京葉線「ダイヤ変更」が招いた中途半端な結末! 通勤快速復活「検討しない」と組合交渉で表明、不整脈ダイヤで通勤者の声は届くのか

快速が一部復活

京葉線(画像:写真AC)

京葉線(画像:写真AC)

 9月1日に京葉線の通勤時間帯に快速が一部復活した。

 これに対して、神谷俊一千葉市長も一定の評価を示している。

 また、実際に京葉線で通勤している筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)の母からは

「確かに速くなった。21時までに家に帰れるようになった」

と喜びの声も届いているので、JR千葉支社には母に代わって感謝の気持ちを伝えたい。

今回取り上げる五つのポイント

改正部分の時刻表(下り平日・土休日20時台)(画像:北村幸太郎)

改正部分の時刻表(下り平日・土休日20時台)(画像:北村幸太郎)

 ただし、これは快速が復活した20時台の京葉線に乗る人の意見であって、他の帰宅時間帯は依然として各駅停車しか利用できない状況は変わっていない。

 筆者としては、これで終わりにはできないと考えている。そこで今回は、

・ダイヤ変更後も残る課題点について
・京葉線通勤快速元利用者の声
・通勤快速より遅い特急、景品表示法上どうなのか
・JRと労組の交渉について
・筆者と千葉市長の質疑応答について

の5点を取り上げる。

際立つ特急設定のデメリット

南船橋追い抜きの場合の時刻表(平日夜下り・土休日朝上り)(画像:北村幸太郎)

南船橋追い抜きの場合の時刻表(平日夜下り・土休日朝上り)(画像:北村幸太郎)

 今回のダイヤ変更でまず「えっ」と思ったのは、

「東京駅(20時台)の特急と快速連続発車は見直されていない」

という点だった。速達列車を連続で出すのは、運転間隔を詰められる私鉄ではありだが、京葉線は貨物列車に合わせた信号設備が設計されているため、それはないだろう。しかも、特急の発車から快速の発車まで、最大で5分も間隔を空けるという状況だ。

 これが、京葉線の各駅停車の運転間隔が10~20分と不均一になり、一部の列車に混雑が偏る

「不整脈ダイヤ」

の原因だ。ただし以前の記事でも記載したとおり、JRは蘇我駅での総武快速線からの列車との接続にこだわっているため、こうした形態になるのだ。一方、土休日の東京20時台は、平日と同じ本数(特急を除き、武蔵野線を含む本数)だが、特急がない土休日の方が所要時間が短く、間隔的にも整ったダイヤとなっている。京葉線内無停車で、沿線住民にはデメリットしかもたらさない房総特急は、すぐに総武快速線へ移すべきだ。

 とはいえ、3月からの半年間で基本的なダイヤパターンを大きく変更するのは難しいし、輸送需要に応じて設定された元の本数が少ないため、各駅停車の一部が快速化された結果、各駅停車が最大20分間隔になるのは仕方なかったといえる。

 快速復活の代わりに新習志野駅の停車本数が減らされた習志野市長の怒りは理解できるが、追い抜きや接続の工夫で利便性の低下は避けられた。南船橋駅の配線を改造し、新習志野追い抜きを南船橋追い抜きに変更する必要がある。

南船橋追い抜きの効力

南船橋駅待避駅化改造後の配線図(画像:北村幸太郎)

南船橋駅待避駅化改造後の配線図(画像:北村幸太郎)

 東京20時3分発の快速は、南船橋で武蔵野線からの各駅停車新習志野行きに接続する。ただし、11分待たなければならない。この快速は後続の各駅停車よりも3分早く到着できるが、20時33分発の快速には同様の措置はない。さらに、20時33分発の快速は先行の各駅停車に追いつきそうになり、南船橋から海浜幕張間を通常5分で走るところを6分かけて走行し、海浜幕張で2分停車するダイヤになっている。

 南船橋での追い抜きが実現すれば、所要時間を大きく変えずに新習志野や千葉市内の各駅への速達性が向上する。このような意見はX(旧ツイッター)やヤフーニュースのコメント欄で多く挙げられており、前回の京葉線の記事公開後には、鉄道工学の権威である東京大学名誉教授の曽根悟氏からも同様のコメントが寄せられていた。

