高速バスが「ビジネスユース」で活性化?出張経費を削減したい企業が望む潜在的なサービスメニューとは

年間輸送人員9735万人の現実

ドリームスリーパー(画像:奈良交通)

ドリームスリーパー(画像:奈良交通)

 2022年版「日本のバス事業」(日本バス協会)によると、2020年の高速バス事業者数は359社、運行系統数は5113路線(各事業者の運行系統数の合計。共同運行の事業者については重複計上)、運行回数1日1万3257回、年間輸送人員は9735万3000人と公表されている。年間輸送人員は2016年の1億1574万人をピークに減少傾向にある。

 最新のデータは2020年のものだが、コロナ禍でこれが激減していったことは想像に難くない。

 2023年以降だけでも、日時順に鳥取~福岡、北九州~別府・大分、東京・新宿~広島、岡山~津山、水沢・金ヶ崎・北上~仙台、高知、高松、徳島~福井、金沢、富山などの高速バスが廃止に追い込まれている。

 コロナ禍以降、テレワークの普及、長引く不況による旅行者の減少、2024年問題による乗務員の確保難などの要因が重なり、運休や相互乗り入れで運行を打ち切る事業者も出てきている。高速バスの老舗路線として知られる大阪~福岡間のムーンライト号でさえ運休している。

運賃比較、夜行バスのコストパフォーマンス

ドリームルリエ(画像:JR西日本)

ドリームルリエ(画像:JR西日本)

 筆者(北條慶太、交通経済ライター)は東京と京都・大阪方面を行き来する際、時間短縮を考慮すれば夜行高速バスも選択肢に入る。その空席探しに特徴的な傾向を見てとれる。高速バスは

「若者向けの安く寝て移動できる乗り物」

という印象が強いが、高級路線のシートは意外に埋まりやすいのだ。競争率が高いのは、関東バスと奈良交通が共同運行する

「ドリームスリーパー」(東京~大阪~奈良)

と、JRバス関東と西日本JRバスが運行する

「ドリームルリエ・プレシャスクラス」(東京~大阪)

だ。東京発関西行きのドリームスリーパーは、2017年1月に運行を開始し、7年という長きにわたって運行されている完全個室の高速バスだ。運行開始からしばらくの間は毎日運行されていたが、現在は多くの乗客が見込まれる土日や連休を中心に運行されている。

 究極の睡眠体験を提供するために設計された「ゼログラビティ(無重力)シート」は、本当によく眠れる。背もたれの角度は40度、座面の角度は30度、フットレストは水平に設置されている。

 一方、ドリームルリエ・プレシャスクラスは上級クラスで、車両によって4~6席ある。残りのスペースは3列のアドバンスクラスシートで占められている。後に導入された車両では、プレシャスクラスは6席に増席されている。これもニーズの高さを示している。

 広告では、乗客が足を伸ばしたり寝返りを打ったりできること、仕切りとカーテンで個室に近い感覚を味わえることを宣伝している。リクライニング角度が156度というのも魅力だ。

 運賃は日によってドリームスリーパーが片道1万8000円から2万円、ドリームルリエ・プレシャスクラスが片道1万3000円から2万2500円となっている。東海道新幹線のぞみの東京~新大阪間の正規料金は、普通車自由席で1万3870円、普通車指定席で1万4720円(運賃込み)である。

 コロナ禍が落ち着いて以降、インバウンド需要が高いこともあり、大都市圏のホテルは軒並み強気の価格設定をしている。そう考えると、高級路線の夜行高速バスを利用したほうが、合計金額が安くなることが多い。

 寝ている間にゆったりと移動し、朝には出張をスタートできる人にとって、高級夜行高速バスは十分な移動手段だ。

サンライズに学ぶ高級夜行バスの未来

ドリームルリエ・プレシャスクラス(画像:JR西日本)

ドリームルリエ・プレシャスクラス(画像:JR西日本)

 高速バスの活性化策として、出張経費を削減したい企業や法人向けに割引などのサービスメニューを提供することで、高級高速バスの回転率を上げるという方法がある。

 サブスクリプション型のアプローチもある。最近では、各方面の新幹線がテレワークを支援する専用車両を用意している。夜間に仕事・睡眠・移動ができる「夜行個室ビジネスバス」のブランド化があってもいいだろう。

 かつて、東京~大阪の寝台特急「銀河」はビジネス急行と呼ばれていた。ビジネス利用の促進策を講じれば、平日でも安定的に運行できる。この記事を書いている今も、新型コロナの第11波が到来すると報じられている。公共交通では、まだまだソーシャルディスタンスを重視する傾向が強い。感染の可能性に神経質になっている企業もまだ多い。企業にとっては自家用車も魅力的だ。

 高速バスの魅力は、鉄道では不便な区間をダイレクトに結べることだ。寝台特急「サンライズ」の人気を考えれば、夜行にもまだ望みはある。東京と大阪のような大都市間や、長距離区間に「高級路線」はありうる。

 ドリームスリーパーのような全室個室の場合、定員は11人で、利益を出すには単価を上げるしかない。一方、ドリームルリエのように1両にプレシャスシートとアドバンスシートを混在させ、

・高級でも個室派
・できるだけ安く行きたい派

の両方のニーズに応えられるようにしたほうが、柔軟性があっていい。西鉄の東京~博多間のはかた号も、2列のプレミアムシートと3列のビジネスシートを混在させる同様のシステムを採用している。

 全但バスも、城崎温泉・豊岡~大阪と浜坂・湯村温泉~大阪の高速バスで、個室の「グリーンルーム」をふたつ備え、残りのスペースは通常の4列シートで占める車両を導入している。導入当初、城崎温泉から大阪・梅田への出張で個室を利用したが、快適で仕事がはかどった。

消費者逃避を防ぐバス戦略

 高速バスにはさまざまなニーズがある。今後、東海道新幹線にも個室が誕生する。東北・上越・北陸新幹線では、すでに利用形態に応じてグランクラス、グリーン車、ビジネス車、普通車が用意されている。

 鉄道でいう「1編成でのニーズ」への対応を、高速バス1台でどう凝縮して進めるかが今後の経営上のカギである

 ニーズに応えられないと判断されれば、消費者は必ずその地域から逃げていく。多様なニーズへの柔軟な対応と、可変的な方向性が求められるだろう。

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