かつては変人扱い! 「一人旅」が今では全然恥ずかしくなくなった根本理由

一人旅の急成長

一人旅のイメージ(画像:写真AC)

一人旅のイメージ(画像:写真AC)

 筆者(昼間たかし、ルポライター)は前回、「なぜ「一人旅」は旅館で歓迎されなかったのか? かつては想像できない“恐怖”のイメージも…… SNS話題のネタを深掘りする」(2024年9月1日配信)という記事を書いた。

 この記事の要約は次のとおりだ。

・近年、一人旅が旅行業界の注目トレンドとなっている。
・宮城県の「温湯温泉 佐藤旅館」の一人旅歓迎ツイートが大きな反響を呼び、予約が急増した。
・かつて、多くの旅館では一人客の受け入れに消極的で、断ることも珍しくなかった。
・1980年代後半から1990年代初頭にかけては、一人旅(特に女性。自殺などの懸念から)の宿泊拒否が一般的だった。
・一人旅が敬遠された理由には、経営効率や安全面の懸念、偏見などがあった。
・1990年代から一人旅のレジャー化が始まったが、本格的な受け入れには時間がかかった。
・統計データによると、1997年に2.4%だった一人旅の割合は、2022年には17.7%まで増加している。
・2010年代以降、一人旅が特殊なものではなくなり、宿泊施設の受け入れ体制が整ってきた。

統計が示す変化

2023年の年齢別・性別の一人旅の割合。「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024(2023年分)」より(画像:リクルートのデータを基にMerkmal編集部で作成)

2023年の年齢別・性別の一人旅の割合。「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024(2023年分)」より(画像:リクルートのデータを基にMerkmal編集部で作成)

 前回の記事では、宿泊施設がかつて一人旅を敬遠していた実情を取り上げた。今回は、旅行業界で一人旅を求める人々が新たな顧客として注目を集めている背景と今後の展望について考えたい。

 現在、女性の一人旅もブームとなっており、女性客を意識して「ひとり旅」といった柔らかい表記が使われることも増えている。さて、どのような変化が起きているのだろうか。まずは、「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024(2023年分)」を参考に、2023年の年齢別・性別の一人旅の割合を紹介しよう。

・全体:15.9%
・18~29歳(男性):24.9%
・18~29歳(女性):11.5%
・30代(男性):19.2%
・30代(女性):9.1%
・40代(男性):23.2%
・40代(女性):12.9%
・50代(男性):24.8%
・50代(女性):11.8%
・60代(男性):18.7%
・60代(女性):10.2%
・70代(男性):15.9%
・70代(女性):8.0%

 現在の調査方法は2023年から導入されたため、比較は難しいが、2010(平成22)年のデータと見比べてみよう。

・全体:12.9%
・20~34歳(男性):21.6%
・20~34歳(女性):10.3%
・35~49歳(男性):16.7%
・35~49歳(女性):7.4%
・50~79歳(男性):14.1%
・50~79歳(女性):10.3%

 全体的には増加しているものの、特に男性の増加には及ばないが、女性の一人旅実施率は注目に値する。70代を除く全ての年代で増加しており、特に40代女性の増加が顕著だ。彼女たちの実施率は7.4%から12.9%へと増加している。これは、全年代・性別のなかで最も顕著な変化だ。この背景には、

・子育ての一段落
・キャリアの安定
・自己実現欲求の高まり

などが考えられる。また、18~29歳の女性の一人旅実施率も増加しており、若い女性たちの間で一人旅が好まれていることを示している。

 このように、統計データから見ても、一人旅は性別に関係なく広く受け入れられつつあり、レジャーの一形態として定着しているといえる。

一人旅支援、女性向けツアー拡充

サンライズ出雲(画像:写真AC)

サンライズ出雲(画像:写真AC)

