。仮想敵国である中国との正面戦場となる海空戦用ではない。その点で優先順位は低い。

 実際のところ使う見込みもない。陸上自衛隊向けだからである。日中が戦争となっても陸自には、ほぼ出番はない。

 もちろん、必要ではある。陸自戦力は北海道での内陸決戦から脱却できていない。それを島しょ戦対応に改めるには重要な兵器である。

 ただし、しばらくは待ってよい。中国との関係は別に悪くもない。日中関係は緊張含みだが戦争の危機とは程遠い。防衛費増額の根拠としてきた台湾有事論(中国が台湾へ軍事侵攻するシナリオ)もすでに雲散霧消している。

 第三は、いつでも買えることである。

 イスラエルはいつでも日本に売る。特にまとまった数であれば、日本と外交で衝突したとしてもイスラエルはもみ手で売る。

 つまり、今でなければ買えないわけではない。ガザ停戦を待ってからでも買える。これもドローン購入を後回しにしてよい理由である。

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