年間400万台を海上輸送! 意外と知らない「自動車運搬船」の実力とは? 輸出入の秘密に迫る

8000台の輸送力、船の正体

自動車運搬船(画像:写真AC)

自動車運搬船(画像:写真AC)

 自動車は世界中で生産され、輸送されている。日本は自動車輸出の大国で、国内で製造された多くの車両が海外市場に輸出されている。

 この輸送手段の中心となるのが自動車運搬船だ。なぜ同船が輸送手段として選ばれるのだろうか。また、その仕組みはどのようになっているのだろうか。

 自動車運搬船は、

・自動車
・トラック
・バス

などの大型車両を輸送するために設計された専用の貨物船だ。英語では

・Pure Car Carrier(PCC)
・Pure Car and Truck Carrier(PCTC)

と呼ばれている。これらの船は、巨大な倉庫のような構造を持ち、効率的に車両を積み込んで輸送できる。

 自動車運搬船には何層もの甲板があり、1隻で数千台の車両を一度に運ぶことが可能だ。現在運用されている自動車運搬船のなかには、最大で

「8000台以上」

の車両を輸送できるものもあり、長さは約200mにもなるため、近くで見ると巨大な建物のように見えるだろう。

 全国の輸出額の約15%が自動車であり、年間で約400万台以上の車両が海上を通じて海外に輸送されている。この大規模な輸送を行うためには、輸送コストや安全性の面からも自動車運搬船の存在が不可欠だ。

 自動車運搬船の歴史は1950年代に遡る。当時はクレーンを使って通常の貨物船に車両を積み込む

「Lo-Lo(Lift-on / Lift-off)方式」

で輸送されていた。しかし、1960年代に自動車の生産が活発になると、自動車専用の船が次第に開発されるようになった。

 自動車運搬船では、

「Ro-Ro(Roll-on / Roll-off)方式」

を導入することで、車両の積み下ろしが効率化され、急速に拡大した。1980年代には、自動車だけでなくトラックやバスなども一緒に積み込むことができるPCTCが開発され、様々な車種の輸送が進んでいった。

仕組みと構造

自動車工場と自動車運搬船(画像:写真AC)

自動車工場と自動車運搬船(画像:写真AC)

 自動車運搬船は、車両の積み下ろしを効率的に行うための様々な仕組みを備えている。

●多層甲板構造
 自動車運搬船の内部は、何層もの甲板を持つ巨大な立体駐車場のような構造になっている。自動車は自走で積み込まれるため、各甲板の間にはスロープが設けられている。一部の甲板は高さを調整できるようになっており、トラックなどの車高が大きな車両に合わせて甲板の高さを柔軟に変更できる。この仕組みにより、荷役効率が向上している。

●ランプウェイ
 自動車運搬船では、車両を積み込む際にランプウェイと呼ばれるスロープを使用する。専門のドライバーが運転して車両を積み込んでいく。ランプウェイは通常、船尾や船首に設置されており、車両がスムーズに移動できるように設計されている。この自走式の積み込み方法は、前述のRo-Ro方式と呼ばれる。

●車両の固定装置
 船内で車両が動かないようにするため、甲板には固縛ポイントがあり、ベルトを使用して車両を固定する。これにより、船が波に揺れても車両がずれたり損傷したりするリスクが大幅に減少する。また、車両の間はわずか10cmほどしか空いておらず、ドライバーの腕の高さが確認できる。

●艙内の安全
 自動車運搬船には、車両が自走することによるガスや湿気を除去するための換気システムが装備されている。また、消火設備や火災の早期発見のための探知機も備えられており、火災の拡大を防いでいる。

●船体の形状
 自動車運搬船は高さのある巨大な構造物であるため、海上を航行する際に風の抵抗を大きく受けることがある。これにより、まっすぐ航行できない場合もある。そのため、船体のコーナー部分をカットして風が流れやすくする工夫がされている。

未来の船舶と環境配慮

自動車運搬船(画像:写真AC)

自動車運搬船(画像:写真AC)

 今後、自動車運搬船を含む船舶では、環境への配慮が重要なテーマになる。自動車運搬船も温室効果ガスを排出するため、各国ではより環境に優しい船舶の開発が進められている。LNGやアンモニアなどの代替燃料が登場し、二酸化炭素排出量を削減する取り組みが行われている。

 さらに、電気自動車(EV)の普及が進むなか、安全に輸送するための対策が求められている。EVにはリチウムイオン電池が搭載されており、

・感電対策
・熱暴走を防ぐための対策

が必要だ。ガソリン車とは異なり、EVの火災は酸素を必要としない化学反応による発熱が伴うため、より危険な状態になることがある。

 デジタル化や自動運転技術の発展により、将来的には自動車運搬船の自動操縦が現実になる可能性がある。この技術により、航行の効率化や安全性の向上が期待されている。すでに一部の船舶では、AIを活用した航行ルートの最適化が進められており、今後さらに進化することで、完全無人化の船が登場するかもしれない。

 自動車の輸送は、その長い歴史のなかでより効率的で安全な方法へと進化してきた。そのなかで、自動車運搬船はその効率性と積み込み能力から、世界中の自動車メーカーに利用され続けている。

 また、環境問題や技術の進化にともない、今後もさらなる発展が期待される。自動車運搬船は自動車輸出国である日本にとって重要なインフラであり、これからも国際的な自動車市場における重要な存在であり続けるだろう。

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