 少なくとも下り線については、副本線をまっすぐ伸ばせば、いつでも追い抜きできる構造に改造できるように路盤の整備が進んでいる。上り線についても、少しきつめのカーブと分岐器の新設で実現可能そうだ。

 南船橋駅の待避駅がすぐに難しい場合でも、京葉線快速のすぐ後に武蔵野線の海浜幕張行きが入るダイヤを組めば、東京発の京葉線各駅停車の本数を増やさずに、東京から新習志野間の実質的な

「有効本数」

を増やすことができる。

 ただ、筆者は快速への混雑集中を防ぎ、各駅停車利用者を確保するために、海浜幕張停車の通勤快速設定(東京から幕張豊砂間の各駅へは各駅停車に乗ってもらう)を推したい。そうすれば新習志野待避のままでもよい。

快速で実質10分間隔

武蔵野線活用で新習志野への有効本数を増やしたケースの時刻表(平日朝夕上下線)(画像:北村幸太郎)

武蔵野線活用で新習志野への有効本数を増やしたケースの時刻表(平日朝夕上下線)(画像:北村幸太郎)

 朝の快速は新習志野での追い抜きのため、各駅停車が通過待ちを強いられている。このため、千葉市内や習志野市内から都内に向かう人々にとって、実質的に使えない列車になっている。しかし、3月のダイヤ改正で廃止を免れた朝の上り快速が2本ある。そのうち1本目は海浜幕張で6時58分の武蔵野線に接続する。この武蔵野線の列車は南船橋7時6分発なので、南船橋7時9分発の快速に乗り継げる。

 この2本の快速によって新習志野から東京へ行く場合、運転間隔は22分空いているように見えるが、武蔵野線と南船橋からの快速を利用すれば、実質的には

「10~12分間隔」

であり、大きな不便は感じない。この点に関して、JRはよく考えたと思うが、沿線自治体へのアピールが不足している。自治体への対策が下手なようだ。もしかすると、習志野市長に不満をいわせることで、快速列車の各駅停車化論を推進する口実のひとつにしたいのかもしれない。

 今回はJTB時刻表千葉県版を購入して分析したが、京葉線のページには武蔵野線の東京方面への直通列車が一緒に載っていたが、海浜幕張方面への直通列車は別枠で表示されていた。これでは海浜幕張と南船橋の間で武蔵野線を利用して快速に乗り継げることがわかりにくい。

 この点においても自治体側は「緩急接続でカバーできるから大丈夫」とはなりにくい。JRの不便さは、時刻表のデザインを担当する人たちにも責任があるといえる。ページ数が増えるかもしれないが、もう少しプロダクトアウト(顧客のニーズよりも自社の強みを重視)の視点を取り入れてほしいと思う。

京葉線通勤快速元利用者の声

京葉線通勤快速7分30秒サイクルダイヤ(画像:北村幸太郎)

京葉線通勤快速7分30秒サイクルダイヤ(画像:北村幸太郎)

 通勤快速の廃止によって、通勤経路を変更した人の話を聞くことができた。

 渋谷のインターネット広告会社で働くSさんは、朝5時に起きて、君津駅6時2分発の電車で品川まで行き、そこから渋谷に通勤している。もともと千葉市に住んでいたSさんが君津に引っ越したのは、妻の実家が君津にあり、そこで家を建てることになったからだ。最初はアクアラインの高速バスで通勤を考えたが、会社から通勤経路として認められなかったため、JRを利用することになった。

 そんなSさんは、京葉線の通勤快速廃止についてこう語った。

「総武線直通の方が本数が多いから影響は少ないが、帰りは京葉線通勤快速を使っていた。東京駅の乗り換え通路が長くてめんどくさかったが、それを加味しても乗る価値があり、通勤快速があったからこそ京葉線を使っていた。(筆者作成の内房線直通通勤快速15~20分おきの時刻表を見ながら)もし通勤快速が復活してこれくらい本数も多ければ京葉線を使うのに。快速じゃダメだ。京葉線の特急? 使わないね。総武線のグリーン車も通勤には使っていない」

この話からも、通勤快速の速達性がいかに大きな影響を与えていたかが伺える。東京駅から座れる通勤快速がなくなったからといって、新設された特急やグリーン車に移る人が多いかというと、それも限られているのではないかと思わせる事例だ。