 この記事を書くにあたり、最近の一人旅に関する情報を広く調査したが、特に女性をターゲットにした内容が目立つ。

 例えば、著名な旅行ガイドブック『るるぶ』のウェブ版では、2024年8月に

「サンライズ出雲でひとり女子旅!夜行列車の詳細をレポ」

という記事が掲載された。夜行列車は従来、男性が好んで利用するイメージがあったが、その考えはもはや古いようだ。

 ツアー催行大手のクラブツーリズムは「ひとり旅」ツアーを強化している。そのなかでも30~50代の女性をターゲットに、同世代の女性社員によるプロジェクトチームを結成し、商品を拡充している。2024年6月からは「女性限定ひとり旅」をテーマにしたツアーを展開しており、

「おひとりずつに1テーブルを用意」
「バスの座席も1人2席」

といった工夫が施されている。このように、ツアー旅行でありながら、一人旅のように楽しむことができる仕組みだ。

 一人旅は全て自分で計画し判断する必要があるため、その煩わしさは男女ともに敬遠されることがある。しかし、こうしたハードルを下げた商品展開は、一人旅を好む人々をさらに増やす要因となるだろう。

「おひとりさま」の急増傾向

一人カラオケのイメージ(画像:写真AC)

一人カラオケのイメージ(画像:写真AC)

 2010年代から本格的に増加した一人旅は、「おひとりさま」の一般化と深く関連している。この言葉は2005(平成17)年に流行語にノミネートされた。社会学者の上野千鶴子が2007年に発行した『おひとりさまの老後』や、マーケティングリサーチャーの三浦展が2013年に発行した『日本人はこれから何を買うのか?「超おひとりさま社会」の消費と行動』などの書籍では、一人暮らしが未婚の若者だけでなく、高齢者にも急増することが予見されている。

 実際、2011年頃から

・一人カラオケ
・一人焼き肉専門店

など、「おひとりさま」をターゲットにした店舗が多くの業界で急増している。旅行業界も、このような社会の変化に対応してきた。

 また、消費者の意識の変化も重要だ。吉澤清良・久保田美穂子・小林英俊による論文「一人旅の現状とその特性に関する一考察」(『第28回日本観光研究学会全国大会学術論文集』2013年)には、こう記されている。

「一人旅の増加要因としてよくいわれるのが社会的な背景である。2010年10月現在、単身世帯が初めて3割を超えたことや、40代で独身の割合が男性で3割、女性で2割に達するなど未婚率が高まっていることなどが挙げられている。しかし、一人旅の増加は世帯構成の変化ばかりではなく、自立している人、他に依存せずに生きていくと覚悟を決めた人が増えていることが、深く関係しているものと考えられる」

 この考察は、一人旅の増加が単なる世帯構成の変化にとどまらず、個人の価値観や生き方の変化、さらにはそれにともなう社会の変容によるものであることを示している。一人旅の増加は、生涯独身を含む多様なライフスタイルの選択が社会に浸透している証拠だ。

 もう一つ、コロナ禍が人々の旅行に対する意識や行動に大きな変化をもたらしたことも、一人旅の増加を促進したことは間違いない。外出制限やソーシャルディスタンスの実施により、多くの人々がいや応なしに「個」の時間と向き合うことになった。この経験は、皮肉にも「ひとり時間」の価値を再認識させるきっかけとなった。

「ひとり」の価値、56.3%

メッセージ・チャットアプリのイメージ(画像:写真AC)

メッセージ・チャットアプリのイメージ(画像:写真AC)

 博報堂生活総合研究所の「ひとり意識・行動調査 1993/2023」によると、「ひとりでいる方が好き」と回答した人の割合は、1993(平成5)年の43.5%から2023年には

「56.3%」

に増加した。30年間で12.8ポイントの増加だ。この結果から、2000年代から始まった長期的な「ひとり志向」の高まりと、コロナ禍での「個」の時間の再評価が組み合わさって、一人旅への関心や実践が急速に拡大しているといえるだろう。

 この傾向はテクノロジーの進化によっても支えられている。JTB総合研究所が実施した「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2023年度版)」も、この点を裏付けている。

 調査によると、スマートフォンでよく使う機能は「メッセージ・チャットアプリ(85.5%)」が1位、「検索エンジン(77.2%)」が2位となっている。一方、3位の「メール(71.7%)」と4位の「電話(64.5%)」は2019年の調査に比べて利用が大きく減少している。「メッセージ・チャットアプリ」と「メール」や「電話」との違いは

