日本の凄まじい「平和ボケ」 ここまでくると、もはや立派な“観光資源”なのか?

オリンピックで見えた国際的評価

訪日客のイメージ(画像:写真AC)

訪日客のイメージ(画像:写真AC)

 令和時代において、観光は単なる経済活動にとどまらず、文化交流や国際理解を促進し、平和構築の一翼を担う重要な要素として位置づけられている。コロナ禍以後の、観光を通じた令和の新たな国際関係構築のあり方について、議論を深めていく。

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 観光は平和産業である。

 旅は必ずしもすべてが非日常体験ではないが、4年に一度のハレのイベントであり“平和の祭典”でもあるのがオリンピックだ。

 オリンピックイヤーの2024年、開会式から物議を醸したパリオリンピックが幕を閉じたが、開催期間中は選手村の評判の悪さがいくつかのニュースで報じられた。そのため、必然的に比較されるのが評判のよかった前回の東京オリンピックの選手村だ。

 東京オリンピックの選手村は、バラエティー豊かなフードメニューの食堂が選手たちから高い評価を受けたようだが、個人的にはそれだけではない。そもそも“平和の祭典”を開催するのにふさわしい平和さにおいて、日本は先進各国のなかで群を抜いているだろう。時には

“平和ボケ”

とやゆされる日本と日本国民だが、客人を招く際にはこれが安心感を与えるホスピタリティになることもある。

 現在、世界の2か所で軍事的紛争が起きているなか、日本は依然として平和が定着している。これこそが、日本の貴重な

「観光資源」

かもしれない。急増する訪日客たちも、最終的には日本の平和の匂いに引き寄せられているように思える。

 平和ボケという言葉には、長く平和が続き、危機感が薄れているというネガティブなイメージもある。しかし、これが訪日客に特別な体験を提供できる可能性は大いにあるだろう。

 特に、戦争や紛争、テロなどが身近に起きている国から来る訪日客にとって、日本の平和ボケは癒やしと安らぎをもたらすのかもしれない。

“何もしない旅”の魅力

平和ボケのイメージ(画像:写真AC)

平和ボケのイメージ(画像:写真AC)

 日本での旅は、忙しく観光地を巡るよりも、のんびりと滞在し温泉やグルメを楽しむ方が適している。実際、リゾート型の滞在は日本では伝統的に広く楽しまれており、温泉宿のような“何もしない系旅”はむしろメジャーといえるだろう。

 温泉宿や民宿だけでなく、日本には保養所、青年の家、宿坊、断食道場など、リラックスとレクリエーションを提供する場所がたくさんある。現代社会では、情報や仕事に追われる生活を送る人が多いため、一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスから離れるデジタルデトックスツアーも人気だ。

 何もしないで過ごす時間は、忙しい日常から解放され、心と体をリフレッシュさせる絶好の機会になる。また、このような旅のスタイルは平和ボケを体感するうえでも適した手段だろう。

 オリンピックの選手村の話題で思い出すのは、筆者(仲田しんじ、研究論文ウォッチャー)の高校時代の運動部の夏合宿だ。詳しい記憶は定かではないが、陸上部員として群馬県や千葉県の合宿施設に約一週間滞在していた。

 もちろん、練習は午前中からそれなりにハードに行われていたが、グラウンドへの移動時間がないため、意外と自由時間も多かった。夜には読書にふけったりして、振り返ると充実した日々だった。

 合宿中には半日オフの日もあったように記憶しているが、その日はまさに“何もしない系旅”を楽しんでいるようなもので、水泳や卓球など別の競技を楽しみながら気ままに過ごした。そして夜空を見上げると、都会では見ることのない澄んだにぎやかな星空に心が躍ったものだ。

少年自然の家の現状

少年自然の家(画像:写真AC)

少年自然の家(画像:写真AC)

 夏合宿は懐かしい思い出だが、近年、合宿施設や青年の家の利用は減少しており、閉鎖される施設も増えている。少子化の影響も大きいが、コロナ禍を受けて集団生活が見直されていることも一因だろう。

 特に「少年自然の家」は、ここ20年で250か所以上が廃止され、跡地の利用が課題となっている。また、青少年教育施設全体では、過去25年で450か所以上が廃止されたともいわれている。

 少年自然の家は、日本の青少年向けの教育施設で、自然体験やキャンプ活動を通じて子どもたちの健全な成長を促すことを目的にしている。主に小中学生を対象としており、自然環境のなかでさまざまな活動を行うことが特徴だ。具体的な活動内容は、

●キャンプ活動
 テント泊や野外炊飯を通じて自然のなかでの生活を体験する。

●自然観察
 周辺の自然環境を観察し、植物や動物について学ぶプログラム。

●スポーツや遊び
 アウトドアスポーツやグループでのゲームを通じて、チームワークやコミュニケーションを育む。

●環境教育
 自然環境の大切さやエコロジーについて学ぶ授業やワークショップを提供する。

である。少年自然の家は、青少年の自主性や協調性を育む場として教育的な役割を果たしている。

 これらの施設を“何もしない系旅”に活用できれば、地域の観光資源として再評価される可能性がある。静かな環境でのんびり過ごすことが、観光客に特別な体験を提供し、地域経済にも貢献できるかもしれない。

静かな旅の魅力

B級グルメのイメージ(画像:写真AC)

B級グルメのイメージ(画像:写真AC)

 観光は単なる経済活動にとどまらず、文化交流や国際理解を促進し、平和を広める手段にもなる。日本の平和ボケが観光資源であるなら、訪日客がこれを体験し、自国にその平和的なマインドセットを持ち帰ることで、日本の平和さを広く伝えてくれる可能性もある。

 特に、緊張が続く国際情勢のなかで、日本のような平和が当たり前の場所を訪れることは、訪日客にとって貴重な体験になるだろう。

 日本のラーメンやカツカレーといった“B級グルメ”レストランが世界各地で人気だが、ファンの多くは日本滞在経験のある人々だ。彼らは滞在中に味わったリーズナブルなB級グルメの味が忘れられず、人気が高まっている。このことから、食文化の輸出においても、日本での平和ボケ体験が一役買っているのかもしれない。

 数年前の爽やかな秋の日、皇居東御苑を訪れた際、ベンチで眠っている外国人男性を見かけた。気持ちのよい天気だったこともあり、連日歩き回って疲れていたのかもしれない。しかし、屋外で眠ってしまうとは、各地の平和で穏やかな観光スポット巡りで平和ボケが伝染したのかもしれない。

 このように、日本の平和ボケは実際には観光資源として非常に価値がある。さらに、“何もしない系旅”を通じて得られる静かで穏やかな時間は、忙しい日常から離れたい人々にとって大きな魅力だ。

 観光を通じて平和と癒やしを体験し、その価値観を世界に広げることができれば、令和の観光は国際理解と平和構築のための新しい手段になるだろう。

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