通勤快速より遅い列車で「特急」表示は不当か

 蘇我~東京間を42分で走っていた朝の通勤快速が廃止された後、ほぼ同時刻に設定されたのが特急わかしお4号だ。この特急は蘇我~東京間を46分で走るため、通勤快速よりも4分遅くなり、速達サービスが低下している。

 この件について、日本女子大学名誉教授の細川幸一氏などからは

「運賃以外に料金不要の快速や通勤快速に比べて、急行(これも有料)より特別に速い速達性を有するはずの特急がそれより遅いということは、車内の快適性、座席保証の対価が含まれるとしても景品表示法上の不当表示(優良誤認)にあたるのではないだろうか」(プレジデントオンライン2024年2月26日配信記事より)

という意見も上がっている。これについて消費者庁表示対策課に問い合わせてみたところ、

「個別の事例には回答できないが、一般論として景品表示法違反となるものは「商品・サービスの品質について、実際のもの等より著しく優良または有利であると誤認される表示」です。今回のケースでは時刻表上、例えば1時間で着くとしているものが1時間半かかっているといったことではないですし、特急なのか快速なのか、列車の名称だけで(速達性を比較する上で)誇大広告になるかは判断が難しいです。京急には快速特急なんてのもありますしね」

との回答だった。サービスの差について議論するのはなかなか難しいようだ。

労組が求める利便性向上

 9月1日のダイヤ変更前に、変更に対する労組の団体交渉に参加したJR東の社員から、その際の会社の考えについての情報が共有された。JRは京葉線について、以下の回答を労組側に示したという。

・今後、通勤快速の設定は今のところ考えていない。
・ダイヤ改正後、乗客の動向を2か月トレースして、今回の改訂となった。改訂後も2か月トレースしていく。
・ダイヤ改正をして、旅客の動向は変わらない。
・特急は乗車率が上がってきている。

これを受けて社員は、

「この流れだと、来年3月の改正でさらに快速増発は考えていないのではと思います。結局、平準化という名の会社都合のコスト削減(意図的な乗務員削減)ダイヤに乗客が慣らされてしまっている状況ですので、自治体・市民含めて声を上げることが大事だと感じています」

と語っていた。筆者としては、通勤快速の復活を全く検討していないというのは非常に残念だと考えている。また、特急の乗車率が上がっているのは、通勤快速を奪われた利用者の一部がやむを得ず特急に移行した結果であり、その上昇が積極的に歓迎されるべきものかは極めて疑わしいと思う。JRがポスターで掲げる

「明日のDESIGN。」

は、決して明るいものとは限らないようだ。

 京葉線に関するJRの一連の対応について、日本輸送サービス労働組合連合会の執行委員長、関昭生氏からコメントが寄せられた。

「JR東日本輸送サービス労働組合(JTSU-E)東京地方本部は、「京葉線ダイヤの一部変更」についてJR東日本首都圏本部に申し入れ、7月24日に団体交渉を行いました。労働組合としては、労働条件の変更を伴う「ダイヤ変更」については、労働組合への提案を行うべきと主張し、今回のダイヤ変更に至った経緯を明らかにするように求めました。その上で、関係自治体やお客さまからの意見・要望についてどのように把握し、応えていくのか、また社員への内容周知と教育をしっかり行うよう求めてきました。今回の「ダイヤ変更」に至った背景を考えれば、JR東日本の「沿線自治体とのコミュニケーション不足」、「現場の声に耳を傾けず」に3月のダイヤ改正を進めたことが原因ではないでしょうか。私たちは、今後も沿線の皆さまの利便性向上と、働きやすい列車ダイヤを労働組合として目指してまいります」

関氏のコメントを受けて、通勤快速の復活や海浜幕張停車などの実現に向けて、ぜひ頑張ってもらいたい。

千葉市長とのやり取り

伊藤市議議会報告会・北村講演チラシ(画像:北村幸太郎)

伊藤市議議会報告会・北村講演チラシ(画像:北村幸太郎)

 前回の京葉線の記事でも少し触れたが、筆者は千葉市長が主催する「市長と語ろう会@中央区」(7月20日)に参加し、意見交換を行った。その際のやり取りについて、詳細をお伝えできる段階になったので、詳しく報告する。

