自動車メーカー、円安で絶好調! その裏に潜む「優越的地位の濫用」の影、日商会頭も思わず「違うんじゃないの」と呆れる現実

自動メーカーの円安の影響

自動車(画像:写真AC)

自動車(画像:写真AC)

 自動車各社が公表した2024年度第1四半期の決算では、営業利益が全体的に増加した。営業利益とは、企業の主な営業活動から得られる利益であり、企業の本業の収益性を示す重要な指標だ。

 トヨタ自動車の1875億円を筆頭に、スズキ980億円、ホンダ902億円、マツダ204億円となった。営業利益の変動要因を見ると、為替変動の影響によりトヨタ自動車は3700億円も利益を押し上げ、ホンダ475億円、マツダ439億円、スズキ375億円となっている。日産自動車や三菱自動車は、営業利益こそ前年度を下回ることとなったが、日産自動車237億円、三菱自動車246億円と、円安の恩恵を受けていた。

 トヨタ自動車の為替変動の影響を時系列で比較すると、

・2020年度:-2550億円
・2021年度:6100億円
・2022年度:1兆2800億円
・2023年度:6850億円

となっており、為替変動により利益が積み上がり、2022年度は1兆円を突破するレベルだった。

 対米ドルの円相場は、2024年の6月以降こそじわじわと円が高くなりつつあるが、過去数年間を見ると2020年12月の103円台を境に下がり続け、6月には160円を突破したのは記憶に新しい。

 ここまでの話は、自動車会社をはじめとした輸出関連企業に対し、2020年12月以降の円安傾向が正の方向に働いた側面にすぎない

もちろん円安により製造原価が上昇

円安のイメージ(画像:写真AC)

円安のイメージ(画像:写真AC)

 もちろん、円安による負の方向の影響もある。

 為替変動により営業利益が押し上げられた一方で、

・材料費
・エネルギー費用

など製造原価が上昇したのはいうまでもない。ほとんどの原材料を輸入に頼っている自動車は、製造原価の上昇がまともに直撃した。

 例えば、トヨタ自動車の2022年度決算は、為替変動の影響で1兆2800億円のプラスを記録したが、資材高騰による影響が

「ー1兆5450億円」

だった。そのようななか、原価改善や営業面の努力により、トータルで対前年2706億円のマイナスに抑えた。

 ちなみに決算で用いた為替レートは、2021年度が1ドルあたり112円、2022年度が135円であり、この約20円の差がジェットコースターのような利益の増減をもたらした。

円安でますます苦しくなる下請け会社

2024年5月に発表された「自動車業界」サプライチェーン動向調査(画像:帝国データバンク)

2024年5月に発表された「自動車業界」サプライチェーン動向調査(画像:帝国データバンク)

 ピラミッド構造の頂点に君臨する自動車メーカーは、為替変動リスクを最小限にするため、

・製品の値上げ
・為替リスクヘッジ
・調達先の見直し

などさまざまな手段を駆使できる。しかしながら、ピラミッド構造の下に位置する下請け会社は、下層になるほど円安に対抗する手段が限られてきて対応が難しくなる。上流に位置する会社が値上げを受け入れれば丸く収まるが、果たして現状はどうだろうか。

 帝国データバンクの自動車業界サプライチェーン動向調査(2024年5月24日発表)では、自動車関連の下請け業者6万社のうち約1500社が回答し、そのうち1割が全く価格転嫁できていないあるいは価格転嫁するつもりはないという。

 また、価格転嫁できたうち、すべてできたのはわずか約4%で、5割以上ですら約40%にすぎなかった。この調査では、円安による原材料価格やエネルギー価格の上昇分が転嫁できず、下請け会社がますます苦しくなっていることがうかがえる。

 また、日本商工会議所が、7月中旬に中小企業の課題や対応を話し合うなかで、地方の商工会議所から

「中小企業は大企業に成長の果実を吸い取られている」

との声が上がっていた。日本商工会議所の小林会頭は、「大企業側が取引価格を引き上げることで中小企業が通常の取引で利益を上げられるようにすることが必要だ」と訴えている。また、テレビ東京の報道によると、5月には

「例えば某自動車は何兆円儲けて、本当はその実儲けの中に、もう経費として下請けに値増し分を払ってやる分が1兆円ぐらいあってしかるべきなんだ。ところがそれ何も入ってない。それで何兆円儲かった。来年度は今年度から3000億出しますって。それってやっぱり違うんじゃないのと」

と、名指しは避けながらも、実質的にトヨタ自動車に対する強い批判を行っている。

優越的地位の濫用は解消されるのか

2024年5月に発表された「自動車業界」サプライチェーン動向調査(画像:帝国データバンク)

2024年5月に発表された「自動車業界」サプライチェーン動向調査(画像:帝国データバンク)

 2024年3月7日には、日産自動車が公正取引委員会から下請法違反の勧告を受けていた。日産自動車は、2021年1月から2023年5月までの間、自社の原価低減を目的に、下請け事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず下請け代金の額を減じていた。減額した総額は、約30.2億円だった。2020年12月から円安がはじまっており、円安で上昇したコストをここ数年間にわたり下請け企業になすりつけたかたちだ。

 さらに3月15日には、公正取引委員会により独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取り組みに関する特別調査結果が公表された。この特別調査は、取引価格が据え置かれており事業活動への影響が大きい取引先として受注者から多く名前が挙がった発注者を対象に個別に実施した。

 調査を行った企業のうち、協議を経ない取引価格の据置き等が確認された事業者として10社の社名が公表された。このうち自動車関連ではダイハツ工業、三菱ふそうトラック・バスの社名があった。

 日本自動車工業会(自工会)は、5月末に適正取引に関する自工会方針に基づき「適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」およびその実効性を高める「徹底プラン」を改訂したと公表した。このなかで、取引対価の協議および原価低減要請に関する望ましくない事例や原材料費・エネルギーコストについては、

「取引先と十分に協議の上で合意した適切なコスト増加分の全額転嫁を目指す」

と記載した。今後は、この自発的な取り組みの実効性が問われることなる。

 原材料費・エネルギーコスト、あるいは人件費の価格転嫁問題以外にも、トヨタ自動車の子会社が下請法違反で勧告を受けた金型の無償保管など、長年の慣習で下請けの中小企業が被ってきたコストもある。

 2023年度決算の営業利益は、トヨタ自動車5兆3529億円、日産自動車5687億円だったが、優越的地位の濫用により

「かさ上げされた部分」

がどのくらいあるのか気になるところだ。

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