「路線バスの乗り方がよくわからない」 こういう人は意外に多かった!

地域格差、バス利用の障壁に

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 筆者(西山敏樹、都市工学者)は公共交通の専門家である。そのため出張の際、できるだけ現地の路線バスを利用するようにしている。

 そこで最近特に耳にするのが、

「このバスではSuica(もしくはPasmo)は使えないのか」

といった声だ。使えないとわかると、「全国交通系ICカードじゃないか」と、ドライバーに文句をいう人が多い。空港の係員にも同様である。

 SuicaやPasmoがビジネスやレジャーに使えると思っている人は、周囲に結構いる。ただ、熊本のように、初期費用や維持費用の面で全国交通系ICカード決済を廃止するケースも今後増えてくることが予想される。

 さらに、今後はクレジットカードのタッチ決済が波及する可能性があり、完全キャッシュレスの波もくるかもしれない。現金が使えない可能性も生じる。

 こうした決済手段の多様化や地域による格差は、バス利用者の不満の蓄積や、安心してバスを利用できない感覚につながる。結局、

「路線バスは不親切で、乗り方がよくわからない」

という印象につながり、バス離れの一因になりかねない。

 路線バスの決済方法は、全国的なユニバーサルデザイン化が必要な項目である。定着した全国交通系ICカードはそれにつながる試みであり、税金を投入することは公共の利益につながる。

支払い方法、地域で異なる課題

路線バス(画像:写真AC)

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「路線バスは不親切で、乗り方がよくわからない」

というのは、乗り方や決済のタイミングも大きく影響している。

 筆者は結婚するまでの30年間を東京の赤羽で過ごした。赤羽駅は東京都区内だが、隣駅は埼玉県の川口駅である。昔から、鳩ヶ谷や川口など埼玉県内のバスもこの辺りを走っていた。東京都の大半の区で見られる「前乗り・先払い・均一運賃」の路線と、「後乗り・後払い・区間別運賃」の路線が混在している。

 もちろん、事前に確認すればよいのだが、普段から均一運賃のバスを利用している人のなかには、

「たまたま埼玉に行くことになったとき、勝手の違うバスが来ていくら取られるかわからず不安だった」

という声も聞かれる。越境地域では、事前に行き先を告げて運賃を支払う「前乗り・先払い・区間別運賃」を採用しているところもある。例えば、東急バスの五反田駅~川崎駅間は整理券方式ではなく、この方式を採用している。

 地域によって対応の仕方が異なり、一般利用者に「郷に入れば郷に従え」とはいいにくい。

「路線バスの利用は難しい」という意見をSNSからビッグデータとして収集・分析すると、

「前払い、後払い、前から乗車、後ろから乗車、先払い、後払いが混在して、複雑怪奇なので路線バスが苦手」

という声は実によく出てくる。先日、出張で京都に行ったとき、走り始めたばかりの観光特急バスは前乗りかつ先払いだった。他の路線バスは後乗り・後払いが多く、初めての利用でドライバーにいわれて戸惑った。

 東京や京都のように多くの人が集まる場所でも、乗車方法や支払い方法がまちまちで、路線バスは難しい乗り物という印象を持たれるのも無理はない。

 実際、区間運賃では採算が合わない地域も多いのだから、路線バスは日本全体で「後乗り・後払い」方式を採用してもいい。わかりやすいユニバーサルデザインである。京都や大阪では、均一区間でも「後乗り・後払い」である。

系統番号の混乱、観光客のストレス増加

路線バス(画像:写真AC)

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 もうひとつの重要な要素は「系統番号」である。実はこれも大きな問題である。また京都の例になるが、最近まで、京都市営バスと京都バスは17系統と73系統の2系統を持っていた。しかも、両社は1日乗車券で協調している。

 最近、京都市営バスの17系統が7系統に、73系統が23系統に変更され、わかりやすくなった。しかし、多くの来訪者はバスのカラーリングなど気にしていない。京都バス17系統は三千院で有名な大原へ、73系統は苔寺への観光ルートだ。

 京都市バス17系統は京都駅から銀閣寺へ、73系統は洛西ニュータウンという郊外の住宅地へ行く。これでまったく違う場所に連れて行かれたという人もいる。事業者ごとに系統番号をつけるのはよくない。しかも、経由地が微妙に違うのに、

・特
・臨
・甲、乙、丙
・A、B、C
・-1、-2

など、枝記号や枝番号を割り振るのは非常に煩雑だ。外から来た人にとっては、枝記号や枝番号を見ただけで不安になるに違いない。そのような質問に答えるのもドライバーの仕事だが、質問されないようにしてストレスを軽減することも大切だ。

 せめて地域内で協力して系統バスの割り当て方法が重複しないようにし、次の段階として難しい枝記号や枝番号をなくす方法を検討したほうがいいのではないか。難解な枝記号・枝番号をなくすか、せめてすべて数字だけにすればわかりやすくなる。

求められる新基準

路線バス(画像:写真AC)

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 インターネット上のSNSなどのデータを拾ってみると、他にも

「運賃機が基本的に5000円札や1万円札の両替に対応していなかったので苦手だ」

という声も見かける。ここまでくると常識がないように思えるが、せめてバス事業者がユニバーサルデザインに努力すれば解決する場面は多い。

「バスに乗るのとはこういうことだ」

という基準ができれば、現場のドライバーの手間も省ける。そうすれば、バス事業者の時間と労力を節約できる。

・事業者間の調整
・事業者と行政との調整

も必要だが、市民にとってわかりやすく親しみやすいバス路線を一緒に作っていくことが、結果的に路線バスのファンを増やし、バス事業の持続可能性にもつながるのだ。

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