――京葉線問題の市民の関心度について。

 ウェブアンケートを実施したが、パブリックコメントを集めるといつもは10件程度あればいいところ、他の沿線自治体含めではあるが1万4000件も集まり、これは異例のこと。これが市民の関心度の高さを示している。したがって、JRも一定の対応をせざるを得なかったものと考えている。

――JRとの協議の場について。

 地域から声を上げていくしかない。民営化した中で自治体の関与は難しい。経営方針に影響を与えるくらいの株式を取得する原資は自治体にはない。それよりも、日ごろからのJRとの協議の場でしっかりと意見を伝えていくことが重要と考えている。ただ、鉄道事業者側の情報開示が少ない。ここまで極端なダイヤ改正をするのであれば利用実態や収支の状況をしっかり見せていただきたいと考えており、混雑の平準化が理由とのことだったため資料を求めたところ、数字等の提供はなされなかった。

――他市(JR西日本沿線では自治体がJR株を買って発言権を強化する動きや、富山では運行経費を投資して高山線の増発をしている)で行われているJRへの資本的な参加について。

 ホームドア整備や新駅、新改札口整備などに出資はしている。京葉線は赤字なのかと聞いても黒字といわれている。そのため財政支援は不要と考えている。鉄道資源は有限であり、ダイヤ改正はメリットとデメリットの付け替えの問題であるので、そこに対する説明が不十分と考え、今回のJRへの要望に至ったところ。

――北村としては沿線価値向上のための「投資」という趣旨で通勤快速の運行経費の負担の話をしているので、支援や補助ではなく投資的な意味合いでの運行経費の支出という観点で、可能であれば、改めて回答してもらえるとありがたい(追加質問)。

 沿線価値向上のための投資的な意味合いと考えた場合であっても、広域交通である鉄道に単独の自治体が経費を支出することは難しいと考える。今般のダイヤ改正の要因・目的は、収支の悪化ではなく、混雑の平準化であることを確認した上で、市民生活や事業活動に見合ったダイヤとして沿線価値を維持していくために、これまで、沿線市町との連名による要望や、ダイヤ改正の影響等に関するアンケートの実施、申し入れ等を行っている。ダイヤ改正は、市民生活や事業活動、沿線のまちづくりに大きく影響することから、経済団体も交え、定期的、継続的に協議を行っていきたいと考えている(交通政策課回答)。

――道路の専門家職員は多数いるのに、鉄道に特化した専門職員がいない件について。

 基本的にダイヤ改正は年に1度しかないため、常勤採用は厳しい。現在のところはJRに情報公開を求めつつ、専門家に助言や意見を求めるというのが現実的ではないかと考える。他の専門性の高い分野については臨時に期限付きの職員を採用したり、委託契約で調査活動を行っている例がある。

――確かにダイヤ改正は年1回だが、複数の路線にまたがって面的に考える必要や調査活動などを考えると、道路系は相当数の常勤職員がいるのに対し、鉄道はスポット的な職員配置でいいというのは、ちょっと鉄道分野を軽んじているのではないか、とは思います。常勤ならJRとの接見も密にでき、議論のスピードアップや質向上に資すると考えいる。改めてどうか(追加質問)。

 道路は市が計画、整備、管理することから、多くの職員を配置するが、鉄道に関しては、鉄道事業者が主体となるため、一概に道路部門と比較することは難しい面がある。担当職員は、これまで組織として蓄積したノウハウ等を引き継ぎ、研さんを積むことで、鉄道事業者との協議、調整を行っている(交通政策課回答)。

以上が市長ならびに交通政策課とのやり取りである。正直、北陸や山陽地域とは公共交通に対する温度差を感じずにはいられない印象であった。やはり鉄道運行への出資、投資は市単位では難しい部分もあるかもしれない。県単位で各市町村の意見を集約した上での投資が検討されればいいと考える。

 市長はJRへの要望活動に際して、筆者が書いた記事(東洋経済オンラインやMerkmal)が非常に参考になったといってくれた。このことに感謝の意を表したい。

 今回のダイヤ変更で多少の改善はあったが、やはり次の3月のダイヤ改正で、抜本的なダイヤパターンの見直しを期待したい。労組交渉の話を聞く限り、JR東が他の私鉄や路線と比べて

「私たちの路線はユーザー目線で便利です」

と自信を持っていえるのだろうか。一度立ち止まって、そういった視点から考えるべき時期に来ているのではないか。

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