EV販売「44%減」の衝撃! 結局“補助金”がないと売れないのか? 欧州8月の厳しい現実、自動車全体で「2割減」という更なる懸念も

EV販売43.9%減の衝撃

欧州と自動車(画像:Pexels)

欧州と自動車(画像:Pexels)

 9月19日に公表された欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると。欧州における8月の電気自動車(EV)販売台数が対前年43.9%減と、衝撃的な数字をたたき出した。

 駆動機関別では、

・EV:43.9%減
・プラグインハイブリッド車(PHV):22.3%減
・ハイブリッド車(HV):6.6%増
・ガソリン車:17.1%減
・ディーゼル車:26.4%減

であり、EVの落ち込みが最も激しかった。自動車全体では、2023年8月の78万7812台から64万3637台と、

「約14.5万台(対前年18.3%減)」

も落ち込んでいる。8月はバカンスと重なることから、そもそもモノが売れない時期にしても、あまりにも数字が悪すぎるのだ。1月~8月までの集計では、

・EV:8.3%減
・PHV:5.0%減
・HV:21.1%増
・ガソリン車:2.9%減
・ディーゼル車:9.7%減
・全体:1.4%増

と、上半期の好調を受けて何とか踏みとどまっているとともに、

「HVひとり勝ち」

の様相をていしている。例年は、8月を底に年末に向けて販売台数が上昇しており、今後どこまで伸ばせるのか勝負といったところだろう。

「EVひとり負け」の欧州市場

EVと給電スポット(画像:写真AC)

EVと給電スポット(画像:写真AC)

 ドイツの8月の実績は、

・EV:68.8%減
・PHV:6.8%減
・HV:0.1%減
・ガソリン車:7.4%減
・ディーゼル車:24.4%減
・全体:27.8%減

と、EVの大幅減が目立つほか、全体的に減少していることがわかる。EV販売の台数で見ると、2023年8月の8万6649台に対し2024年は2万7024台と、落ち込みがより実感できるだろう。1月~8月の実績でも、

・EV:32.0%減
・PHV:9.2%増
・HV:11.9%増
・ガソリン車:4.9%増
・ディーゼル車:4.0%増
・全体:0.3%減

と、

「EVひとり負け」

の状態だ。これは、2023年末に終了した補助金の影響と見られている。ちなみに、フランスにおける8月の実績は、

・EV:33.1%減
・PHV:35.3%減
・HV:12.5%増
・ガソリン車:36.6%減
・ディーゼル車:42.6%減
・全体:24.3%減

だった。HVが気を吐いているものの、全体的にマイナス傾向にはかわりない。

 もちろん、EVの販売が好調な国もある。デンマークは、

・EV:47.7%増
・PHV:64.6%減
・HV:13.0%減
・ガソリン車:35.8%減
・ディーゼル車:26.9%減

と、国策としてEVにシフトし続けている結果が色濃く反映されている。しかしながら、EVの台数ベースでは2023年の4772台が7050台となったにすぎず、ドイツの落ち込みと比較するとそもそもケタが違うため、欧州連合(EU)全体では“焼け石に水”といえよう。

テスラ43.2%減の悲劇

テスラのウェブサイト(画像:テスラ)

テスラのウェブサイト(画像:テスラ)

 EU域内における8月の自動車販売でプラスになったメーカーは、

・シュコダ:0.2%増(4万4346台 → 4万4424台)
・レクサス:25.5%増(3925台 → 4135台)
・ボルボ:28.6%増(1万2533台 → 1万6113台)

しかなかった。つまり、残りは全てマイナスということとなる。1万台以上販売しているメーカーのうち、マイナスが大きかったのは、

・フィアット:49.3%(2万4862台 → 1万2604台)
・シトロエン:43.2%減(2万4287台 → 1万3793台)
・テスラ:43.2%減(2万7341台 → 1万5534台)

