トヨタがギガキャスト用大型鋳造設備の導入先に、愛知の「自社工場」を選んだ理由

EV生産効率化の新技術

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 日本経済新聞は2024年8月21日、トヨタ自動車が電気自動車(EV)などの車体部品を一体成型するためのギガキャスト用大型鋳造設備を愛知県内の自社工場に年内に導入すると報じた。この鋳造設備は国内最大級で、型締力は9000t級、UBEマシナリー(山口県宇部市)が納入する。

 ギガキャストは、すでにテスラなどが採用している技術で、EV生産の大幅な効率化が期待されている。この技術を使うと、大型ダイカストマシンにより、従来は複数の部品から作られていた車体構造部品を一体成形でき、部品点数や製造工程を大幅に削減できる。

 日経の報道によると、トヨタが導入する大型鋳造設備は、ギガキャストによる部品や工程の削減、車体の軽量化が実現可能かを見極める試作用で、量産には使用されないという。

 本稿では、トヨタが愛知県内の自社工場にギガキャスト用大型鋳造設備を導入するに至った背景を探る。

部品統合、86から1へ

トヨタ・明知工場にある大型鋳造設備(画像:トヨタ自動車)

トヨタ・明知工場にある大型鋳造設備(画像:トヨタ自動車)

 トヨタは2023年6月、東富士研究所(静岡県裾野市)で開催された「トヨタ テクニカル ワークショップ2023」において、次世代バッテリーEV戦略としてギガキャストの取り組みを紹介した。

 新しいモジュール構造で車体を3分割し、ギガキャストを採用することで、大幅な部品統合を実現し、車両開発費や工場投資の削減に貢献すると説明した。

 具体的な例として、BEV「BZ4X」のリア部(後部)を挙げた。従来は部品点数が86個で33工程を要していたが、ギガキャストを利用するとアルミ合金製の1部品に統合でき、製造工程をひとつに集約できるという。

 このように、ギガキャストは前例のない規模で部品や工程の統合を可能にし、自動車の製造方法を革新的に進化させる潜在能力を持っている。トヨタはこれまでに少なくとも4年にわたり、ギガキャストの研究開発に取り組んできた。

愛知に集まるギガキャストの未来

アイシンの中長期事業戦略説明資料(画像:アイシン)

アイシンの中長期事業戦略説明資料(画像:アイシン)

 トヨタがギガキャスト用大型鋳造設備を導入するのは、

「明知工場」(愛知県みよし市)

が最有力と考えられる。この工場では、これまでにギガキャストの試作用設備を扱っており、UBEマシナリー製の新設備が導入されることで、さらなる試作開発が進む可能性が高い。他の候補としては、次世代EV向けの実証生産ラインがある

「元町工場」(豊田市)

もあるが、試作用設備をすぐに量産工場に導入するのは難しいだろう。

 ギガキャストに使用される大型鋳造設備は、テニスコート1面分ほどの大きさで、重量は1000t近くになると予想されている。UBEマシナリーは山口県宇部市に生産工場があり、愛知県のトヨタ工場に運ぶためには、設備を分割して輸送する必要があり、かなりの手間と費用がかかる。海外工場への輸出となると、さらに労力や費用が増えるため、トヨタが国内工場でのギガキャスト導入を選んだ理由のひとつには、設備運搬をできるだけ簡便にしたいという意図があったと考えられる。

 また、ギガキャスト用の大型鋳造設備は汎用(はんよう)性が低く、導入する車種を愛知県内の自社工場で生産するEVに限定している可能性がある。ひとつの設備で成形できる部品のサイズには限界があるため、生産できる車両サイズも制約される。多くの車種にギガキャストを導入するには、複数の金型が必要で段替え作業が増えるため、生産性が低下する。そのため、トヨタは試作用設備を使って試行を重ねながら、ギガキャストを量産に導入する段階で具体的な車種を選定して進めるだろう。

 さらに、トヨタグループ各社との連携も重要なポイントだ。アイシンは2023年9月に中長期事業戦略を発表し、成長領域にEV向けの「BEV商材」として電池骨格やギガキャストを挙げている。2021年比で売上高を10倍にする2000億円を目指し、今後はトヨタとの連携が見込まれる。アイシンも試作段階から参加する可能性があり、愛知県内に研究開発や生産拠点を持つアイシンにとって、トヨタ自社工場にギガキャストが導入されることは地の利を生かすことにつながる。

 以上の点を考慮すると、明知工場の活用に加え、将来的にギガキャストを導入するEVの生産工場やトヨタグループ各社との連携を踏まえ、トヨタがギガキャストを導入する工場のロケーションとして愛知県以外の選択肢はほとんどなかったと考えられる。

EV市場で加速するギガキャスト競争

IDRA社の大型鋳造設備(画像:IDRA)

IDRA社の大型鋳造設備(画像:IDRA)

 テスラが業界に先駆けてギガキャストを導入したのは2020年で、最初のモデルはモデルYだった。この大型鋳造設備はイタリアのIDRA社製で、親会社は中国のLKグループだ。また、IDRA社は9000t級の設備をボルボからも受注している。

 現在、比亜迪(BYD)をはじめ、EVを生産するほとんどのメーカーがギガキャストの導入を検討している。これにより、世界各国のEVメーカーや大型鋳造設備メーカーの間で、ギガキャスト技術に関する競争が激化している。

 トヨタは2021年12月に発表したEV戦略から1年半が経過しているが、当時の目標はそのままで、2025年までに30種類以上の電動車両を市場に投入し、2030年までに年間350万台のEVを販売する計画が掲げられている。このロードマップを実現するためには、トヨタにとってギガキャストは不可欠な技術となる。

 トヨタは年内に試作でのギガキャスト導入を開始し、将来的には海外で生産するEVにも展開していく見込みだろう。

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