「降車ボタンを押したくない」 路線バスに寄せられた異次元クレーム! バス会社を悩ませる「お客さまの声」の中身とは

お客さまの声「大半はクレーム」

バスの降車ボタン(画像:写真AC)

バスの降車ボタン(画像:写真AC)

 インターネットで「路線バス お客さまの声」と検索しても、公開しているバス事業者は実はそれほど多くない。もちろん、日々バス事業者のもとへ届けられて、そのひとつひとつに回答しているのだろう。

 筆者(ネルソン三浦、フリーライター)がざっと見たかぎりでは、丁寧な応対や運転に対する褒め言葉も寄せられているものの、圧倒的に多いのは

「クレーム」

だ。また、ウェブサイトにアップするとなると、制度的、物理的、予算的な理由で応じられない対応もあり、ちゅうちょしてしまうというのが正直なところかもしれない。それをあえて公表するということは、サービスの向上に対する強い意志と決意の表れだろう。

 さて、前置きはこのくらいにして、気になったお客さんの声を紹介しよう。

バスの降車ボタン事情

ネット上の「お客さまの声」のイメージ(画像:写真AC)

ネット上の「お客さまの声」のイメージ(画像:写真AC)

 ひとつめは、「降車ボタン」についての要望だ。

「駅のバス停では降車ボタンを押していないのに止まる。私が降りるバス停でも降車ボタンなしで降ろしてください」

と要望している。回答には、

「駅のバス停は、多くのお客さまが利用されることや主要停留所なので降車ボタンなしでも停車します」

とある。この要望を読んだとき、筆者の長年の疑問を思い出した。子どものときから「そもそも終点で降車ボタンを押す・押さない」で悩んでいて、正直にいうと今でも悩んでいるのだ。

 終点では、誰もが降りるに決まっているので押す必要はないといえばそれまでかもしれない。けど、子どもながらに乗務員が気づかないことだってありうると思い押したものである。というか大人になった今でも、ちょっとだけためらいながら押している。

 終点の場合は“やり過ぎ感”があるが、街中の大きなバスターミナルを経由してさらにどこかに行くバスに乗ったときは、 夫婦漫才コンビ、春日三球・照代の地下鉄漫才の

「考えると、また寝らんなくなっちゃう」

ばりの悩みとなる。降車ホームと乗車ホームが別々にある大きなバスターミナルでは、降車ボタンを押さないとスルーされる不安が拭えないのだ。バス事業者の回答にある「主要停留所なので降車ボタンなしでも停車する」と、どこかに書いてくれればいいのにと思うのは筆者だけだろうか。

 余談であるが、地方に行くとフリー乗降区間を設定した路線バスがある。このバスもどうやって降りる場所を伝えればよいのか悩みの種となるのもいうまでもない。

運転者同士のあいさつNG

「運行中における運転者同士による挨拶の実態調査」(画像:交通事故総合分析センター)

「運行中における運転者同士による挨拶の実態調査」(画像:交通事故総合分析センター)

 ふたつめは、「乗務員同士のあいさつ」である。

 これも正直にいうと、バス事業者に寄せられた声で、乗務員同士のあいさつが禁止されていることを知った。筆者が子どもの頃は、バスがすれ違うときに手を上げてあいさつしており、あこがれですらあった。とにかく乗務員同士のあいさつは日常的な光景だったのだ。

 都営バスは、20年以上前からあいさつを禁止しているといい、国土交通省の「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」にも、

「挨拶(挙手挨拶)などは脇見運転となり、乗客の安全を損ないかねないのでやめさせましょう」

とある。実際、2021年8月28日には、北九州市内を走行する路線バスが、対向車線にやってきたバスドライバーにあいさつをしようと気を取られた結果、前方を走行中のバイクに追突した事故が起こっている。

 この事故の調査・分析を行った事業用自動車事故調査委員会が、覆面で運転者同士によるあいさつの実態調査を行った結果、612人(24事業者)の運転者のうち半数近くの292人(47.7%)があいさつしていたそうだ。

 再発防止策に指導教育の徹底とあるが、あいさつ禁止の指導教育の不十分だけが原因なのだろうか。あいさつを止められない理由が、何かほかにあるように思えてならない。

新500円硬貨と現実問題

バスと硬貨(画像:写真AC)

バスと硬貨(画像:写真AC)

 三つめは、「新500円硬貨未対応」へのクレームだ。

 高度に精算行為の自動化が進んだ今となっては、新紙幣や新硬貨への対応に頭を悩ませるのは、交通事業者だけではないのかもしれない。

 以前、現行の紙幣切り替え時に両替機を更新できないバス会社があったが、間もなく倒産したのは記憶に新しい。経営体力のない中小のバス事業者にとっては、新紙幣や新硬貨は脅威でしかないのかもしれない。

 新500円硬貨は、2021年11月に発行が始まったばかりであり、なかには7月3日からスタートする新紙幣とあわせて対応する事業者もあるだろう。足立区のように、バス路線の維持を目的にバス事業者の負担軽減に向けて補助金を設ける自治体もあるだろうが、全ての中小のバス事業者に補助するとなると“無理ゲー”に近い。

 ICカードなどのキャッシュレス決済は、両替機更新問題を解決するひとつの解であり、国土交通省はキャッシュレス決済に限定した運行も認める方針だ。とはいえ、キャッシュレス決済も、その種類によっては機器更新という新たな負担も生じる。

 直近では、熊本県内で路線バスや鉄道を運行する五つの事業者が、機器を更新するコスト負担からスイカといった全国交通系ICカードを年内にも廃止することで話題となった。広島県の交通系ICカードPASPYも、機器の更新に多額の投資が必要でシステムの維持が困難になったためサービスを終了することとなった。

 今現在は紙幣や硬貨が淘汰(とうた)される前の過渡期であり、両替機とキャッシュレス決済の実装を中小のバス事業者に強いる過酷な時代ともいえなくもない。50年後、100年後には

「その昔はバスに現金で乗っていた」

という昔話となるだろう。

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