ゴミか?お宝か? 「EV用リチウムイオンバッテリー」の今後を左右するリサイクル市場の行方とは

再資源化の課題

リチウムイオンバッテリー(画像:日産自動車)

リチウムイオンバッテリー(画像:日産自動車)

 リチウムイオンバッテリーの需要は、世界中で急速に拡大している。特に、大型のバッテリーを必要とする電気自動車(EV)市場は、2027年までに8580億ドルに成長すると予測されている。

 しかし、バッテリーの主要材料であるレアメタルの供給が需要を下回る可能性があり、リチウムイオンバッテリーのリサイクルが避けられない状況になりつつある。それにもかかわらず、現在リサイクルされているバッテリーは全体のわずか5%にすぎない。

 リチウムイオンバッテリーの需要増加を支えるために、リサイクルは重要な役割を果たす。しかし、バッテリーには可燃性の有機溶媒や空気中の水分と反応して腐食性の有毒ガスを発生する電解質が使われており、処理が非常に困難だ。そのため、リサイクルコストとのバランスが取れず、再資源化が進んでいないのが現状だ。

 こうした課題を乗り越え、リチウムイオンバッテリーのリサイクル市場は、2030年までに

「130億ドル」(約1兆8820億円)

に達する可能性があると予測されている。その理由はどこにあるのだろうか。

新技術で挑むEVバッテリー再生革命

蓄電池の再利用(画像:フォーアールエナジー)

蓄電池の再利用(画像:フォーアールエナジー)

 リチウムイオンバッテリーのリサイクル市場が注目を集める理由のひとつに、新たなリサイクル手法の研究開発が進んでいる点が挙げられる。

 現在主流のリサイクル方法には、

・溶液を使ってバッテリー材料からレアメタルなどの金属を分離する「湿式精錬(しっしきせいれん)」
・熱を使って材料を金属や金属化合物に変換する「乾式精錬」
・正極材を取り出し再生する「ダイレクトリサイクル」

がある。

 特にダイレクトリサイクルは、住友化学が約10年前に開発した正極材修復技術が基盤となっている。2022年には、住友化学が京都大学と協力し、正極材を金属に精錬せずに再生するダイレクトリサイクルの開発・実証を開始。

 また、同社は、リチウムイオンバッテリーの分別回収技術を開発中のJERA(東京都中央区)と共同で技術開発を進めており、この取り組みは新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援事業にも選ばれている。

劣化バッテリーの新たな命を生む技術

EVバッテリーの再利用しやすいモジュール構成(画像:東京電力)

EVバッテリーの再利用しやすいモジュール構成(画像:東京電力)

「リユース」という新たなアプローチにも注目が集まっている。日産自動車と住友商事によって設立された合弁会社・フォーアールエナジー(横浜市)は、EVバッテリーの「次の使い方」としてリユース事業を展開している。

 同社の4R事業では、使用済みリチウムイオンバッテリーを再利用するために、モジュールを再構成し、電圧や容量を変更して再パッケージ化し、再販売を行うことで、バッテリーのリサイクルを循環させることを目指している。

 EV用リチウムイオンバッテリーは、薄いラミネート構造(円筒型や角形構造もある)のバッテリーセル、セルを集めたバッテリーモジュール、そしてモジュールをEV用にまとめたバッテリーパックで構成されている。しかし、バッテリーの劣化はモジュールごとに異なり、最も劣化したモジュールに合わせてパック全体の性能が低下してしまう。

 そのため、劣化の激しいモジュールを取り除き、あまり劣化していないモジュールに合わせて再構成すれば、バッテリーパック全体の性能を回復させることができる。EV用バッテリーは性能が高いため、こうした方法でも他の用途に転用できる。

 フォーアールエナジーでは、劣化が少なく高性能を維持しているバッテリーを日産リーフの交換用バッテリーとして再利用し、中程度の劣化が進んだバッテリーは電動フォークリフトなどに活用。さらに劣化が進んだバッテリーは、バックアップ電源用の電池として再生されている。

EU規制が進化を促すリサイクル市場

カバーを外したバッテリーパック(画像:日産自動車)

カバーを外したバッテリーパック(画像:日産自動車)

 欧州でもリチウムイオンバッテリーのリサイクル市場が注目されている。グローバルインフォメーション(神奈川県川崎市)の市場調査リポートによると、欧州のリチウムイオン電池リサイクル市場規模は、2023年に7億7560万ドルに達し、2033年には約6倍の

「43億1650万ドル」

に成長する見込みだ。

 この市場をけん引しているのは、欧州連合(EU)の厳しい規則と持続可能性目標だ。さらに、ニッケルやコバルト、リチウムといった貴重な資源の回収と環境保護への意識が追い風となっている。

 EVリチウムイオンバッテリーのリサイクル市場が注目される背景には、技術の進歩と、レアメタルの枯渇や環境への配慮がある。ただし、リサイクル技術の開発だけでなく、低コスト化や原料の安定確保といった採算性の確保が大きな課題となっている。

 廃バッテリーが大量に発生し、レアメタルが枯渇してからでは手遅れだ。リサイクルのコストが見合わなくても、今から取り組む必要がある。手軽にリチウムイオンバッテリーをリサイクルできる時代が訪れることを期待したい。

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