ハイブリッド車が「一部の国」でイマイチ普及していない根本理由

米国HV市場の急成長

自動車(画像:写真AC)

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 近年、環境問題が注目されるなか、世界各国でハイブリッド車(HV)の導入が進んでいる。HVは、ガソリンエンジンと電動モーターの両方を使うことで燃費を向上させ、環境への負荷を軽減できる車両だ。

例えば、米国では購入時の税制優遇措置やハイブリッド技術の進化、環境意識の高まりなどから、多くの消費者がHVを選ぶようになった。S&Pグローバル・モビリティの推計によると、2023年時点で米国のHV市場は、今後5年間でHVの販売が急増し、2028年には新車販売の

「24%」

に達する見込みだ。

 しかし、すべての国でその人気が高まっているわけではない。一部の国では依然としてガソリン車やディーゼル車が主流だったり、電気自動車(EV)が台頭したりして、HVの普及が進んでいない。

 では、なぜHVが一部の国であまり人気がないのか、その理由をデータや具体的な事例を交えながら解説していく。

ノルウェーEV革命、80%の新車比率

自動車(画像:写真AC)

自動車(画像:写真AC)

 HVの普及状況に大きく影響を与える要因のひとつは、各国のエネルギー政策や税制だ。例えば、米国では政府の補助金制度や税制優遇が整備されていて、HVの購入が推奨されているため、普及が進んでいる。

 一方、ドイツなどでは依然としてガソリン車やディーゼル車が主流だ。欧州自動車工業会のデータによると、2023年7月時点のドイツで、HVやバッテリー式電気自動車、プラグインハイブリッド車を含む電動車の比率は39.4%だったのに対し、ガソリン車は37.2%、ディーゼル車は20.6%で、内燃機関車が依然として過半数を占めている。

 燃料価格の高さや環境意識の高まりから、一部の消費者はHVに興味を持っている。しかし、欧州連合(EU)各国ではEV普及を推進するための政策が進められているため、HVの普及は限定的だ。

 ほかの国に目を向けると、ノルウェーではHVの需要が急速に低下している。その理由のひとつは、政府の政策がEVにシフトしていることだ。ノルウェー政府は、EV購入に対して大幅な税制優遇や高速道路の通行料無料化といった強力なインセンティブを提供している。その結果、2023年には新車販売の約80%がEVで占められるようになり、高い普及率を誇っている。

中東でのHV普及の壁

ガソリンスタンド(画像:写真AC)

ガソリンスタンド(画像:写真AC)

 燃料価格はHVの普及に大きな影響を与えている。HVは燃費性能が高いことで知られているが、燃料価格が比較的安い地域では、そのメリットをあまり感じられず、依然としてガソリン車を選ぶ傾向が強い。

 特に中東地域ではこの傾向が顕著で、石油資源が豊富でガソリン価格が安いため、HVを選ぶメリットが日本と比べて少ないと考えられる。

 例えば、サウジアラビアでは1Lあたりのガソリン価格が0.5ドル程度だ。2021年には、オクタン価91(レギュラー)の価格をSR2.18(約83円)、オクタン価95(ハイオク)の価格をSR2.33(約90円)に据え置くという国王令が発令されたが、依然として普及率は日本と比べて低い。そのため、「燃費を気にするならHVを選ぶ」という風潮はあまり見られない。

 さらに、HVの普及が進まない理由として、信頼性やメンテナンスコストの高さも挙げられる。特に、複雑なハイブリッドシステムの維持には高度な技術が必要で、そのためにメンテナンスコストが高くなることがある。

 実際、日本ではHVのバッテリー交換には高額な費用がかかることが多い。バッテリーの交換費用は車種によって異なるが、駆動用バッテリーの場合、20万円から40万円が相場とされている。また、交換時期は10万km前後とされているため、走行距離が増えるほどそのコスト負担が現実的になる。さらに、ハイブリッドシステム全体のメンテナンスも複雑で、通常のガソリン車やディーゼル車と比べて点検や修理にかかる費用が高くなることがある。

 このようなメンテナンスコストの高さは特に中所得者層や低所得者層にとって大きな負担となり、HVの購入をためらわせる要因のひとつとなっている。ガソリン車に比べて環境性能は高いものの、コスト面やメンテナンスの必要性を懸念して、ガソリン車やディーゼル車を選ぶ消費者が少なくないという現状が、一部の国で続いている。

環境規制と技術革新の未来

自動車(画像:写真AC)

自動車(画像:写真AC)

 HVの普及率を上げるためには、いくつかの要素が必要だ。まず、メンテナンスコストの低減が求められる。先述したように、HVのバッテリー交換やメンテナンス費用は高額で、場合によっては数十万円にのぼることもある。この費用を抑えることで、HVの維持がしやすくなるだろう。

 次に、政府の補助金や税制優遇措置も重要だ。日本ではHV購入時に受けられる減税制度として、エコカー減税やグリーン化特例がある。また、13年を経過しても自動車税や自動車重量税が増税されない制度も整っている。こうした取り組みが広がれば、HVの普及が世界的に進む可能性がある。

 さらに、環境規制の強化や技術の進化によって、これらの課題が解決されることで、HVの人気が高まることが期待される。各国のエネルギー政策や消費者のニーズを考慮しつつ、HV市場の動向を注視していく必要がある。

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