JR四国「運転士不足」で減便へ! 経営危機「年収300万じゃ家族持てない」と若い運転士が次々と離職、四国の鉄道網は生き残れるのか

29日から普通列車17本が減便に

1本が減便となる松山駅の予讃線上り普通列車(画像:高田泰)

1本が減便となる松山駅の予讃線上り普通列車(画像:高田泰)

 JR四国が9月29日から運転士不足を理由に香川、愛媛の両県で1日17本減便する。構造的な赤字で国から経営改善を迫られ、給与を抑えてきた結果、若手の離職が相次いだためだ。

 予讃(よさん)線の特急「しおかぜ」、「いしづち」が待つホームに別の特急「宇和海」が滑り込み、9m手前でピタリと止まる。待ち構えていた鉄道ファンが一斉に駆け寄り、カメラのシャッターを次々に切る。9月中旬に訪れた愛媛県松山市のJR松山駅。28日で見納めになる名物の特急縦列停車に大勢の鉄道ファンが名残を惜しんでいた。

 松山駅は1953(昭和28)年に完成した老朽駅舎。レトロ感たっぷりの雰囲気に人気がある一方、四国の県庁所在地にある中心駅で

「最もしょぼい」

などといわれてきたが、愛媛県が600億円以上の巨費を投じた鉄道高架事業で29日、モダンな雰囲気の新駅舎が開業する。これにともない、特急列車も新駅舎内の島式2面4線のホームで対面乗り換えになる。

JR四国の構造的課題が浮き彫りに

予讃線上下3本ずつと土讃線下り1本の普通列車が消える多度津駅(画像:高田泰)

予讃線上下3本ずつと土讃線下り1本の普通列車が消える多度津駅(画像:高田泰)

 だが、明るい話題ばかりではない。

 JR四国は松山駅の新駅舎開業と同日にダイヤ改正し、香川県と愛媛県で普通列車計17本の減便に入る。香川県では、高松市の高松駅で18時32分発の琴平行きなど、多度津(たどつ)町の多度津駅で午前6時2分発の高松行きなど、観音寺市の観音寺駅で22時21分発の高松行きなどが消える。

 愛媛県では、今治市の今治駅で21時2分発の松山行きなど、八幡浜市の八幡浜駅で午前5時22分発の松山行きなど、大洲市の伊予大洲駅で午前5時42分発の松山行きなど、松山駅で22時20分発の今治行きがなくなる。

 減便はJR四国の路線で比較的運行本数が多い予讃線と香川県内の土讃(どさん)線に限られ、愛媛県と高知県にまたがる予土線など存廃が取りざたされる路線には及ばない。JR四国は「減便の影響を最小限に抑えたかった」と説明する。だが、原因は

「若手の離職が相次いだ」

ことによる運転士不足だ。今回の減便でJR四国の先行きに危険信号がともったことは間違いない。

営業赤字116億円の現実

予讃線の下り普通列車2本が減便となる今治駅(画像:高田泰)

予讃線の下り普通列車2本が減便となる今治駅(画像:高田泰)

 JR四国は2023年度決算で最終損益が35億円の黒字を記録したが、営業損益は116億円の赤字。

「国の支援」

など営業外利益の157億円がなければ立ち行かない厳しい状況に追い込まれている。2020年には国土交通省から経営改善を文書で求められ、再建の途上だ。

 コロナ禍で落ち込んだ輸送人員はコロナ禍前の9割まで回復したが、国立社会保障・人口問題研究所によると、四国の人口は2020年の約370万人が2050年に約260万人(30%減)まで減ると推計されている。利用促進を進めても効果には限界が見える。

 そこで、鉄道事業以外で増収を目指す一方、懸命に経費削減を進めている。古い駅舎をアルミ製の簡易駅舎に切り替えた数は、2023年度末までで徳島県徳島市の吉成駅など16に上る。無人駅は2023年度末で全体の

「85%」

に達した。交通系ICカードを利用できるのは香川県の一部だけ。運行維持に手いっぱいで、乗客サービスまで手が回らないのが実態だ。

給与抑制で若い運転士が相次いで離職

アルミの簡易駅舎に変わった吉成駅(画像:高田泰)

アルミの簡易駅舎に変わった吉成駅(画像:高田泰)

 職員の給与も低く抑えられている――。

 2024年4月入社の大卒初任給は21万1900円。関東や関西の大手私鉄と比べると、小田急電鉄の22万3700円、南海電鉄の22万2000円に1万円以上見劣りする。JR四国の本社がある香川県の企業と比較しても、タダノ(建設用クレーンメーカー)の事務系・技術系23万500円、百十四銀行のエリア総合職22万5000円より低い。

 その結果、2024年度は155人の採用を予定していたのに、約8割の

「123人」

しか入社しなかった。旧国鉄時代に大量採用した職員が次々に定年退職しているほか、1987(昭和62)年の民営化後に採用を手控えた時期があり、40代後半から50代前半の職員が極端に少ない事情が運転士不足に拍車をかけている。定年退職者の雇用延長にいつまでも頼ることもできない。

 さらに、コロナ禍が一段落して若い運転士の離職が目立ってきた。平均勤続年数は13.3年。駅員や車掌を経験してやっと運転士に育てた職員が退職している格好だ。20代の男性運転士は

「友人が何人か離職した。300万円台の年収では家族を持てない」

と不安げに語った。JR四国は2016年度、175人を採用する計画。年間休日日数の増加など処遇改善もできる範囲で進めているが、

「今後も厳しい採用環境が続くと考えている」

と苦しい胸の内を打ち明ける。

地域で支える態勢づくりが必要

松山駅で縦列停車する特急「しおかぜ」「いしづち」(左)と特急「宇和海」。2023年撮影(画像:高田泰)

松山駅で縦列停車する特急「しおかぜ」「いしづち」(左)と特急「宇和海」。2023年撮影(画像:高田泰)

 鉄道の運転士不足はJR四国に限った話ではない。

・給与の低さ
・不規則なシフト制
・厳格な運行時間管理

などが敬遠され、異業種へ転職したり、より給与の高い会社へ移ったりする例が後を絶たない。減便や運休は

・愛媛県:伊予鉄道
・福井県:福井鉄道
・千葉県:小湊鉄道

など各地で起きている。

 四国の場合、人口減少の速度が以前の想定以上のペースで進んでいる。JR四国が自力で経営を立て直し、運転士に高い給与を払えるようになるとは考えにくい。欧州のように鉄道を

・社会インフラ
・地域の公共サービス

と考え、地域で支える体勢を取る必要がある。

 JR四国に対しては国が財政支援する一方、香川県は高松市の鬼無(きなし)駅トイレ改修、愛媛県は松山駅高架化に費用を拠出した。高知県は市町村が進める駅のトイレのバリアフリー化を補助している。徳島県は徳島市の徳島駅で再開発の計画を練っている。各県とも苦しい財政事情のなかで予算を捻出しているが、この程度でJR四国が持続できるはずがない。

 日本では古くから鉄道を

「民間の営利事業」

と考えてきた。大都市圏のドル箱路線を抱える本州3社が相手なら、その考えが通じる部分もあるかもしれないが、ドル箱路線のないJR四国には酷な話だ。4県主導で社会インフラとしての鉄道網をどうすべきか、考える時期に来ている。

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