トヨタが警鐘! 中国の威圧と「先端半導体」を巡る米中競争の深刻化、規制が自動車業界にもたらす終わりなき苦悩とは

日中の緊張、経済報復の行方

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 最近、在中邦人が襲われる事件や日本産水産物の輸入再開など、日中間の情勢が大きく変化している。

 しかし、9月初頭、中国は日本に対し、中国企業への半導体製造装置の販売や関連サービスの提供に対してさらに規制を強化する場合、厳しい経済的な報復措置を講じると警告した。この件は、ロイターやブルームバーグが9月2日に報じたが、中国側は最近日本側と行った複数の会合でこの姿勢を繰り返し説明している。

 また、トヨタ自動車は、日本が半導体分野で新たな輸出規制措置を講じる場合、中国が自動車生産に不可欠な重要鉱物へのアクセスを制限する恐れがあると政府関係者に懸念を伝えた。この情報はロイターなどが報じている。

 トヨタ自動車は台湾の半導体最大手TSMCの熊本工場建設に多額の資金を出資しており、日本の半導体政策に深く関与している。そのため、中国が自動車生産に不可欠な重要鉱物へのアクセスを制限することは、世界のトヨタにとっても大きな懸念事項である。

 では、この問題は今後どうなっていく可能性があるのだろうか。地政学的な視点から考えてみたい。

先端半導体規制強化の波

集積回路のイメージ(画像:写真AC)

集積回路のイメージ(画像:写真AC)

 この問題について簡単に振り返ってみよう。

 始まりは2022年10月、米国が先端半導体分野で中国への輸出規制を大幅に強化したことだ。バイデン政権は、中国が先端半導体を軍事転用し、軍の近代化を図ろうとしていることを懸念した。そのため、対中輸出規制を強化した。

 しかし、米国単独では中国が先端半導体や、それに必要な材料、技術の流出を防げないと判断したバイデン政権は、2023年1月に日本とオランダに対して規制への参加を呼びかけた。

 日本は先端半導体の製造に必要な14nm幅以下の製造装置や、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目を新たに輸出管理の規制対象に加え、オランダも同様の措置を取った。

 米国は、日本やオランダの半導体関連企業が過去に中国に販売した製品の修理や予備部品の販売を続けていることに不満を抱いており、規制の範囲を拡大するよう求めている。

 バイデン政権は、4月にオランダに対し、半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した装置の保守点検や修理サービスを停止するよう要請した。これに対し、オランダはASMLの半導体製造装置の対中輸出規制を強化する方針を発表し、中国はそれに強く反発した。

 さらに、バイデン政権は韓国やドイツなどの他の同盟国や友好国にも先端半導体分野の対中輸出規制に加わるよう呼びかけ、多国間協力で中国を先端半導体分野から排除する姿勢を鮮明にしている。

半導体規制の激化と代償

マイクロチップのイメージ(画像:写真AC)

マイクロチップのイメージ(画像:写真AC)

 一方、中国もこの動きに対抗するため、さまざまなけん制策を示している。例えば、2023年7月下旬に日本が半導体分野での対中輸出規制を実施した直後、中国は半導体製造に必要な希少金属ガリウムやゲルマニウム関連製品の輸出規制を強化した。

 これにより、これらの製品を輸出する業者は事前に政府に許可申請を行う必要がある。この影響で、日本は多くを中国から輸入しているため、国内で動揺が広がった。

 2023年8月には、日本産水産物の全面輸入停止が実施され、これも先端半導体をめぐる動きの一環と考えられる。さらに、中国は最近、希少金属の一種であるアンチモンを輸出規制の対象に新たに加え、無許可での輸出を禁止した。アンチモンは半導体の材料として使用されており、中国はその生産において世界シェアの50%近くを占めている。

 また、10月からはレアアースの統制を強化する管理条例の施行が予定されており、中国は

「何か実行されればすぐに対抗措置を取れる」

との姿勢を示している。これにより、日本などをけん制する狙いがあると考えられる。トヨタ自動車をはじめとする日本の製造業にとって、中国が希少金属へのアクセスを遮断することは大きな打撃となるだろう。9月上旬に中国が警告を発した背景には、こうした経緯がある。

米中貿易圧力の影響

米中対立のイメージ(画像:写真AC)

米中対立のイメージ(画像:写真AC)

 最後に、トヨタ自動車が抱える懸念は今後も解消されにくい。なぜなら、米大統領選ではトランプ氏とハリス氏が支持率で接戦を繰り広げており、互いに批判し合っているものの、中国に対する姿勢には大きな違いがないからだ。

 トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%に引き上げて、中国にお金を支払わせる考えを示している。一方、ハリス氏はトランプ政権の4年間で米国の半導体が中国に流出し、それによって中国軍の近代化を助ける結果になったと指摘しており、バイデン政権の先端半導体の輸出規制などの政策が機能的だと主張している。どちらも、中国への貿易規制を強化する姿勢を崩していない。

 したがって、2025年発足する米新政権は、先端半導体などテクノロジー分野で引き続き中国に対する輸出規制を強化するだろう。また、必要に応じて日本にも協力を求めてくるはずだ。協力というより

「圧力」

という表現の方が適切かもしれないが、安全保障上の理由を示されれば、日本としては米国の要請を拒否するのが難しくなる。その結果、中国は日本への不満を強めることになるだろう。したがって、トヨタ自動車が抱く懸念は今後も続くと考えられる。

ジャンルで探す