96%の会社が赤字! 路線バスが生き残るには、もはや「異業種参入」しかないのか?

新事業でバス復活

北海道拓殖バス(画像:北海道拓殖バス)

北海道拓殖バス(画像:北海道拓殖バス)

 広大な十勝平野のほぼ中央に位置する北海道音更(おとふけ)町。同地に本社を置く北海道拓殖バスは2024年4月6日、新得町に観光農園を開園した。その名も「拓鉄キノコタン」だ。

 この名前は、

・鉄道ファンならおなじみの北海道拓殖鉄道の通称「拓鉄」
・農園で栽培する「キノコ」
・アイヌ語で集落を意味する「コタン」

を組み合わせたもので、キノコ(主にシイタケ)の収穫体験ができる場所を作りたいという思いが込められている。ちなみに前述の北海道拓殖バスは、北海道拓殖鉄道(鉄道は1968年に廃線。現在は物流会社)の系列会社である。

 バス事業者がなぜキノコ栽培事業に参入するのか、不思議に思う人もいるかもしれないが、経営難のなかで何か手を打つために思いついたようだ。しかし、観光農園を持つことで、バス路線が移動手段として活用できる。

 筆者(西山敏樹、都市工学者)は先日、NHK帯広放送局から、バス事業者が観光農園事業に参入した背景について説明してほしいという依頼を受けた。これをきっかけに、この事業に興味を持ち、調べてみた。

 北海道拓殖バスもコロナ禍の影響を受け、他の企業同様、経営は厳しい状況にある。路線バス事業者の96%は赤字だ。しかし、観光客が訪れる場所を作り、バスに乗ってもらう仕組みを作った。このような新規事業へのアイデアは、バス事業を維持していく上で必要不可欠であり、それを実践している北海道拓殖バスは素晴らしいと思う。他社はこの一歩を踏み出せないからだ。

東急バス、貨客混載成功の理由

東急バス(画像:写真AC)

東急バス(画像:写真AC)

 筆者が勤務する東京都市大学(世田谷区)と同じ東急グループに属する東急バス(目黒区)は、横浜市青葉区の路線バスで「貨客混載」を実施している。貨客混載とは乗り物の空きスペースなどを利用して貨物を輸送することだ。

 同社は2022年4月から、「た41系統」(たまプラーザ駅~虹が丘営業所)の路線において、貨客混載を積極的に推進している。路線沿いのパンショップで製造されたパンをたまプラーザ駅まで運び、別の支店のスタッフに引き渡すという仕組みだ。これにより、パンショップのスタッフはパンを別の支店まで運ぶ手間が省ける。

 たまプラーザ周辺は住宅街で坂道も多いことから、自家用車の利用もそれなりに多い。そのため、バスドライバーという“運転のプロ”がパンを運ぶことで、輸送時のリスクも軽減できる。バス事業者にとっても、わずかながら収益源を確保できる。双方にとってWin-Winなシステムだ。現在は、沿線の製麺所から麺を虹が丘営業所まで運び、営業所の窓口で新鮮な麺を販売している。

 2023年6月には、運営事業者として、電動アシスト自転車のシェアサイクリングのサービス「ハローサイクリング」に参画した。路線バスを降りた後の「ラストワンマイル」をどうするかは、全国のバス事業者でもよく議論されているテーマだ。東急バスはいち早く行動を起こしたのだ。

 筆者は、東急東横線、目黒線、多摩川線が乗り入れる多摩川駅(大田区)で、鉄道とバスの乗り換えをしている。多摩川駅には自転車プールがある。自転車がすべて使われているのをよく見かけるし、先日も勤務先の大学の学生たちが利用しているのを見た。

 最近は、ドライバー不足などの要因でバスの路線数も減り始めている。そのため、最寄りのバス停から自宅までの移動手段に不安を抱える人が増えている。それを意識したビジネスだ。沿線の地域モビリティを考える、よい新規ビジネスだ。

小型EVで地域活性化を加速

超小型EV「C+pod」(画像:トヨタ自動車)

超小型EV「C+pod」(画像:トヨタ自動車)

 2024年6月から、東急バスは小型EVとEVスクーターのカーシェアリングサービス「ハローモビリティ」の運営事業者としても参画している。

 筆者の大学に近い東急バスの等々力操車場のほか、オアシスたまプラーザにもステーションが設置されている。トヨタ自動車の超小型EV「C+pod」も2台導入されている。

 この取り組みの進んでいるところは、

「自社の路線バスと競合する可能性」

もある自転車や小型モビリティの事業に踏み出したことだ。利用者はその日のニーズや気分、体調に合わせて、さまざまな移動手段を選択できる。もちろん、東急バスには路線バス以外の収益源となるが、地域モビリティを俯瞰(ふかん)し、SDGsへの取り組みを通じて

・モビリティの確保と移動の利便性の向上
・地域活性化と街の魅力向上
・脱炭素社会

の実現を目指している。

革新をもたらす異業種アイデア

地方の路線バス(画像:写真AC)

地方の路線バス(画像:写真AC)

 路線バスの専門家として、筆者は各所で

「バス事業者の異業種参入は当たり前」

と常々いってきた。“大きな箱”であるバスをただ走らせる時代は終わった。サウナバスなどのアイデアも、もはや否定できない。観光農園や小型モビリティなど、異業種参入で路線バスを守ろうとする企業の努力は高く評価されるべきだ。

 経営的な観点から見れば、バス事業者は異業種参入などの思い切った手を打つしかない。実際、この3年間で、将来を見据えた事業転換に挑むバス事業者が増えている。

 コロナ禍による乗客数の大幅な減少はバス事業者にとって大きな打撃となり、また、テレワークの拡大により、バス事業以外の分野で新たな収入源を確保する努力を余儀なくされる状況となっている。

 このような異業種参入は、今や「当然」の流れとなっている。バス事業者は、

・バスの空席
・営業所の空室

など、すでに持っている資源から収益を生み出すという課題に直面している。このような企画力は非常に重要であり、今後試されることになるだろう。バスとその周辺の問題を解決するビジネスがもっと生まれることを心から願っている。

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