・即時性
・グループ機能
・スタンプや絵文字
・通知機能

などといったところだろうか。これは、より迅速でカジュアル、個人的なコミュニケーション手段が変化していることを示している。

 また、SNSの利用状況にも注目が必要だ。「Instagram」と「TikTok」は2019年の調査よりも10ポイント以上利用率が上昇し、利用者の年齢層も広がっている。これらのプラットホームを通じて、旅行情報の入手や体験の共有がより活発になっていると考えられる。

 さらに、この調査では旅行関連のAIサービスの利用についても触れられている。ここでは、2019年の調査と比較して、

「旅行中にわからないことを相談できる」
「一人旅でも困らない」

といった回答の順位が上昇している。2019年調査とは選択肢が異なるため、直接の比較はできないが、利用経験あり(合算)を見ると、2019年は30.7%だった。AIも旅行者にとって重要なツールになりつつあるのだ。

テクノロジーが開く一人旅

AIのイメージ(画像:写真AC)

AIのイメージ(画像:写真AC)

 JTBの調査結果は、テクノロジーの進化が一人旅を支えていることを示している。

 特に、SNSが一人旅に与える影響は大きい。物理的には一人でも、オンラインでは常に誰かとつながっている。旅の様子をリアルタイムで共有したり、フォロワーと交流したりすることができる。また、SNSを使えば、ガイドブックには載っていない地元のグルメを簡単に探すこともできる。

 筆者の経験でも、見知らぬ街で地元の人に「この辺でおいしい店はどこですか」と聞くのは勇気がいる。ガイドブックに載っていない、普段地元の人が通うようなお店を知りたいのに、名物料理の有名店を教えられたり、声をかけても無視されたりすることがよくある。

 しかし、テクノロジーはこうした問題を解決してくれる。あらゆるテクノロジーが一人旅を後押ししているのだ。

2050年単独世帯4割化

一人旅のイメージ(画像:写真AC)

一人旅のイメージ(画像:写真AC)

 これから先、一人旅がさらに増えることは間違いない。

 総務省の『人口動態・家族のあり方等社会構造の変化について』によると、2050年には単独世帯が

「約4割」

を占めるようになり、主流になると予測されている。また、単独世帯のなかで高齢者だけの世帯が

「5割」

を超えるともいわれている。

 そのため、一人旅行はより一般的になり、多様な旅行スタイルの一つとして定着していくだろう。スマートフォンなど、誰もが簡単に使えるテクノロジーのおかげで、一人旅の多くの困難が解消され、より快適な旅行体験が可能になっている。

 最後に前回の記事に寄せられたコメントをまとめておく。

・初めての一人旅には不安があったが、実際に行ってみるととても楽だった。
・旅行の行き先や食事を自分の思い通りに決められるのが魅力的。
・友人や家族と旅行することが多いが、たまの一人旅は新鮮で楽しい体験。
・ビジネスホテルに宿泊し、地元の居酒屋や小料理屋での食事を楽しむのが特に楽しい。
・会社を辞めたことで自由に旅行できるようになり、全国の温泉地を訪れるようになった。
・一泊朝食プランを提供する旅館が増えてきている。
・一人旅に対する理解が深まっているものの、受け入れが少ない旅館もある。
・一人旅プランが充実している宿は、オーナーの苦労が感じられることが多い。
・一人旅の需要が高まるなかで、宿泊施設も対応を進めている。
・自分のペースで行動できる自由さが、一人旅の最大の魅力だ。
・仕事での移動時にも観光地に寄り、一人で泊まることが楽しみになっている。
・一人旅は、気を使わずに自分の好きなように過ごせる貴重な時間を提供してくれる。
・以前は一人旅をする人が「変わり者」と見なされていたが、今では一般的になった。

今、一人旅の魅力を体験する絶好のチャンスが広がっている。一人旅はもはや恥ずかしいものでもなく、「変わり者」だけのためのものでもなくなったのだ。

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