EV用バッテリー、覇権を握るのは「平型」か?「円筒形」か? パナソニックは開発強化で1000人増員も、着実に迫る中国系メーカーの足音

1000人増員で挑むEV革命

円筒形車載電池(画像:パナソニックエナジー)

円筒形車載電池(画像:パナソニックエナジー)

 国内家電大手パナソニックの子会社であるパナソニックエナジー(大阪府守口市)が、蓄電池や電気自動車(EV)用バッテリーの開発体制を強化するため、今後1000人の人員増加を発表した。

 パナソニックエナジーは、パナソニックの電池部門が独立して設立された会社で、車載用蓄電池の開発と生産を主要事業のひとつとしている。同社は北米市場でトップシェアを誇り、世界全体でも6位にランクインしており、EV需要の高まりとともに事業を拡大してきた。特に、パナソニックエナジーが開発・生産するバッテリーは米国のEVメーカー、テスラに採用されており、両社が共同運営する工場が北米にある。

 これまでにもバッテリー関連の事業で900人の増員を行ってきたが、2025年までにさらに1000人を開発部門に追加する予定であり、その意気込みがうかがえる。

 パナソニックエナジーのEV用バッテリーには「円筒形」と呼ばれるリチウムイオンバッテリーセルが採用されている。乾電池を大きくしたような円筒形のバッテリーセルを複数組み合わせてひとつの大型バッテリーを構成するもので、安全性と信頼性が高く評価されている。テスラのEVに搭載されているバッテリーも、ほとんどがこの方式だ。

 これまで、同社が生産してきたバッテリーセルには「1865」や「2170」といったモデルがあるが、次世代型の「4680」電池の投入も間近だ。

 4680電池は、従来のバッテリーセルよりも大きな円筒形で、エネルギー密度が5倍に向上しており、EVの航続距離の延長に貢献する。この4680電池はパナソニックエナジーの国内工場で生産される予定で、テスラだけでなく国内自動車メーカーのEVにも採用される見込みだ。

 今回の人員増加は、こうした将来の需要に対応し、電池の性能向上や生産効率を高めることを目的としている。

EV市場を席巻する中国の新型バッテリー

ブレードバッテリー(画像:BYD)

ブレードバッテリー(画像:BYD)

 円筒形バッテリーはかつてEV用バッテリーの主流だったが、現在では中国系メーカーを中心に「ブレードバッテリー」と呼ばれる新しいタイプのEV用バッテリーが注目を集めている。

 中国の自動車市場はEVの巨大なマーケットとなり、ここ数年で新興のEVメーカーが続々と登場。2023年の販売台数は668万台に達した。そのなかで市場をけん引しているのが比亜迪(BYD)で、同社と関連サプライヤーが開発したのがブレードバッテリーだ。

 ブレードバッテリーは、その名の通り刀剣のように細長く薄型の長方形バッテリーセルを特徴としている。このセルを複数並べてバッテリーパックを構成している。また、ブレードバッテリーは正極材にコストが抑えられる一方で性能がやや低めのリン酸鉄(LFP)を使用しているが、ブレードバッテリー全体で高いエネルギー密度を実現している。

 このブレードバッテリーの強みは体積効率にある。同じ容量の長方形ケースに円筒形バッテリーを配置すると隙間が生じやすいが、ブレードバッテリーは薄い長方形の形状を持つため、隙間なく効率的に配置できる。さらにBYDは、このバッテリーを車体骨格の一部として組み込む設計を採用しており、非常に効率的なレイアウトを実現している。

 BYDは自動車メーカーとしての歴史は浅いが、ブレードバッテリーを含む革新的な技術を次々と投入し、その実力は中国メーカーのなかでも非常に高いレベルに達している。

円筒形電池の未来

テスラCEOのイーロン・マスク(画像:AFP=時事)

テスラCEOのイーロン・マスク(画像:AFP=時事)

 EV用バッテリーには、円筒形バッテリーセルとブレードバッテリーのふたつが主流となっているが、テスラが今後どちらを主力にするかが注目されている。

 テスラは現在、現行車種に両方のバッテリーを採用している。「モデル3」や「モデルS」にはパナソニックエナジーの円筒形バッテリーを使用し、新型の「モデルY」には中国市場などでBYDのブレードバッテリーを一部採用している。前述のとおり、テスラはパナソニックエナジーと共同で4680電池などのバッテリーを開発しているが、同時に中国製バッテリーの採用にも動いている。

 テスラの意図はまだ明確ではないが、性能が高い4680電池はコストが高いため、コスト削減を重視する車種や市場向けには、低コストのブレードバッテリーを採用する可能性がある。テスラの動きが世界的なEV普及の鍵となるため、円筒形バッテリーの将来的な需要は不透明さを増している。

 この動きはパナソニックエナジーにも影響を及ぼしており、世界的なEV需要の減少と相まって、2023年末からテスラ向けの電池を減産している。しかし、同社が開発人員を増やしている背景には、テスラ以外の販路拡大を目指す意図がある。実際、パナソニックエナジーには他の自動車メーカーからも引き合いがあり、スバルやマツダとはすでに将来のバッテリー供給に向けた合意書を締結している。

 なお、最近のテスラは、急速な方針転換やEV市場の失速にともなう人員整理や事業廃止が目立っているため、パナソニックエナジーの今後に注目だ。

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