だ。ただし、この3社の1月~8月の実績を見ると、

・シトロエン:7.5%増
・フィアット:9.2%減
・テスラ:14.9%減

であり、EV専業のテスラの不振が際立ってくる。テスラの2023年は、

「89.2%増(14万7457台 → 27万9042台)」

だったことを踏まえると、2023年末のドイツのEV補助金終了やスウェーデンに端を発した労働組合のストライキの影響が出ているように思える。

 ちなみに日本勢はというと、

・トヨタグループ(8月:4.3%減、1~8月:17.9%増)
・日産(8月:35.7%減、1~8月:8.3%増)
・スズキ(8月:10.0%減、1~8月:22.7%増)
・マツダ(8月:19.7%減、1~8月:1.8%減)

となっており、トヨタやスズキは、厳しいながらも健闘しているといえよう。2023年から好調だった日産は、ここにきて息切れした感じだ。

自動車業界救済策の模索

二酸化炭素排出量のイメージ(画像:写真AC)

二酸化炭素排出量のイメージ(画像:写真AC)

 自動車販売の落ち込みを受けて、

・フリート規制の緩和
・EV購入補助金

といった対策が求められている。ACEAは、自動車販売の激しい落ち込みを受けて、緊急の救済措置としてフリート規制の緩和をEU委員会に要望している。フリート規制とは、自動車会社が生産する車が排出する

「CO2の平均値に対する制限」

である。製造している全ての自動車の仕様を基にメーカーごとに算出し、現在は1kmあたり平均115.1gであるが、

・2025年:93.6g(約19%減)
・2030年:49.5g(約57%減)

まで引き下げられる予定だ。自動車メーカーは、フリート規制を満たすように商品構成を見直さなければならない。

 もちろん規制値を超えると違反となり、自動車メーカーは高額な罰金を払うこととなる。自動車メーカーによっては、規制をクリアするために不必要な減産を行い、

「大量の失業者」

が出る可能性があると懸念されている。フリート規制だけでなく、EU内での新しい排出基準で、特に新車の自動車に対する環境規制を強化することを目的とした「ユーロ7」など、自動車メーカーに過大な投資を押し付けており、

 昨今のEU委員会の自動車業界に対する規制が厳しすぎるという意見もまだくすぶっている。一方で、一部の専門家のなかには、

「EVが売れないのは値段が高すぎるからであり、フリート規制が強化されることで格安なEVが増え、EVの販売が回復する」

という楽観的な意見もある。

EV販売不振、全体減少の影響

上海の海通港からローロー船でヨーロッパに向けて出発する上海汽車のEV「MG4エレクトリック」。2022年撮影(画像:上海汽車)

上海の海通港からローロー船でヨーロッパに向けて出発する上海汽車のEV「MG4エレクトリック」。2022年撮影(画像:上海汽車)

 9月下旬、ドイツ政府と自動車関連団体のトップがオンライン会議を行ったと報道された。この会議は、販売の落ち込みを受けてというより定期的な会合だとしているが、テーマは

・中国製EVへの関税
・EVへの補助金
・フリート規制の緩和

などホットな話題が含まれている。EVへの補助金については、

「従来の補助金方式だと他国の格安なEVメーカーをもうけさせるだけ」

との批判もあり、フランス方式が検討されている。フランス方式は、製造時のCO2排出量を含めて

「メーカーごとに補助金の有無を決める方法」

だ。この方法だと、生産時における化石燃料の依存度が高い中国製EVは補助金の対象とならない。

 もちろん、補助金に反対する意見もある。補助金でEVへの乗り換えを促進すると、

「まだ使えるガソリン車を無駄に廃車する」

こととなり、かえって環境を悪化させるという。またBMWは、補助金は一時的に市場をゆがめる“麻薬”にすぎず、それよりも

「充電インフラを整備する」

など持続可能な対策が望ましいと意見表明している。

 EVは「生活になくてはならない」といった確固たるニーズがあるわけではなく、国々の補助金や政策次第で販売台数が増減するのが現状だろう。となれば、2024年もあとわずかであり年内の回復は絶望的といえる。また、欧州の報道を見る限り、

「EVの販売不振だけが取り沙汰されている」

のも気になるところだ。8月は自動車販売全体で18.3%減を記録しており、EVの落ち込みだけに起因するのか、それとも世の中の景気を反映しているのか秋以降を注視しなければならない。

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