フォルクスワーゲンがドイツ国内工場の閉鎖検討 対象はどの工場になるのか? EV市場の未来に警鐘鳴る

VW工場閉鎖の衝撃

VWのラインアップ(画像:VW)

VWのラインアップ(画像:VW)

 フォルクスワーゲン(VW)グループの最高経営責任者(CEO)、オリバー・ブルーメ氏と最高財務責任者(CFO)、アルノ・アンリッツ氏をはじめとする経営トップは、2024年9月4日にドイツ北部のウォルフスブルクにある本社で、従業員2万人以上が出席するなか、労働評議会との話し合いを行った。

 この話し合いの2日前、VWの経営陣は、コスト削減の必要性を強調し、ドイツ国内の工場閉鎖の可能性を示唆した。さらに、ドイツ国内の六つの工場で働く従業員の雇用を保障する労働組合との協定を打ち切る方針を明らかにした。

 もしドイツの工場が閉鎖されれば、VWの創業以来初めてのこととなるため、各メディアはEV需要の鈍化や新興電気自動車(EV)メーカーとの競争激化と関連付けて、これをドイツ経済の衰退の象徴として報じている。

 本稿では、VWが工場閉鎖に追い込まれる要因や、実際に閉鎖される可能性のある工場について考察し、VWの今後のEV事業展望について記す。

87年目の危機感

リヴィアンCEO ロバート・ジョセフ・スカンジ氏とVWグループCEOオリバー・ブルーメ氏(画像:VWグループ)

リヴィアンCEO ロバート・ジョセフ・スカンジ氏とVWグループCEOオリバー・ブルーメ氏(画像:VWグループ)

 VWの創業は、アドルフ・ヒトラーが「ドイツ国民のための車」の開発を提唱したことがきっかけである。このフォルクスワーゲンという言葉は、ドイツ語で「国民の車」を意味する。ヒトラーの意向を受けて、フェルディナント・ポルシェが開発した車両を生産するため、VWは1937年に設立され、2024年で87年になる。

 現在、VWグループには

・アウディ
・ポルシェ
・ベントレー
・シュコダ
・セアト

などのブランドが傘下にある。年間総生産能力は1400万台だが、2023年のグループ総販売台数は924万台にとどまり、生産能力に余剰があることは明らかである。

 2015年に発覚した「ディーゼルゲート」と呼ばれる排ガス規制不正問題により、VWは巨額の制裁金を科され、大規模なリコールを実施せざるを得ず、ブランドイメージは大きく損なわれた。その結果、会社存続の危機に直面した。

 これを乗り越えるために、VWはEVシフトに基づく電動化戦略を進めてきたが、2024年7月には112億ドル(約1兆6000億円)のコスト削減目標を掲げ、大幅な戦略転換を余儀なくされた。コスト削減目標の約30%は、いまだ達成のめどが立っていない。

 9月4日の話し合いでは、ドイツ国内の工場閉鎖に至った要因として、

「欧州市場での販売鈍化」

が指摘された。販売台数はピーク時から約200万台減少し、2工場分に相当する約50万台が生産能力に対して余剰となっている。EVシフトを乗り越えるためには、生産性向上とコスト削減が急務であるとされている。

 また、六つの主力工場における2029年までの雇用保証契約を破棄することも発表された。9月10日には、この契約が取り消され、2025年半ば以降に従業員解雇が可能となる見通しが報じられた。

 VWは、米国のリヴィアンに50億ドル(約7000億円)、中国の小鵬汽車(シャオペン)にも7億ドル(約1000億円)を出資している。コスト削減が進まないなかで、将来のEV投資を進めていかなければならず、余剰生産能力を解消するためにドイツ国内での工場閉鎖という苦渋の選択を迫られている。

ツヴィッカウ工場の運命

VWグループのドイツ国内工場(画像:VW)

VWグループのドイツ国内工場(画像:VW)

 VWは、車両工場と部品工場の1か所ずつを閉鎖することを検討しているようだ。9月下旬から始まる労使交渉を前にした一種の“脅し”ではないかともいわれているが、実際に閉鎖される可能性のある工場について考察してみる。

 VWはドイツ国内に六つの車両工場(ヴォルフスブルク、オスナブリュック、エムデン、ハノーファー、ドレスデン、ツヴィッカウ)と三つの部品工場(ザルツギッター、カッセル、ブラウンシュヴァイク)を持っている。このうち、ニーダーザクセン州には五つの車両工場とふたつの部品工場があり、同州はVWの議決権株20%を保有しているため、特に雇用に関する重要な決定に対して拒否権を持っている。

 VWのような大規模な工場の閉鎖は地域経済に大きな影響を与えるため、州としては雇用維持の立場を貫くと考えられ、これらの七つの工場は閉鎖の対象にならない可能性が高い。また、本社工場であるヴォルフスブルクの閉鎖も現実的ではないため、残る選択肢は

・ツヴィッカウ工場
・カッセル工場

のふたつとなる。

 2024年7月、ツヴィッカウ工場では1000人以上の臨時従業員が2025年末までに解雇される可能性があると報じられた。この工場の年間生産能力は約36万台で、EVのID.3、ID.4、ID.5などを生産しており、新型EV「トリニティ」の生産も予定されている。従業員数は約1万人だが、EV需要の減速を受けて、さらなる人員整理や閉鎖が予想されている。

 一方、カッセル工場はVW最大の部品工場で、マニュアルトランスミッションやオートマチックトランスミッションなどを生産している。約1万6000人を雇用し、1958年から稼働している伝統ある工場だが、内燃機関向け部品が主力であるため、変速機メーカーへの売却などの選択肢も含めて、閉鎖の可能性が否定できない。

今後のEV事業展開

VWグループ本社(画像:VW)

VWグループ本社(画像:VW)

 VWはディーゼルゲート以来最大の試練に直面しており、EVシフトの最中で正念場を迎えている。創業以来初めてのドイツ国内工場の閉鎖を決断することで、社内外に危機感を持たせつつ、コスト削減とEVシフトの推進を図ろうとしている。

 VWグループの今後のEV事業展開には、リヴィアンとの提携や新たに立ち上げるEVブランド「スカウト」による北米事業の強化が含まれている。

 また、シャオペンとの提携を強化し、アウディと上海汽車の協力を拡大することで、中国市場では比亜迪(BYD)などの新興EVメーカーに対抗する構えだ。

 そして、欧州ではドイツ国内工場の閉鎖という苦渋の決断を経て、EV事業の再建に向けて全力を尽くすだろう。

 コスト削減の一環として行われるであろうドイツ国内の工場閉鎖や従業員の解雇は、今後のVWのEV事業にどのように影響するのだろうか。

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