犬猿の仲だった「東名」「中央道」が、すっかり仲良しになった根本理由

6kmの距離、深い絆

中央道側からの小牧JCT(画像:都野塚也)

中央道側からの小牧JCT(画像:都野塚也)

 現在、さまざまな地域に広がる高速道路のなかには、起点が同じ位置またはほぼ近い位置にあり、それぞれの経由地を通って終点も同じ位置か近い位置に設定されている路線がいくつか存在する。その代表例が、東名高速道路(東名)と中央自動車道(中央道)だ。

 東名の起点は東京都世田谷区の東京インターチェンジ(IC)、中央道の起点は東京都杉並区の高井戸ICで、両ICは環八通り沿いに設置されており、距離は約6kmと近い。東名は主に太平洋沿岸を、中央道は南アルプスや中央アルプスの付近を経由し、愛知県小牧市の小牧ジャンクション(JCT)で両路線は交わる。そこから、東名は小牧JCTから京都・大阪方面に約7km進んだ小牧ICで、中央道は小牧JCTでそれぞれ終点を迎える。

 このように、起点と終点が近いことから、東名と中央道は長い間

「深い相互関係」

で結ばれてきた。特に近年はその関係がさらに強くなっている。仕事とプライベートで年間約6万kmを走る私(都野塚也、ドライブライター)は中央道沿いに住んでいるが、一昔前よりも東名を利用する機会が格段に増えている。また、さまざまな路線を走行するなかでも、東名と中央道を走る際には特別な思いが湧いてくる。

 東名と中央道の関係には、現在に至るまでさまざまな変化を経た歴史がある。これを知ることで、走行する楽しさや思い入れがより深まるので、ぜひ知ってほしい。

東名・中央道の激闘史

東名vs中央道の対立イメージ(画像:写真AC)

東名vs中央道の対立イメージ(画像:写真AC)

 現在では深い関係にある東名と中央道だが、もともとは“犬猿の仲”といえるほど対立していた。日本の高速道路建設が具体的に動き始めたのは、戦後の1957(昭和32)年に制定された「国土開発縦貫自動車道建設法」による。これは各地方に縦貫自動車道を建設し、主要都市には枝葉の自動車道を通す計画だった。

 そのなかでも、東京~名古屋~神戸のルートは一般道の交通量が多かったため、開通の優先度が高かった。最短ルートが構想され、現在の中央道~名神高速道路(名神)のルートが検討された。この段階では、東名の構想は存在しなかった。

 東名が構想に浮上したのは、1960年制定の「東海道幹線自動車国道建設法」からだ。沿道の人口の多さや国道1号線の交通量の飽和を受けて、中央道よりも優先的に建設すべきだとの声が上がった。これにより、

「東名vs中央道」

の対立が生まれた。

 対立が続くなか、両者は妥協し、同時に着工することとなった。先に構想された中央道だが、最大の問題は南アルプスを貫通する長大トンネル(長さ5000m以上)の建設だった。このため、初区間の開通は東名よりも早かったが、その後の建設は滞った。一方、東名は各区間の施工命令から建設までがスムーズに進んだ。結果的に、中央道は当初のルートを変更し、さらに起点の高井戸IC周辺での住民による建設反対運動も影響し、開通までに時間がかかった。

 結局、東名は初区間の開通から約1年で全線が開通したのに対し、中央道は約15年を要した。その後、しばらくの間、東名と中央道はそれほど深い関係にはならなかった。

便利さ増す新たな迂回路

東名と中央道を結ぶ路線のひとつ。中部横断自動車道(画像:都野塚也)

東名と中央道を結ぶ路線のひとつ。中部横断自動車道(画像:都野塚也)

 2000年代に入ると、全国の高速道路ネットワークが急速に発展した。そして、東名と中央道を直接結ぶ高速道路の路線がいくつか新たに誕生した。具体的には、次の路線が挙げられる。

・圏央道
・御殿場バイパス~須走道路~東富士五湖道路~中央道支線
・中部横断自動車道南側部分(中部横断道)
・東海環状自動車道(東海環状道)

これにより、従来は一般道での移動が主流だった両路線間が、高速道路でスムーズに移動できるようになった。

 その結果、例えば東名ユーザーが山梨県や長野県の中央道沿道を訪れたり、中央道ユーザーが神奈川県や静岡県の東名沿道に行ったりする機会が圧倒的に増えた。私も運転中に、東名で山梨県や長野県のナンバーを、中央道で神奈川県や静岡県のナンバーを見る機会が増えた。

 また、どちらの路線でも渋滞や通行止めなどの交通規制があった場合、容易に迂回ルートを利用できるようになった。例えば、2019年10月には大型台風の影響で中央道の八王子JCT(東京都八王子市)から大月JCT(山梨県大月市)が約1週間通行止めになった際、私は中央道から圏央道、東名、御殿場バイパス、須走道路、東富士五湖道路、中央道支線を経由して迂回した。

 このように、他の路線を利用しながら東名と中央道を行き来することが可能になり、両路線は他の路線の影響を受けながらも強い関係性で結ばれている。

新路線で変わる高速道路網

東名と中央道の今後のイメージ(画像:写真AC)

東名と中央道の今後のイメージ(画像:写真AC)

 東名と中央道の今後の関係性が気になるところだが、今後はさらに深まると予想される。その理由として、全国の高速道路建設予定路線に東名と中央道を直接結ぶふたつの路線が含まれていることが挙げられる。

 まず、お互いの起点付近である東京外環自動車道(外環道)がここ数年内に開通予定だ。工事が難航しており、具体的な開通時期は未定だが、外環道が開通すれば東名と中央道の行き来がさらにしやすくなる。

 また、静岡県と長野県を結ぶ三遠南信道路が徐々に部分開通しており、将来的には全線が開通して東名と中央道が直接結ばれる予定だ。この路線が全線開通すれば、東名と中央道のネットワークがさらに向上することが期待される。

 これまでさまざまな歴史を歩んできた東名と中央道だが、今後は明るい未来が待っていることは間違いない。そして、それは日本全体の高速道路の未来にもつながる話だ。

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