「ガソリン車か、EVか」という選択肢は時代遅れ? 実用化が待たれる未来の推進エネルギー4選

実は燃料になる「アンモニア」

自動車(画像:写真AC)

自動車(画像:写真AC)

 自動車を買うとき、「ガソリン車か、電気自動車か」で迷ったことがある人は多いだろう。その間をとってハイブリッド車を選ぶ人もいるかもしれない。しかし、従来の

・化石燃料
・電気

というふたつの選択肢の時代は、もうすぐ終わりを迎えようとしている。

では、他にどんな推進エネルギーがあるのだろうか。ここでは、ひとつずつ紹介していこう。

実は燃料になる「アンモニア」

世界初の商用利用を前提としたアンモニア燃料船「魁」(画像:IHI原動機)

世界初の商用利用を前提としたアンモニア燃料船「魁」(画像:IHI原動機)

 アンモニアは肥料の原料として知られているが、実はCO2を排出しないサステナブルな燃料でもあり、船舶や産業用エンジンの燃料として注目を集めている。

 ただし、アンモニアは鼻を突くような匂いがあり、毒性もあるため、取り扱いには注意が必要だ。しかし、すでに大規模に流通しており、既存の技術を用いたインフラ整備や安全対策も可能である。

 エネルギー庁によれば、2019年の日本のアンモニア消費量は約108万tで、このうち約8割は国内で生産されている。今後、アンモニアを燃料として使用する際の需要に応えるため、供給を確保するサプライチェーンを整えることが課題となる。

 日本国内では、ジャパンエンジンコーポレーションやIHI原動機などがアンモニア燃料エンジンの開発を進めている。

よく燃える「メタノール」

バイオメタノール燃料を活用したネットゼロ航海(画像:商船三井)

バイオメタノール燃料を活用したネットゼロ航海(画像:商船三井)

 メタノールはアルコールの一種で、常温で液体になるためタンクへの充填がしやすいという特長がある。メタノール燃料は、天然ガスやバイオマスから生成でき、CO2の排出量が少なく環境に優しい。

 メタノール燃料エンジンは、既存のディーゼルやガソリンのエンジンを基に開発できるため、大きな利点がある。しかし、化石燃料に比べて部品や素材の摩耗や腐食がしやすいため、改良の余地は残っている。

 メタノールはディーゼルのように黒煙をほとんど出さないが、有害なホルムアルデヒドが発生するため、その対策が必要となる。

 では、阪神内燃機工業、ヤンマーパワーテクノロジー、本田技研などがメタノール燃料エンジンの開発を進めている。

エネルギー密度が高い「水素」

水素エンジンの実証機(画像:i Labo、やまびこ)

水素エンジンの実証機(画像:i Labo、やまびこ)

 水素はエネルギー密度が高いガス燃料で、燃焼すると水しか排出しない。また、水を電気で分解して水素を生成できるため、石油のように枯渇する心配がない。さらに、分解時に再生可能エネルギーを使えば、非常に環境に優しく理想的なエネルギー源となる。

 しかし、水素は常温では気体のため、小さなタンクに充填するには圧縮したり冷却したりする必要があり、技術的な課題が高い。また、普及させるためには、水素供給のためのインフラを大幅に整備する必要がある。

 再生可能エネルギーで作ったグリーン水素は、現時点ではガソリンに比べてコストが高いことも課題となっている。

 水素を利用した乗り物としては、燃料電池自動車がよく知られている。これは水素を燃料にして電気でモーターを回すため、基本的に電気自動車だ。

 また、既存の内燃機関の技術を応用した「水素燃料エンジン」もある。水素燃料エンジンは、国内でトヨタ自動車、カワサキモータース、ジャパンエンジンコーポレーションなどが開発している。

 さらに、水素はロケットの推進剤としても使用されている。

究極のエネルギー「核融合」

核融合実験炉イーターのプロトタイプ(画像:三菱重工業)

核融合実験炉イーターのプロトタイプ(画像:三菱重工業)

 温暖化の影響で気候変動が明らかに悪化しているが、アンモニア、エタノール、水素といったクリーンな代替エネルギーは実用化の段階まで進んでいる。

 もうひとつ忘れてはならないのが、究極のエネルギー技術である核融合だ。

「核」

という言葉から危険を感じる人もいるかもしれないが、核融合は原爆や原発の原理である「核分裂」とは異なる技術だ。私たちが日々浴びている光も、核融合によって生み出されたエネルギーである。

 理論物理学者のアルベルト・アインシュタインは核融合エンジンの可能性を予見していたが、最近では技術的に実現可能になるという見通しが立ってきた。米国のスタートアップ、RocketStarやHelicity Spaceなどが開発を目指しており、多額の投資が集まっている。日本国内でも量子科学技術研究開発機構などが研究を進めている。

 ただし、核融合エンジンの実用化には多くの技術的なハードルがあり、実現までには数十年かかると考えられている。

石油依存からの脱却

 これまで見てきたように、石油などのエネルギー資源に依存する時代は終わりつつあり、新たなエネルギー技術へのパラダイムシフトが起きている。

 石油資源に乏しい日本にとって、エネルギー問題が解決するチャンスが訪れている。しかし、そのためには日本がエネルギーの先端技術を開発する必要がある。

 果たして未来の推進エネルギーにおいて、日本は技術立国としての地位を確立できるのだろうか。開発競争はすでに始まっている。

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